第2話 「職業支援センターって何?」
翌朝、目が覚めて昨夜の事を思い出す。
ちょっと口の悪い妖精との出会い、勇者への近道切符。疲れが妄想を現実と取り違えさせたのかな?
「・・・うーん」
横で寝返りを打つナナ。
「夢じゃなかった・・・」
可愛らしい寝顔を少し眺めた後、昨日の夜に二人で取り決めた内容を思い出す。
一、ナナの事は秘密にする。
二、チーム活動は継続する。
三、チーム内で経理担当を続けてもいいが、時間を確保するため手伝いを入れる。(ナナに心当たりがあるらしい)
四、勇者となるための鍛錬を行う。(ナナの指導に従い鍛練する)
五、女神様へのお祈りを毎日欠かさず続ける。
六、週一回チキポンを食事メニューに入れる。(ナナの強い希望)
以上六項目をお試し期間の決め事としたんだけど、六番以外は妥当と言うか、普通というか、僕の事を真面目に考えてくれているんだと思う。
残る六番は・・・昨夜の食事風景を思い起こせば、うん、納得かな。とっても美味しそうに食べてたからね。
「グー」
僕のお腹の音だ、昨日の夕食を思い出していたらお腹が空いてきた。
「そういえば昨夜はチキポン一個だけだったな・・・」
ベッドの脇にある
急いでベッドから飛び起き一階のキッチンへと向かう。キッチンは二人並ぶと一杯になる大きさであり、
「やった!」
まだ、誰も来ていないみたいだ。小さくガッツポーズを決めながら、安心してゆっくりとキッチンに向かう。
「!」
突然ヌッとダイニングの方から大きな人影が現れた。
「やあ、遅かったね。今日は僕が皆の分の朝食を作っておいたから、お腹一杯たべるといいよ」
爽やかな話し口調で目の前に現れたのはハーフドワーフのドクさんだ。
そして今僕は、脱出困難な難関クエストに挑む羽目に陥っている訳である。
「何を一人でブツブツ話してるんだい。せっかくの朝食が冷めてしまうよ。ささ、こっちに腰掛けて、今スープを用意するから」
優しい声色とは裏腹に、僕の右腕を掴む力は正にドワーフの血を感じさせる。強引にダイニングチェアーに腰掛けさせられてしまった。
(うーん。悪意ゼロなだけに断りづらい)
ドクさんの気分を害さない打開策を必死に考える僕。
「ドタ、ドタドタ。ドン」
その時、何かが勢いよく二階の階段から転げ落ちてくる音が聞こえた。
「や、やあ。僕は大丈夫だよ」
転倒から立ち上がった黒い塊の正体は、黒髪の長身ヒューマン、
彼はいつも顔が隠れるように前髪を下ろしており、視界が悪いせいか、良く転ぶ。また、口数も少なく声も小さいことから暗い人と思われがちだが、僕にとっては気さくな優しいお兄さん的存在であり、勤務先での評判も非常に良いらしい。
昨夜、閉店間際にお店を開けて僕の応接をしてくれたのは、他ならぬデニスさんである。
「おはようデニス。もちろん君の分も用意してあるよ。是非食べて行ってくれないか」
椅子を引きながら朝食を勧めるドクさん。
「あ、ありがとうドクさん。頂くよ。」
小声でドクさんに御礼を言うと、僕の横の席に腰掛ける。
「おはようユウ君。そうそう、彼の料理には大量の薬草類が入っているから、冒険者を目指すユウ君にとってはプラスになると思うよ」
僕の耳元でこそっと囁いてくる。
驚いてデニスさんの横顔を見つめていると、一瞬こっちを向いて「ニッ」と笑い、また前を向く。
デニスさんは時々このように僕にアドバイスをくれるのだが、その時のデニスさんは普段と少し雰囲気が異なるよう感じる。もっとも、何がどうとは上手く言い表せないんだけれど。
考え事をしているうちに、僕とデニスさんの前に緑色の泡立つスープが運ばれてきた。
覚悟を決める時が来た。
「・・・頂きますドクさん」
僕は冒険者としての過酷な訓練を開始した。
厳しい訓練を乗り越えた達成感を感じていたその時、僕はナナを部屋に置きざりにしていることを思い出した。
ドクさんにお礼を伝え、慌てて二階に駆け上がる。
部屋に入るとナナは既に起きていて、置きざりにされたことに腹を立てているようであった。
「おはよう、早かったわね。私を置いて一人で朝食なんて、
嫌味というスパイスが効いた挨拶を受ける。
「ごめんなさい。本当に忘れていました」
素直に謝罪し、夕食にチキポンを一個付けることで機嫌を直して貰った。
ナナの分の朝食を作りそびれた為、買い置きの丸パンを手渡し今日の打ち合わせを開始する。
今日はチームの活動日ではないので、
身支度を調え二人でホームの外に出る。時刻は既に午前七時を過ぎており、ホーム前の大通りは多くの人で賑わっていた。
僕達はホームのある南ブロックから、中央ブロックに向かうメインストリートを通り職業支援センターを目指すことにした。
「ねえねえ、ところで職業支援センターで何をするの?」
歩く僕の周りをクルクルと飛び回るナナ。僕には見えるけど、他の人には見えないよう魔法を使っているらしい。改めてナナは本物の妖精なんだと認識した。
しかもよく見ると可愛いかも。肩まで伸びているサラサラの金髪、童顔に拍車をかけるクリクリの赤い瞳、それでいて唇は薄紅色。成長したら妖精の中でも断トツの美人になるんじゃないかな、そういえば妖精って成長するの?
「ひ、と、の、は、な、し、を、聞いてますかー」
耳元から大きな叫び声。
「うわっ、ご、ごめんなさい」
(まったく聞いてなかった)
慌てて深呼吸を行い乱れた呼吸を落ち着ける。
「まったく、微妙に鼻の穴が膨れてたけど、イヤラシイこと考えてたんでしょー。昨日の夜、金髪の子に抱きつかれた時と同じ顔をしてたわよ」
赤くなりながら慌てて否定してみたものの、疑いは晴れず
(そんな癖があったなんて気をつけよう)
気を取り直し、改めてナナの質問に回答する。
「職業支援センターでは、色々な
「へー、色んな事が出来るのねー。ところで・・・職業支援センターってそもそも何?」
クルクル飛び回るのに疲れたのか、僕の肩に腰掛けながら話し掛けてくる。
ナナの声は姿同様周りには認知されないらしいが、僕の声はそうもいかないことに周囲の視線で気が付いた。服装も普段着の僕は、疲れているちょっと危ない人に見えるているのだろうか?
横では僕の心の動きに気付き、ナナがクスクスと笑っている。
ナナにはこうなることが予想できていたのだろう、本当に悪戯好きだ。
ナナに対する不満を押し殺し、小声で説明を続ける。
「職業支援センターは、元々この大陸が他の大陸の支配下から脱した際に作られた組織なんだよ。それまで奴隷のような生活をしていた人々が、自分達で考え、働き、稼いで生活する、言わば自立して生活出来るようサポートすることが当初の設立目的だったんだって。それが、人々の要望に応じて、
「ふーん。それで、
「職センが登録者の技能を可視化する為に取り入れたのが
「ふぁー、説明が長いわよ。それに、ユウ君の
(自分から聞いておいて
「ははっ、まあこれらの情報が記載されているカードが
「なるほどね。じゃあ、
「うーん、正式な発表は無いけど、登録するデメリットがないからね。働いている
「なんだか国が担うべきインフラを請け負ってるみたいね」
「まあ、設立の経緯から考えると
未だ見ぬ職業支援センター本部に憧れの想いを馳せる。
「目、輝きすぎよ。まっ、気持ちは分からなくはないわ」
歩きながら小声で世間話しを続ける。
「そう言えば、どうしてこの街は高い外壁に囲まれているの?」
ナナは街を取り囲む高い外壁を指差し質問する。
「んー、昔両親が言っていたけど、隣国との国境付近に位置していて、貿易も盛んな交通の要所だかららしいよ。それに、昔は側の森から結構な頻度で
記憶の奥底から、街の由来に関するページを呼び起こす。
「へー、今は
「そうだね、でも、
僕のおどけた回答を、失敗したって表情で聞いているナナに、気にしないでと告げる。
きっとナナは女神様へのお祈りの内容を聞いていたから、僕の両親の話しも知っていたのだろう。
少しの沈黙の後、大理石で出来た立派な建物の前に着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます