ショーの末路 中編

 ここはアインの父親の部屋。

 豪華ながら派手すぎず、堅実さを兼ね備えた内装となっていた。

 部屋の中心にある机にアイン、向かって両親が座っていた。


「アイン……大事な話がある」

「……なんでしょう父上」


 神妙な面持ちの両親に嫌な予感を感じつつアインは話を聞き始めた。


「我が家から出て行って欲しい。そして竜の鱗と相談しながら借金を返せ」

「……は?」


 アインは状況が掴めなかった。

 ただ全身を駆け巡る寒気のようなものを感じ、額から脂汗が滲むのを感じた。


「な、何をおっしゃっているのかよくわかりません!家を出ていくのは構いません。ですが借金など……我々貴族に恩を売ると思えば返さずとも良いはず……」

「借金を返せないのなら最悪貴様の身柄を竜の鱗に預ける」


 アインの脂汗は額はおろか顔中に広がり、顔面蒼白といった具合だった。


「こ、こんな理不尽があってたまるか!僕は貴族の嫡男だぞ!たとえ二人が僕を見限っても助けてくれる貴族がいるはずだ!」


 ついに逆上したアインは机を叩き席から立ち上がると父親の部屋から出て行った。


「アイン、すまない。だがこれもお前の為なのだ。このような形でよろしかったかな?」


 父親はアインのことを少し思った後、二人しかいないはずの部屋で、誰かに問いかけた。


「ええ。これで彼は他貴族に助けを求めにいくはずです。とことん情けない男だ……おっと親御さんの前で失礼しました」


 すると父親の後ろから少しづつ透明化を解除したツカサが、アインのことを嘲笑しながら現れた。


「いえ、息子のことは私も情けなく思っていた」


 父親も軽く笑いながらツカサに答えた。


「ご機嫌を損ねなくて何よりです」

「それよりこれからどうするんですか?貴族の権力を盾にすれば金貸しの催促など……」


 トアル国の貴族は権力階級としての権威が強く、通常一般人が貴族に『金を貸す』というのは『差し上げる』と同義なのだ。


「一つお伺いしておきたいことがあるんです」

「なんでしょう」


 ツカサの片目が金色に変わる。

 そして彼は二人に問いかけた。


「たとえ……」






「おぉよく参られた。君の父君とは是非縁を結びたいと思っていたところだったのだ」

「ありがとうございます!父上も喜ぶと思います」


 ここは首都から少し離れた場所にある館でそこにいる地方貴族にアインは世話になろうとしていたのだった。


「ささ、歓迎の準備はもう出来ておる。早速君のショーとやらを見せてくれ」

「ええ!おまかせください!楽しい時間を提供致します!」


 二人は館の中に消えて行った。

 それを影から覗く瞳が有った。





 ここは地方貴族の館。

 そこではアインを歓迎する宴が繰り広げられていた。


「……というお話でした!」


 アインは有頂天になっていた。

 彼がする話に、来場していた客人達は大笑いし、万雷の拍手を向けてくれたからである。


「いやー素晴らしいショーだよアイン君!」


 地方貴族は満面の笑みでアインのショーを賞賛した。


「ありがとうございます!やはり時代はこういう物を求めてるんですよね」

「それで宴も半ばというところなんだが娘を紹介したくてな」


 地方貴族は少し下卑た笑みでアインを見ていた。


「娘さんですか?」


 アインはキョトンとしていた。

 すると地方貴族の後方から無駄に派手なドレスを着込んだ少女が現れた。


「ほら、ご挨拶なさい」


 地方貴族に押される形で会釈する少女。

 少女はアインの肥大した腹部や脂ぎった顔を見て、一瞬顔を引きつらせた。


「よ、よろしくお願い申し上げますわ」


 しかしそこは貴族の娘。

 すぐに張り付いたような笑みをたたえて挨拶をした。


「え、えへへっ。あ、アインです」


 ニタニタしたいやらしい笑みを隠さずアインは少女に挨拶をしながらその身体を品定めしていた。

 その時、地方貴族がアインの耳元で囁いた。


「もし君がよければ今夜娘を好きにしていいぞ」


 アインは顔に血が上り顔がニヤつくのを止められなくなった。

 この時アインは間違いなく幸せの絶頂にいただろう。


 その時、黒髪の給仕がアインに話しかけてきた。


「ご希望のドリンクなどはございますか?」


 アインは少しムッとした。

 今夜、少女をどうするか考えていたのにと。


「いらん」

「そうですか。お聞きしたのですがアイン様は竜の鱗とやらの借金を踏み倒したとか」

「……そうだが?」


 アインはこの給仕、ずいぶん自分に話しかけてくるなと考えた。


「ではこれからも返すつもりはないと?」


 給仕はどこからか手帳を取り出し何かを書き始めた。


「当たり前だろう!僕は貴族の嫡男だぞ!貴様ずいぶんズケズケと人の話を聞くじゃないか!ここの主人に暇を出すよう頼んでやってもいいんだぞ?」


 アインはニタニタ笑いながら突っかかってくる給仕を脅してやった。


「いえ、もう大丈夫ですよ」


 給仕は書き終えたのか手帳を閉じると、衣服の端をつかみニヤリと笑った。


「はっ!」


 勢い良く衣服を捲り上げたその下には、事務用に重きを置いた機能的な作業服。

 胸元には金で作られた竜の鱗を模したバッチが付けられていた。

 単発の黒髪の陰で茶色の瞳がアインを覗いていた。


「あ!あの格好は!金貸しの!」

「たしか竜の鱗とか言ったはず……」


 会場にいた客人たちが騒ぎ出す。


「っ!守衛を呼べ!ひっ捕らえろ!」


 地方貴族が命じると会場中に緊急事態を知らせる警告音が響き渡り、ますます会場は混乱を極めた。


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