第13話 「貴方は今日から師匠です」

 2人でミナイアス平原へと向かう。途中南門で外出の手続きを行いコブセ村の方角へ足を進める。

 大したモンスターも出現しない楽な旅だったはず・・・だが。

 「ユウ君うしろー」

 ナナの声に反応し、後ろから襲いかかるモンスターの突撃をすんでのところで横に躱す。

 「油断しない!今度は前だよ」

 先程とは別の個体が空中から襲いかかる。

 今度は認知が早かったため、バックラーで突撃を防ぐ。

 「ブスッ」、バックラーに突き刺さる鋭い針、モンスターは昆虫型のミディホーネット、所謂大きなスズメ蜂だ。人の頭くらいの大きさで、普通のスズメ蜂同様お尻から出ている大きな針が武器だ。針には小型の動物であれば一撃で動けなくなる程の神経系の毒が含まれている。ヒューマンサイズならば動けなくなることはないが、動きが鈍くなることは間違いなく、集団と出会った場合には交戦を避けた方が無難、と冒険者ノートに書いてあったっけ。針が抜けずにもがいてる1体をロングソードで両断し、残る3体の方を向いてロングソードを構える。

 (どうも最近引きが強いな)

 ミディホーネットは致死性の毒を有していないので、1体であれば冒険者でなくても対処できると言われている。けれど集団となるとそうもいかない。神経系の毒も複数回刺されれば動きを奪われ、雑食性の彼らの食料とされてしまう。また、彼等は集団戦を得意としており、複数体で絶え間なく空中から襲いかかることで獲物を追い詰めていく。そんな彼等の集団時の適正職業熟練度ジョブレベルは2、もっとも、サイズが大きく空を飛んでいるので、普通は遠目から気付いて避けることが出来るんだけど、今回は運悪く彼等の食事中に出くわしてしまった。彼らが仕留めたガゼルを仲良く5匹で美味しく頂いている最中に「こんにちは」って。不運な出会いはガゼルさんの弔い合戦よろしく、どちらかが全滅するまでの殲滅戦に突入。もっともこっちは1人だけどね。なんとか2体は倒したものの、まだあと3体は残ってる。仲間を殺されて怒っているのか、羽音がさっきより大きくなり威嚇されている気分。

 (くっそー、こんな所で止まってられるかー)

 「ガゼルさんに謝れー」

 意味不明な叫びで自分を鼓舞し、残りの3体に斬りかかる。

 「お疲れ様」

 なんとか5体全てを片付け草原に座り込む僕に、バックパックから水筒を取り出し運んでくれるナナ。

 「ありがとうナナ」

 水筒から水を口に含みゴクリと一飲み。

 「ユウ君、剣の扱い上手くなった?」

 まだたった2日だよと笑いながら水筒の蓋に水を注いでナナに渡す。

 「相手は駆け引きのない低レベルのモンスターだからだよ。まっ、素振りの成果はあるかも」

 なるほどねと飲み終わった蓋を片付けるナナ。水筒をバックパックに仕舞い立ち上がる。

 「ねえ、このガゼルの角って、結構立派じゃない?」

 言われて見ればお亡くなりになっているこのガゼルさん、随分立派な角をお持ちになっている。職業支援センターの換金所に持って行けば、それなりの金額になるかもしれない。少しでも稼ぎが増えると有難い僕は、弔い合戦の戦利品としてガゼルさんの角をバックパックに仕舞い込む。

 目的地まではまだ距離がある。ナナを肩に乗せコブセ村の方に向かう。

 途中、金色に輝く前歯を持つ貴重種のゴールデンマウスに遭遇したり(逃しちゃったけど)、シルバーウルフの群れに遭遇したりと相変わらずの引きっぷりを発揮し続けたが、なんとか採取ポイントに到着した。採取の前に昼食を取ることにして、バックパックから昼食用のサンドイッチを取り出し1つをナナに渡す。

 「ユウ君はさ、レアモンスターハンターを目指しても良いかもよ」

 真顔で言われると少し引いてしまうが、きっと本気なんだろう。

 「ナナは僕に勇者を目指させたいんじゃないの?」

 サンドイッチを口に運ぶ手を止めるナナ。

 「・・・勇者だって先立つものは必要でしょう?良い稼ぎになるわよ」

 (きっと忘れてたよこの妖精は・・・)

 「まあ、お金は大事だけどね。・・・貴重種って普通の個体より強いでしょ?今の僕じゃね」

 さっきのゴールデンマウスも戦闘力は弱いのだが、逃げ足はかなり早く、まんまと逃げられてしまったのだ。

 ナナは最後の一欠片を口に放り込み、体に着いたパン屑を叩き落としている。

 「・・・鍛練が先ね。やられる前に強くなってね」

 笑えない励ましを受けて苦笑いを浮かべつつ、残っていたサンドイッチを口に放り込み目的のアナミス草を探し始める。

 30分くらい探しただろうか、思ったよりも見つからない。

 「ユウ君、こっちの方にあるのがそれじゃない?」

 少し先の岩陰からナナが呼んでいる。呼ばれた所に行ってみると、アナミス草が群生していた。

 「やったよ。これだけあればクエストクリアになるよ」

 ドヤ顔でこっちを見ているナナ。

 「ナナ様のお陰です。お礼はチキポンで如何でしょうか?」

 「うむ、よろしい」

 2人で笑い合い採取を進める。ひとつひとつを丁寧に扱わないと効果が下がると言われていたので、意外と採取に時間が掛かる。1時間くらい採取を続けてもまだ辺りにはアナキス草が残っていたが、持ってきた採取用の袋が一杯となったので街に戻ることにした。

 帰路は往路と異なりまったくモンスターに遭遇せず、順調に街まで辿り着いた。南門を潜り抜けるといつもの街並みが僕達を迎えてくれる。

 メルキアの南門を潜り抜け、懐中時計を確認する。時計の針は午後4時を少し過ぎた時刻を示していた。

 「うーん、大分頑張ったわね」

 ナナが肩の上で伸びをしている。

 「ナナのお陰で採取が捗ったよ。まだ少し時間があるから、夕食の買い出しを済ませよう」

 2人で中央ブロックにあるパン屋さん「女神のパン屋さん」に向かい、いつも食べている丸パンを2袋購入する。この丸パンはメルキアで流行している比較的新しい菓子パンで、保存が利く割りに甘みがあり、丁度良い大きさも相まって子供達のオヤツに大人気だとか。

 僕もナナも気に入っており、特にこの店「女神のパン屋さん」の丸パンは絶品だと思っている。

 2袋で80ルピア、安くはないけど外で食べると思えば断然こっちだ。

 「ユウ君、チキポンも忘れないでよ」

 勿論覚えているよと答え、ルームメイトのデニスさんが働いている商業ブロックと住居ブロックの間にある総菜屋「俺達の食卓」に向かう。総菜屋「俺達の食卓」はチェーン店であり、本店は首都にあると聞いている。有名レストランのシェフが、有名店の味が気軽に食べられるようにと始めた総菜屋だが、味と値段のバランスが絶妙でたちまち人気店になり、今や全国展開をするに至っている。ちなみに名前の由来は、総菜屋の立ち上げに協力してくれたシェフ達と共に歩んでいくという意味が込められていて、創業当時のメンバーがたまたま男性だけだったことからきているらしい。もっとも、従業員は男性だけではなく女性も働いていて、職場環境の評判も良いらしい。どうしてそんな店でデニスさんが働いているのかは分からないが、この店で売っているチキポンは絶品であり、ナナの大好物でもある。

 「こんにちは」

 どうやらデニスさんは不在のようだ。見慣れない店員さんにデニスさんについて尋ねると、所用により10日間ぐらいお休みするからと、助っ人で自分が他のお店から派遣されたのだと教えてくれた。お礼を述べチキポンを2つ買いホームへと戻る。

 キッチンで野菜スープを作り、夕飯の準備を済ませる。

 「ナナはどうする?」

 講習についてくるか尋ねる。

 「基礎体力でしょ?あまり見てても面白くなさそうだから留守番してるわ」

 貴方が申し込んだんでしょ、という言葉を飲み込み、クエストのクリア報告があるからことから早目に職業支援センターに向かうことにした。

 午後5時を過ぎ街が暗闇はじめ、空が一日の終わりを告げようとしている。

 職業支援センターへ向かうメインストリートには、クエスト帰りとおぼしきパーティーや、仕事帰りの街人など、多様な人達で賑わっている。

 人混みをすり抜け職業支援センターへと到達した。

 クエスト報告窓口に行き、採取した薬草が詰まった袋を渡す。十分な量と認められ、クエストクリアと認定された。ただ、全体の採取量としては不足しているとの話しだったので、継続してクエストを受注することにした。

 報告ついでに戦利品であるガゼルさんの角を換金したら、3,000ルピアという思わぬ高額となり、今日一日でクエストクリア報酬と合わせて4,000ルピアの収入となった。

 暖かくなった懐に一人ほくそ笑み、使い途を考える。大分バックラーが傷んできたな、そろそろ新しくしたい。いっそ少し大きめのスモールシールドにするか、高級品でなければどちらも購入出来るだろう。折角だからこのまま職業支援センター内にある武具店を見てみることにする。職業支援センター内にある武具店「自分への投資」は、職業支援センターが換金により入手した素材を使用した武具の販売を行っており、品揃えは悪いが比較的安価で、たまに掘り出し物に出会えることもあることから、なかなかの人気を博している。

 「いらっしゃいませ」

 職業支援センターの制服に身を包んだ店員さんからの挨拶を受ける。

 店内は武器ブロックと防具ブロックに分かれており、防具ブロック内の一角にある盾コーナーに向かう。今僕が使用しているのは木製のバックラーであり、軽い分防御力は低く、素材も木製の為大分傷ついている。

 (少し重くなってもいいから丈夫なものがいいかな)

 同じ木製のバックラーだと1,000ルピアから販売されている。鉄製だと最低で3,000ルピアか・・・少し大きめの小型盾だと、・・・5,000ルピア。

 「あれ、ユウ君どおしたの?盾を新調するの?」

 振り返ると普段着のマリー姉さんが後ろに立っていた。

 「あっ、こんばんはマリー姉さん。大分盾が傷ついてきたので、新調しようかと思っていたんですが・・・」

 マリー姉さんは僕が見ていた値札を確認し、納得した様子だ。

 「まあ、鉄製は少し高くなるからね。ユウ君は小型盾が好きなの?」

 「好きというか、他の物を扱ったことが無いですし。・・・サイズと共にお値段も上がりますから」

 「まあね。でも高級品になると、サイズよりも製作者や加護の内容の方が値段に影響するから、なるべく早く自分に合った形を探すといいよ」

 マリー姉さんはクエストの確認ついでに武具店に立ち寄ったらしく、この後大事な用事があるからと名残惜しそうに去って行った。

 「自分に合った形か・・・」

 守りを固めるよりは攻める方が好きな自分がいる。かといって盾がないと落ち着かず、二刀流なんて勇気はない。大型盾は余程の腕力がないと行動が阻害される。

 (小型か中型かな?)

 お財布の中を覗く、5,200ルピアが今の財産だ。思い切って鉄製の小型盾、スモールシールドを購入することにする。少しだけだがサイズアップし、素材は鉄製へとランクアップ。ちょっとずつだけど前に進んでいる気がする。

 お財布の中身は寂しくなったが、気持ちは前向きになれたと自分に言い聞かせ、基礎体力の講習へと向かう。

 基礎体力の講習は二時間ぶっ通しでひたすら体を酷使する。剣技の講師とは打って変わり、超マッチョな黒々としたお兄さんが、時に厳しく、時に優しく叱咤激励してくれ、一寸足りとも休ませずに訓練を継続させる。何回か講習を受けた人に聞くと、初めは苦痛だが段々と慣れていき、いつしか達成感が苦痛を上回り、気付くと癖になるそうである。

 なんとか講習を乗り切りシャワー室に向かう。汗まみれの体をシャワーで洗い流し、よろよろと廊下に向かう。飲み物コーナーで職業支援センター特製のコーヒー牛乳を購入する。このコーヒー牛乳には、ポーションが少し混ぜてあるらしく、疲労回復に効果があると冒険者達に人気がある。

 「プハー、美味い」

 コーヒー牛乳を一気に飲み干し、空き瓶を返却口に置く。元々甘いコーヒー牛乳だが、ポーションの甘味も加わり更に甘味が増している、それでも疲れた体には丁度良いみたいだ。

 「濃い一日だったな」

 帰路に着きながら今日一日の出来事を思い起こす。

 (充実した一日だったな。明日からは魔法講習も加わるのか)

 女神様へのお祈りを済ませ、ナナと夕食を共にしながら一緒にいなかった時間に起きた出来事を報告する。2人で明日のスケジュールを確認し、就寝することにした。

 壁掛け時計の針が指し示す時刻は午後9時半、一瞬で僕は眠りに落ちた。


 翌朝、目が覚め時計を見ると丁度4時だった。

 ガルトさん達との約束を守るため急ぎ身支度を済ませる。ナナは熟睡中なのでそっとしておき静かに自宅を出る。

 閑散としたメインストリートを、急ぎ職業支援センターへと向かう。

 職業支援センター内の中央広場に辿り着くと既にガルトさん達が自主訓練を始めていた。

 「遅いぞ新入り」

 「すいません」

 (明日は3時半に起きよう)

 ガルトさん達とみっちり7時まで自主訓練と講習で汗を流し、汚れた身体をシャワー室で洗い流してから魔法講習へと向かう。講習窓口で今日の講習会場を確認する。

 「二階にあるアレキス先生の研究室か」

 少し早いが遅れると怒られそうなので、アレキス先生の研究室へと向かう。

 扉の前に立つと中から声を掛けられる。

 「空いているよ、入りなさい」

 アレキス先生の声だ。

 「失礼します」

 言われるがままに中に入る。

 部屋の中央にある大きなテーブルの前でアレキス先生が手招きしている。

 「座りなさい」

 促されテーブルの側にある椅子に腰掛ける。

 「アレキス先生、これから何をするのでしょうか?」

 僕の前に立ちテーブルの上から水晶球を引き寄せる。

 「ああ、講習の前にまずいくつかの質問に答えて欲しい」

 (いや、僕の質問は?)

 「目を瞑って、リラックスするんだよ」

 諦めて目を瞑る。

 「君にとって魔法とはどのようなものかい?」

 突然の質問に驚きながらも思考を開始する。

 「僕にとって魔法とは・・・・・・・・・」

 (僕にとって魔法とは不思議な力、物の理に縛られない自由な力、不可能を可能とする奇跡の力)

 「君は魔法に何を求める?」

 (僕は魔法に何を求める・・・・・・弱い自分を変える力が欲しい、仲間を助けることが出来る力が欲しい、自分の意思を貫く力が欲しい、・・・・・・そう、力が欲しい)

 「君は魔法を使って何を成し遂げたい?」

 (僕は魔法を使って何を成し遂げたい・・・・・・目の前にあるクエストを攻略したい、理不尽な力に立ち向かえず困っている人達を助けたい、・・・・・・そう人々に希望を与える勇者になりたい)

 「最後に、君にとって魔法とは何色?」

 (僕にとって魔法とは・・・・・・激しく相手を焼き尽くす炎の赤?全てを凍てつかせる吹雪の白?・・・・・・いや、決まった色は無い。・・・無色も違う。光、そう光だ)

 「パチン!」

 「あっ」

 どうやら眠っていたらしい。目の前で不思議そうに僕の顔を覗き込むアレキス先生がいる。

 「すいません、寝てしまいまして」

 「いやいや、眠りの魔法を掛けたのだから、眠って貰わないと困るよ」

 「へっ」

 笑いながら話しを続ける。

 「説明していなかったな。今のは夢見の儀といって、対象者の魔法適性を見る為の儀式なんだ」

 「はぁ」

 「まあ、必ず行う必要もないし、出来る術師も限られているんだがな」

 「それで、どんな結果だったのでしょうか?」

 折角見てもらったのだから、結果が知りたい。

 「うーむ、それなんだが、不思議とあまり分からなかった」

 顎をさすりながら申し訳なさそうにするアレキス先生。

 「強いて言うなら、全てに可能性がある、・・・かもしれない」

 えっ、一瞬期待してしまった。

 まあ、悪い結果ではないから気を落とさないように言われ講義に入る。

 「まずは魔法について理解を深めるところから始めよう」

 魔法とは、世界中に溢れている生命の力「マナ」を利用して色々な事象を引き起こすことを指す。マナの力を利用するには、術者の精神力と術式と呼ばれる儀式が必要であり、術式は複雑な図形と詠唱の組み合わせにより成り立つ。一般的な魔術士が、空中に図形を描き呪文を唱えるのは、魔法を発動するための術式を遂行しているためである。

 アレキス先生の説明は簡潔で分かりやすく、不思議と頭に響く感じがする。

 「ここまでが一般論だが、次からは才能次第で可能性が広がる話しをする。・・・勇者も夢じゃないぞ」

 「・・・」

 集中力次第で術式は省略出来る、正確には心の中で描くことができる。図形を心に思い浮かべ、詠唱文の文字イメージを重ねる。これが出来れば術式は一瞬で完成させることが出来る。

 「例えば・・・」

 一瞬で僕の前に火の玉が現れ消える。

 「こんな感じだな。まあ、簡単な魔法は機械クォーツ技術の進歩で代用できるがな」

 術式は高度な魔法になるほど複雑になるとのことで、術式の省略の難易度も魔法の難易度に依存するそうだ。

 アレキス先生から開かれた魔術書を渡される。

 「そのページにはフラッシュの術式が記載されている。まずは通常の方法でやってみよう。コツは成功した場面をイメージすることだ、図形は紙に描いても良いぞ」

 言われたとおり図形を紙に描き、詠唱文を唱える。

 「万物の源なるマナよ、私に眩き光の力を、フラッシュ」

 差し出した手の先から眩い光が一瞬輝く。

 あっ、出来た。

 「上出来じゃないか、精神集中の訓練を行っていないわりには良く出来たな。次は、今の術式を心の中でやってみろ。大丈夫だ、出来なくても問題ない。何事も経験だ、術式を記憶してから始めろよ」

 「わかりました」

 初心者とかあまり気にしないのだろう。とりあえずやってみよう。

 心の中で図形を思い浮かべる。

 こんな感じだったか?

 次は詠唱文だな・・・よし、発動だ!

 差し出した右手の掌から蛍大の光が発せられる。失敗か・・・

 「凄いな、初めてで発動させるとは素質があるかもしれないぞ」

 大きな右手で背中を叩かれる。これがアレキス先生流の激励なんだろう。ケホケホとむせながら立ち眩みを覚える。

 「おっと」

 アレキス先生に支えられ椅子に座りなおす。

 テーブルにあるビーカーの一つを渡され、飲み干すように促される。渡された緑色の液体は、すんなり飲むには抵抗があるが先生から渡された物を信じない訳にはいかない。

 目を瞑り一気に飲み干す。あれっ、思ったより不味くない。いやっ、さっきまでの頭の重さが軽くなっている。

 「楽になったか?今のはマジックポーションだ。精神力を回復させるやつだな」

 「・・・・・・精神力ですか?」

 「そうだ。魔法の行使には精神力が必要なのはさっき説明した通りだが、術式を省略する場合には、更に多くの精神力を必要とする。今日初めて魔法を使った君には、術式の省略は負荷が大きかったようだな。まあ、気絶しなくて良かった」

 過度に精神力を消耗すると気絶することがあるらしい。

 「結構大雑把ですね師匠」

 凄い人ということはこの短時間で理解できた。色んな意味で敵わない人だとも思った。

 そして付いて行こうとも思った。今から僕の師匠だ。

 「師匠か、面白いな。でも弟子はとらない。勝手に名乗る分には構わんぞ」

 笑いながら手を差し伸べる。大きな手だ。物理的な大きさのもあるが、偉大さを感じずにいられない。職業支援センターの職員さんが言っていた意味が分かった気がした。

 差し出された手を強く握り返す。

 「ありがとうございます。いつか本物の弟子と認めてもらえるよう頑張ります。師匠」

 残る時間は、魔法学の基礎と精神力を上げる精神集中法を学んだ。

 「この本を貸してやる。初級魔法だがマスターすれば出来る事が増えるぞ。むろん、省略詠唱でだ」

 「ありがとうございます師匠」

 「精神集中の訓練も忘れるなよ。君にはまだ基礎が無い。基礎を疎かにすれば戦闘中に気絶することになるぞ」

 「分かりました。毎日朝晩、御指示通り行います」

 「うむ。君の成長を楽しみとしよう」

 あっという間に二時間が経ち、師匠と別れを告げホームに戻る。

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