ショーの末路 後編
地方貴族の館にある宴会場は混乱を極めていた。
「囲め!早く追い出すんだ!最悪殺しても構わん!」
守衛達がツカサの周りを囲んでいた。
さらにその周りを心配そうな様子で見守る人だかりが出来ていた。
「あー来るなら構いませんけどうちは治療費払いませんからねー」
ツカサは呑気に相手の攻撃を待っていた。
先に攻撃すれば貴族に対する反逆罪で裁かれるからだ。
「このっ!なめやがって!」
「バカっ一人で突っ込むな!」
守衛長はツカサから感じる並々ならぬ力を感じて攻撃しかねていたが、部下の一人が先走ってしまった。
「うぉおおぉ!死ねやぁあああぁ!」
守衛は殺意を込めて槍をツカサに突き立てた。
「……あ?」
槍先はツカサが親指と人差し指でつかんでいた。
「はっ!」
「あぎゃっ!」
ツカサは槍を離さない守衛を槍ごと持ち上げ、自分の近くに引き寄せると、軽く蹴飛ばした。
しかし身体強化したツカサの蹴りは守衛の意識を飛ばすのには十分だった。
床を転げまわり止まった頃には守衛は動かなくなっていた。
「安心してください。気絶してるだけです」
ツカサは以前身構えることもなく突っ立っていた。
「くっ!全員突撃!」
「「「せいっ!!」」」
今度は囲んでいた守衛全員が、守衛長の号令でツカサに向けて一斉に槍を突き出した。
「よく訓練された守衛ですねっ」
ツカサはそう言いながら同時に突き出された槍数本を飛んでかわす。
同時に空中で体をひねると、その勢いで囲んでいた守衛全員に回し蹴りを当てた。
「「「ぐあっ!」」」
「くっ!」
咄嗟に防御した守衛長を除く守衛が全て吹き飛ばされ、床を転がり気絶した。
「もう一人じゃ無理でしょ。俺はあんたらに危害を加えに来たわけじゃ無い。ここらで引いてくれません?」
「これでも主人に恩義ある身、引くわけにはいかない!」
「よくぞ言った!ここで奴を倒せば給金は望むままだぞ!」
諭すツカサに対し未だ戦意を失わない守衛長。
守衛長の意思に歓喜する地方貴族。
「貴方は俺の強さも分かってるでしょうに……わかりました。来てください」
ツカサは今度は守衛長に対して身構えた。
「でやあぁああ!!」
守衛長は渾身の力でツカサに向けて槍を突き出した。
「しっ!」
ツカサはこれを素早くかわし反撃の正拳突きを守衛長の腹部に打ち込んだ。
「あがっ……がふっ!」
「すみません。貴方は手加減しずらかった。骨が折れたかも」
ツカサの謝罪を聴き終わらぬうちに守衛長は気絶した。
「きゃあああ!助けてぇええ!」
「守衛がやられたぞぉ!逃げろぉ!」
周りを取り囲んでいた客人達は大慌てで会場から逃げ出し始めた。
「き、貴様っ!よくも!なぜこんなことを!?」
「あれ?確か貴方はアインさんを守る為守衛を呼んだんじゃあ?」
顔を真っ赤にして激昂する地方貴族。
ニヤリと笑ってアインの事を話題に出すツカサ。
「そ、そうだ!助けて!あんたみたいな地方貴族は僕を助けなきゃ中央部になんて行けないんだから!」
「は?なに言ってるんだ貴様?」
アインは地方貴族に助けを求めたが、彼はアインをどうでもいい存在を見る目で見た。
「邪魔をするな!今はあの金貸しがうちの守衛どもを倒した事が問題なのだ!」
「え?僕のことを助けるためじゃあ……」
「はぁ?なぜ貴様などを助けなければならん!?」
脂汗をかきながら何かおかしな状況に陥っていることにアインは気付き始めた。
「僕の話を面白いって言ってたじゃ無いですか!む、娘さんを預けるとも」
「貴様のくだらない話か!聞くに耐えなかったわ!あんなものが金になるわけがないだろ!それにだれが貴様なんぞに娘をやるものか!娘は中央貴族の嫡男にあてがうと決めておる!」
アインはさっきまで満面の笑みで聞いてくれてた自分の話が下らないと言われたこともショックだったが、それ以上に感じる違和感に恐怖を感じていた。
「僕がその中央貴族の嫡男でしょぉおおお!!」
「きっ!貴様などがそんなはずないだろ!離せっ!」
アインは違和感の正体に気づいた。
しかし信じられず思わず地方貴族に掴みかかったが、引き剥がされてしまった。
「僕が……貴族じゃない……」
アインは全身の力が、血液がどんどん抜けていくような感覚を感じた。
「あとで必ず後悔させてやる!金貸しめ!出て行け!貴様もだ!」
「あ、あぁあああぁぁああ……」
アインは引きずるような足取りで宴会場から、そして地方貴族の館にから出て行った。
涙、鼻水、脂汗を流しながら。
「じゃあ一緒に行きましょっか。アインさん」
「あ?」
目の焦点が合わない表情をしたアインはツカサに声をかけられそちらを見る。
「これからは金山で坑夫として長い間働いてもらいますからね」
ツカサは笑顔でアインにそう告げた。
「教えてくれ……」
「ん?」
「お前が俺に何かしたんだろ?」
アインは力なくツカサに掴みかかった。
「貴方の『貴族の嫡男』という地位を奪いました」
「!!……か、返してくれ……返してください……お願いします……」
アインはツカサを掴んでいた手を離し、ツカサの足元で土下座をした。
「俺の能力は奪ったきりで返せないんです」
「返してください……返してください……」
無慈悲に言い放ったツカサだが、その声が聞こえないのか受け入れられないのか、土下座を続けるアイン。
「それにこれはご両親の意向でもあります」
「へ?」
土下座を続けていたアインが顔を上げた。
時はアインが両親の元を去った直後に遡る。
父親の部屋でアインの両親が座る中、ツカサは二人を背中から竜の目で覗き、離し始めた。
「たとえ息子が『貴族の嫡男』という地位を失っても貴方達は構わないですか?借金を返して帰ってきた息子を愛せますか?」
「「……」」
ツカサはそう告げながら竜の目で二人の心の内を探った。
無言を貫く二人の胸には、迷いや葛藤が感じられた。
「構いません。私はそれでも息子を愛します」
「私もですわ。貴族でなくなったとしても愛しい息子ですもの」
二人の背中越しに覗いた心は若干の迷いや不安が見えたが、それ以上に深い愛情に包まれていた。
「わかりました」
ツカサは心の底から微笑んだ。
「そ、そんなことを父上と母上が……」
「ええ……貴方にどんな形でもいいから自分の力で生きて欲しいと願っていました」
アインは涙を流しながら親の本当の願いを知った。
「だから貴方の力でお金を返しましょう!今が最後の機会なんですよ!」
ツカサはしゃがみこんで地面に座り込んだアインに向かって力強く言い放った。
「うぐっ……ぐずっ……わ、わかりました……!」
アインは泣きながら何度も頷いた。
「ねぇ知ってる?最近金山で休み時間に坑夫へ面白い話を披露してる坑夫がいるってやつ」
「知ってる知ってるー私も一回会ってみたいなー」
ここは竜の鱗の一階受付、看板娘の二人組は暇になると噂話に花が咲く。
「あっ!いらっしゃいませ!今回はどういった……ってツカサさんじゃないですか!」
「すいません。今の話を詳しく教えてもらっていいですか?」
ツカサも噂話に加わりますます受付は盛り上がりを見せた。
ショーの末路は誰にも分からない。
一見終わりに見えたそここそが、本当の始まりなのかもしれないのだから。
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