第4話 「少しだけ先にいる」彼女

気がつくと、ペンを握っていた。

今更、無駄なのはわかっている。


でも、描かずには居られなかった。

最初は、一気に描き上げた。


でも、世の中は甘くなく、当然選外。

連絡もない。


続いて、描き上げた。

同じく、選外。


でも、決して手は抜かなかった。

気も抜かなかった。

今の自分の持てる、120%の力を出した。


それが、3年くらい続いた。


でも、あきらめなかった。


漫画の神様と言われて方が言っていた。

「漫画家志望者は、作家とも編集者とも、付き合うな」と・・・

それを、ひたすら守った。


でも、選外は続く・・・


「ごめん、もう無理だ・・・」

やってだめなら仕方がない。


そう、思っていた頃、出版社の記者から連絡があった。


「アシスタントとして、勉強してみないか?」

「どの先生ですか?」

その名を聞いて、愕然とした。


その先生は、俺が一番目標としている、大御所の先生だった。

まさか、声をかけていただけるとは思わなかった。

俺は、二つ返事で承諾した。

数日後、初めてその先生と対面する。


緊張する俺に、先生は笑顔で対応してくれた。


先輩スタッフの方も、いい方ばかりで、俺はすぐに馴染む事が出来た。

先生の、お人柄だな。


その間も、自作の執筆は続けた。

まだ、デビューにはいたらないが・・・


しばらくして、先生の作品がアニメ化される事となる。

通常、作家はキャスティングの選択には、口をはさまない。


キャスティングが決定したころ、

「これが、声優さんだが、どう思う?」

先生に、見せられた。


その中に、彼女の名前もあった。

「イメージ通りじゃないですか?」

「僕も、そう思うよ」

先生は、にこやかに答えた。


そして、最初のアフレコの日、先生に声をかけられた。

「一緒に、見学に行こう」

迷った挙句、OKした。


迷ったのは、まだ彼女と顔を会わせられない。

でも、しばらくは彼女の出番はない。

なので、来ないだろう。


なので、安心してOKした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る