ショーの末路 前編
「どうも!アインです!今日も僕のショーに来てくれてありがとうございます」
アインと言った男は小柄でぶくぶくと太った体を貴族然とした衣服に無理矢理詰め込んだ姿をしていた。
脂ぎった顔でニタニタと笑いながら客に向かって話しかけていた。
会場はそこそこの人だかりだがそのほとんどが、その日も満足に生きられるか怪しい浮浪者が多かった。
「またの来場おまちしてます!またね!」
会場の一部、老紳士が全力で拍手するのを除いて会場からはまばらな拍手が聞こえるばかりだった。
「さて、ご来場いただいた皆様には気持ちばかりですがお食事の用意をさせていただいております。どうぞこちらへ」
アインが居なくなるのを確認した後、老紳士は準備していた食事場へと案内した。
すると待っていましたと言わんばかりにゾロゾロと会場の人々が食事場へと向かった。
食事場には確かにパンにスープと簡素ではあったが、普段浮浪者の彼らが味わうことのできないレベルの食材で作られたそれは、彼らをアインのつまらない話に付き合わせるだけの魅力があった。
「あぁパンは一人一つ、スープは一杯までです!全員回って残ったら再度配布致します!」
老紳士がそう言うが彼らはパンを奪い合いスープ皿をお椀のように鍋に突っ込み何度も飲み干した。
召使い達も精一杯それを抑えようとしたが彼等の暴走は収まるところを知らなかった。
「はぁ、ぼっちゃまの戯れはいつになったら収まるのやら……」
老紳士は額に流れる汗を純白のハンカチで拭いた。
「アイン……お前のお遊びには執事もメイド達も苦労しているようだが」
豪華なシャンデリアに照らされた広々とした一室に、並べられた料理をナイフとフォークで丁寧に食していく壮年の男がアインに話しかける。
「お遊びではありません父上!あれは立派なショーです!僕の話を聞きに多くの人がやって来ますよ!」
一方皿の上のものを汚らしく平らげ口の中に食べ物を含んだまま話すアイン。
「それは恵まれない民が日々の糧を求めて来ているに過ぎん。いい加減目を覚ませ。誰もお前の話を真剣に聞くものなどいないのだ」
父上と呼ばれた男性はナプキンで口元を拭きながら息子を諭す。
「そんな事は有りません!んぐっ!ぷはぁ……一度父上も来てみてください!」
アインは果実酒を飲み干した後父を勧誘した。
「遠慮させてもらう。私にも仕事があるのでな」
「あっ!お待ち下さい父上!」
父親は立ち上がると、半分立ち上がった息子の制止を無視し、自分の執事を連れて部屋から出て行った。
「父上は何もわかっちゃいない……僕の話術があの浮浪者どもを魅了してるのに……」
残されたアインは再び席に座り、食事に当たり散らすかのように貪った。
「では行ってきます母上」
アインは玄関で母親に挨拶をした。
「アイン……大事なお話があるの……あなたのショーの費用なんだけど」
アインの母親は言いづらそうに彼へ話しかける。
「それなら前も言ったじゃないですか。いつか貴族のパトロンがつくから、それまで待ってくれと」
「そんなものいつつくのよ……運営費もタダじゃないの。それにあなたお父様の仕事を学ぼうとしないじゃ有りませんか」
「僕はショーで食っていくんです!だから父上の仕事を学ぶ必要は……」
「あなたそれ本気で言ってるの!?」
母親はヒステリックに叫んだ。
「あぁうるさいなぁ。もう時間ですから行ってきます!」
「待ちなさいアイン!アイン!」
母親の呼びかけを背にしながらアインは会場へ向かった。
「というワケでして……恥ずかしながらうちの息子の借金をそちらで引き受けて頂けないかと……」
「私からもお願いします。二人ではもう息子を立ち直らせる事はできそうに有りません……」
ここは竜の鱗本社最上階社長室、平たくいうとスケイルの部屋である。
アインの親達はスケイルに彼の処遇を頼みにきた。
「いやしかし貴族様なら息子の借金など簡単に返せるのでは……」
赤い短髪を右手でかき乱しながらスケイルは二人に問いかける。
「たしかにそれは可能です。しかし息子ももう二十四。責任を自分で追うべきだと思いましてこうした次第です」
「ここは返済させることにおいては右に出るものなしの金貸しだと聞いたので伺いましたのよ」
座り込んだ親子はどこか小さく見えた。
まあ対面にいるスケイルが大柄なこともあるだろうが。
「……本当に息子さんがどうなっても構わんのですね?最悪金山で坑夫労働してもらうことになりますが」
スケイルは口元に手を当てその赤い目で二人を軽く睨んだ。
「……構いません。責任は我々が負います」
父親は少し額に汗を流しながら返答した。
「わかりました!息子さんの借金の件は全てウチで預かりましょう」
「アイン……!」
「泣くな……まだアインが死ぬと決まった訳でもあるまいに……」
スケイルの承諾に対して、母親は父親に泣き崩れ、彼はそれを慰めた。
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