第11話 「お酒と女性と僕と天然?」

 2人で小走りにメインストリートを突き進み、「幸運への導き亭」前に到着した。時刻は6時丁度だ。息を切らせて店内に入る2人。

 「いらっしゃいませ」

 従業員のヒューマンの女性が声をかけてくる。

 「すいません、待ち合わせです。チーム輝く星シャイニースターで席を取っていると思うのですが」

 「はい、皆様お待ちですよ。こちらになります」

 奥のテーブル席に案内される。既に僕とナナ以外は揃っている。

 「遅いよー」

 ユナさんが待ちくたびれたという表情で苦情を言う。

 「お疲れ様、今日の主役2人の到着だね。ささっ、座って」

 僕はマリー姉さんとナナの間に座った。リーダーがお店の人に注文をお願いすると、すぐにエールが5杯運ばれてきた。

 「乾杯はエールにしよう。今日はユウとマリーの活躍、そしてナナエさんとの出会いに乾杯!」

 「乾杯!」「乾杯‼︎」

 次々にテーブルに料理が運ばれてくる。

 ここ「幸運への導き亭」は僕達のチームがよく使う酒場である。味はそこそこだが、安くてボリュームがあるので、あまりお金がない駆け出しの冒険者達に人気がある。大盛パスタに、山盛りの鳥の唐揚げ、大皿の野菜サラダなど、食べ応え抜群の品がテーブルの上に並んでいく。

 「どんどん食べてね。今日の主役はユウなんだから、しっかりと栄養付けて、次のクエストも頑張ろうね」

 リーダーが僕の前に次々と料理を取り分けてくれる。

 「それにしても、今回のクエスト、ユウ君にしては積極的な行動だけど、何かあったの?」

 ユナさんがテーブルの向こうから話しかけてくる。

 「あー、それは僕も思ったな。ユウは真面目だけど、どちらかと言えば消極的だと思ってた。クエストもそうだけど、講習も2つ同時に受けているし、やる気になった、のかな?」

 (自分でも不思議に感じているんだから、周りから見たらもっとそうなんだろう)

 「・・・やる気はあったんですけど、一歩が出なかったんですかね。今回のクエストを見たとき、子供達の、村の人達の助けになりたいって、単純に思ったんです。今まではきっと他の誰かが助けていて、今回は僕が助ける番になったんだって」

 自分に対する問い掛けに自分で答えている感じだ。

 「まあ、ユウ君も最近までは新しい生活に慣れることが優先だったもんね」

 マリー姉さんの言う通りかもしれない。新しい生活に慣れてきて、少しずつ自分以外の周りが見えてきたのも理由なんだろう。

 「そうですね。皆さんのお陰で、冒険者としての生活にも大分慣れてきました。その分周りの事を考えられるようになった気がします」

 「ユウ君逞しくなった気がするもんね」

 ナナが自然を装い会話に参加する。

 「そうですか?それなら嬉しいですが、今回のクエストで力不足を痛感しまして、講習はそんな自分を変える為、ですかね」

 なるほどと周りが頷く。その後は、クエストの最中にマリー姉さんに沢山助けられたことやホブゴブリンとの一騎打ちなど、クエストでの出来事を話し、皆の感想や意見を聞いて盛り上がった。ひとしきり盛り上がったあと、ユナさんが突然新しい話題を提供してきた。

 「そういえば、最近南の王国に不穏な動きがあるらしいって噂、聞いた事ある?」

 僕とマリー姉さん、それにナナも首を横に振る。

 「ユナも聞いたの?」

 リーダーだけは何か知っている感じだ。

 「流石リーダー情報通だね。私はこの間職業支援センターで噂話を聞いただけだよ」

 「職業支援センターで噂って、ユナの情報も侮れないなー。まだ分からないけど、南の王国に動きがあるのは確からしい。あの国は前々からメルキアを狙っているからね。ただ、此処には王国軍も駐留しているし、冒険者も相当数居るからね、そう簡単には攻略できないはずなんだけど。まあ、僕達には当面関係ないと思うけどね」

 「そうなんですね。僕達には地下探索クエストが待ってますもんね」

 「お待たせしましたー」

 店員さんが追加の飲み物を持って来てくれた、って

 「あれっ?」

 「あー、こんばんはー。こちらのお店にもいらっしゃるんですね」

 店員さんは驚きながらも満面の笑顔で配膳を続ける。

 「ユウの知り合い?」

 リーダーが少し驚いた表情で問い掛けてくる。僕にチームや職セン以外の女性の知り合いがいるのに驚いている感じかもしれない。

 「私、別のお店でも働いていて、そこにもお客様として来ていただいてたんです」

 やっぱり宝食亭のお姉さんだ。

 「こんばんは。こちらでも働いているんですか?」

 エールを受け取りながら話しかけてみる。

 「向こうのお店が終わった後、時々働いているんです」

 注文待ってますと店員のお姉さんが去ったあと、リーダーが耳打ちしてくる。

 「彼女は冒険者なのかな?」

 「いや、分かりませんが」

 「そう・・・、今度、あの娘が働いてる別のお店に連れて行って欲しいな」

 珍しくリーダーが興味を持ったのだろうか?快諾しながらも違和感を感じる。

 「あー、皆んなで冒険に行きたーい」

 斜向かいから大声で叫ぶユナさん。大分酔っ払ってきたようだ。もっとも、不機嫌なユナさんよりは余程可愛いけどね。

 「大分飲んだかな、そろそろ上がろうか」

 壁掛け時計を見ると10時になろうとしていた。

 「はい」

 精算を済ませ「まだ帰りたくない」と叫ぶユナさんを説得し店を出る。

 リーダーにユナさんを任せて僕達3人は帰路に着く。

 「ナナエさんはどちらにお住まいですか?」

 「・・・」

 「・・・」

 「・・・えっ」

 2人の沈黙にマリー姉さんは不味い質問だったのかと気まずい表情を見せる。

 (ただ単に設定を考えてないだけだと思うけど)

 「まだメルキアに来たばかりなので、暫くはユウ君の部屋に泊めて貰おうかと考えているの」

 (まじですか?その設定はどうでしょうか。実態はそうですけど、一応若い男女になりますよ。きっとマリー姉さんは過剰反応されますよ)

 「・・・いくら従姉妹でも、ユウ君も男の子ですし、やっぱりそういうのはどうかと思います。・・・良かったら私の部屋に泊りませんか?」

 (想定通りの反応。ナナはどうするつもりなんだ)

 「うふふ、今のは冗談です。本当は宿を取っているので、この辺りで別れさせて貰います。マリーさんて、真面目で素敵な方ですね。それではまた」

 (絶対反応を楽しんでるよ)

 肩透かしを喰らい力が抜けているマリー姉さんをホームへと連れ帰る。

 部屋に戻るとナナが妖精の姿でベッドに腰掛けていた。

 「お帰りユウ君。早かったね」

 悪戯っぽい笑みを浮かべている。

 「はぁー、ただいま」

 やっぱりマリー姉さんをからかっていたんだ。ナナの悪戯好きはかなりのレベルに達している。

 「溜息を吐くと幸せが逃げちゃうぞ」

 そんなにドヤ顔で言われても。

 「はぁー、僕があの場から逃げたかったよ」

 「・・・上手いこと言ったとか思わないでよ」

 お気に召さなかったようだ。

 「そんなことより明日からなんだけど」

 私の話を流すのかとのクレームは受け付けずに続ける。

 「朝夕は講習を受けるとして、日中は採取クエストを受けようと思うんだ」

 「良いクエストがあったの?」

 アンナさんから貰った依頼書クエストを見せる。僕の手から依頼書を受け取り内容を一読する。

 「ヤクトの森の側ね。・・・丁度良いのがあったものね」

 はい、と依頼書を返してくれる。

 「うん、モンスターもソロで処理出来そうだし、時間の融通も利くから良いかなって思うし、明後日からは魔法の講習も受けようと思うんだ」

 まじまじと僕を見つめているナナ。

 「えっと、何か変かな?」

 じーっと僕の瞳を覗き込む。

 「努力って報われると思うわ。ユウ君がやる気を出してくれて師匠の私も嬉しいわ」

 (いつから師匠になったんだよ、って突っ込むと思う壺だね、きっと)

 「うん。だから明日も朝からフル稼動だ」

 僕の反応がイマイチ悪かったのか、少し寂しそう顔。

 「そうね、明日も早いのならもう寝るわ」

 「そうだね、僕は女神様にお祈りしてから寝るから先に寝てて」

 気を付けてとバケットベッドから小さな手が振られる。

 「お休みナナ」

 静かに女神像のある教会へ向かう。


 「ガバッ」

 目が覚めて壁の時計を見ると4時過ぎだった。少し早いけど今起きないとまた寝ちゃいそうなので、勇気を振り絞ってベッドから起き上がる。まだナナはバケットベッドで可愛らしい寝息を立てている。

 「こうして見ると可愛いいんだけどなー」

 ゆっくりと身支度を整えながら今日一日のスケジュールを思い描く。早朝訓練、魔法講習申し込み、採取クエスト、基礎体力講習、食料も買いたいな。建国祭イベントの会場も早目に申し込まないと。ロングソードを腰にきリュックを背負う。

 「ナナ、ナナ」

 人差し指で体を揺らす。

 「う、うーん、もう十分頂きましたわ」

 昨日の事を夢見ているんだろうか?もう少し寝かせてあげよう。机の上に書き置きを残し静かに部屋を後にする。

 職業支援センターに向かうメインストリート、昨夜の喧騒が嘘のような静けさ。東からは太陽が昇り始め明るみを帯びてきている。今時期の早朝は空気が澄んでいるというか、肌が引き締まる冷たさが頭を覚醒させる。

 「うー、寒いな」

 今朝は一段と冷え込んでいる。少し足を早め職業支援センターへ向かう。

 「おはようございます」

 「?」

 声の方向くと、暖かさそうなブラウンのフード付きコートに身を包んだ女性がこちらに向かって手を振りながら近づいてくる。

 「・・・えーと」

 (フードで良く顔が見えないな)

 「昨日はありがとうございました。楽しんでいただけましたか?」

 フードを取りながら、明るい笑顔を向けてくる彼女。

 「・・・あー!えーと、店員さんですよね」

 宝食亭と幸運への導き亭に居た店員さんだ。

 「ウフフ、最近良くお会いしますね。私の名前はファムです」

 小さくお辞儀をしてくれる。

 「あ、僕の名前はユウって言います。ユウ・ラズウェルです」

 慌ててお辞儀を返す。

 「ユウさんはこんなに朝早くから、どちらにお出掛けですか?」

 僕もファムさんに聞きたい質問を先を越されてしまった。

 「職業支援センターに講習を受けに行くところです。ファムさんこそ、こんな朝早くに女性一人で出歩いて、どちらにお出掛けですか?」

 少し説教くさい言い方になってしまったと自覚しつつも、心配が優先してしまった。ここメルキアは、他の都市より比較的治安は良い方らしいが、凶悪事件が無い訳ではない。先日も繁華街の裏道でお店のオーナーである獣人の死体が発見されたばかりだ。店の金品が全て無くなっていたことから強盗犯の仕業と言う事になっているが、惨たらしい死体は拷問を受けた跡があり、周りの店のオーナー達を震え上がらせた。その直後、職業支援センターに護衛の依頼書クエストが一斉に貼り出されたって話題にもなった。他にも、他の国々との国境付近に位置する関係上、お互いの国のスパイが暗躍しているなどの噂もある。どちらにせよ、若い女性が朝早く一人で安心して散歩が出来る程は治安は良くない。

 「心配してくれているんですか?」

 明るい笑顔から少し驚いた表情となったファムさん。

 「まだ2回しかお会いしていませんよね?」

 (あれっ、変に思われちゃったかな。やっぱりそうだよね、余計なお世話ってやつだよね)

 「ごめんなさい。余計なお世話でしたよね。最近物騒な事件があったので心配してしまって」

 慌てて弁明する僕を見て吹き出すファムさん。

 「ウフフ、どうして貴方が謝るんですか。心配してくれたんですよね。私が思ったのは、いつもお綺麗な彼女を連れているのに手が早い人なのかなって」

 えっ、彼女?手が早い?

 「でも、貴方の表情を見ていると天然なんでしょうね。ご心配ありがとうございます。人と待ち合わせなんです。もう行きますね、またお店に来て下さいね、ユウさん」

 オレンジ色の髪にフードを被り軽く会釈して足早に去っていく。

 「あっ」

 行ってしまった。

 誤解は解けたようだけど、天然って・・・。

 気を取り直して職業支援センターに向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る