#10 天使の左遷~Return~2006/09/25
ナセル王国での民主化革命は今でも革命軍が優勢の状態である。
約1年半前に違約金を支払い娘の元へ戻った飛鳥は、玲奈と自分の両親と一緒に同じ屋根の下で暮らしていた。しかし、久しぶりの戦争を経験して娑婆(シャバ)に馴染めず、娘のことで両親との口論も絶えなかったが、玲奈と一緒に居るだけで幸せだった。
1か月前に飛鳥は国連軍に復職しようと思っていた矢先に最大の敵である有村燐と出会ってしまい不意打ちによって自分が麻酔針で眠らされている間に玲奈が燐によって連れ去られてしまう。
一方燐は、自分とは真逆で幸せな過去を持つ飛鳥を逆恨みしていた。燐の目的は飛鳥を始末して彼女の娘、玲奈を自分と同じ孤独で誰にも愛されないという境遇に立たせることである。
飛鳥は目を覚まし、玲奈が孤児院に預けられたことを聞かされると激情に駆られ玲奈の救出を試みようとするも既にナセル王国へ向かう
飛鳥が基地に着くと、とある格納庫に知り合いの飛行場で保管してもらっていたはずのSu-27SKM(増槽と空対地ミサイル対応型) フランカーがあった。
「よう飛鳥!久しぶりだな。」
格納庫の外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。飛鳥は後ろを振り向くと格納庫の外へ走っていく。
「アシュレイ!久しぶり!生きていたのね!」
飛鳥はアシュレイのもとへ駆け寄る。
「娑婆じゃ、生きた心地がしないだろ。」
アシュレイは飛鳥と握手する。
「そうね。2度も戦うと中々ね。でも、娘が居たからなんとか過ごせたわ。」
二人が話しているところに一人の女がやってくる。
「飛鳥、なんでまた戻って来たの?」
飛鳥はなんで基地に戻って来たのか自分でもわからず、今の思いを伝える。
「ごめん。アイシャ。また好きで来たわけじゃないの。有村燐・・・あの女を倒さなければ・・・私と娘に幸せは来ないと思ったのよ。」
飛鳥はアイシャの足元を見ながら話す。
「そっか・・・でも、また一緒に飛ぶことになるなんて。私嬉しいわ。」
アイシャはニコッと微笑んで飛鳥を抱きしめる。
その日の夜から飛鳥の部屋はアイシャの隣の部屋になり、久しぶりの基地で少しソワソワしている。
日付が変わるころ、エアフィールド69から北西へ200マイルの空域でC-130輸送機4機が敵戦闘機6機に襲われていた。
「こちら、スコッチエッグ(Scotch egg)、ダブルエックスレイ、聞こえるか!?Su-33に襲われている!護衛機が全てやられた!応援を!!」
エアフィールド69へ物資を輸送中の
「ダブルエックスレイ!聞こえるか!応援を!!・・・・」
残り2機のC-130はSu-33による機銃掃射によって撃墜されて通信が途絶える。
Tips! No.19~Su-33~
Su-33 Flanker-D
Su-27を空母での運用可能な海軍仕様。
武装
機銃・・・450発
ISM・・・100発
フレア・・・3×10回
特殊兵装
高機動空対空ミサイル・・・24発
4連装空対空ミサイル・・・32発
ロケットランチャー・・・8発×18回
セミアクティブ空対空ミサイル・・・24発
高積載空対空ミサイル・・・44発
高弾速空対空ミサイル・・・22発
高威力空対空ミサイル・・・22発
長距離空対艦ミサイル・・・28発
次の日、飛鳥はSu-27に乗り1年半のブランクを埋めるためにアイシャに連れられて航法を確認しながら飛んでいる。
「ここのオアシスは乾季でも枯れることがないから、南からアプローチする時の目標よ。」
アイシャは飛鳥に目印となるポイントを説明する。
「なるほどね。きれいなオアシス!滑走路があれば、着陸してアイシャと泳ぎたいわ!」
「!まじめに!飛鳥の腕は確かにいいけど、今では私が先輩だからね!」
アイシャは一瞬ドキッとしてまじめに飛ぶように促す。
「ふーん。アイシャが私の先輩ね・・・うふふ。」
飛鳥はマスクを着けて太陽に隠れつつアイシャの真上につく。
「飛鳥?」
飛鳥はアイシャのF-16Cの機首に向かって機銃を撃つように真上から突っ込む。
「飛鳥!いきなり何するのよ!」
アイシャは右バレルロールで飛鳥の挙動を回避する。
「擬似ドッグファイトよ!」
飛鳥はスロットルレバーをあまり動かさずにアイシャをISMでロックオンしようとする。
「上等よ!」
アイシャは小さな宙返りで、飛鳥の背後をとる。
「F-16、旋回性能は悪くないね。デジタル
飛鳥はアフターバーナーでアイシャを振り切ろうとする。
「いい気にならないでよ!」
飛鳥はアイシャにロックオンされながら急旋回でブレイクする。
「よし!」
アイシャは飛鳥に食らいついたまま離さない。
「詰めが甘いわ。」
飛鳥はSu-27シリーズ特有の空戦機動「コブラ」でアイシャの背後をとる。
「スプラッシュ!」
飛鳥はアイシャの真後ろ、機銃の射程内でそう言うと無邪気に空を飛んでアイシャと共に基地へ戻る。
二人が基地へ戻ると、マクラーレンの倉庫に味方の傭兵たちが集結して燃料と武装を買おうとする。
「しょうがないだろ!20機連続で輸送機が墜とされたんだからよ!燃料が全く届かないんだ!」
「だからといって、いきなり倍額はおかしいじゃねぇのか?」
ゴードンはスタグフレーションに不満を述べる
「払うのが嫌なら、飛ばなきゃいい。」
「飛ばなきゃ仕事にならないだろ!」
味方の傭兵の一人が、1クレジット紙幣を出して燃料を買おうとする。
「だったらてめぇの屁でも入れるんだな!とにかく、注文の品はどれも届かんよ!さあ、とっとと帰ってくれ!今日はもう店じまいだ!」
マクラーレンは店じまいをして倉庫内のコンテナに引きこもる。
味方の傭兵は残り僅かの燃料を使って大空へ飛び立つ。
「この出撃が限界です。燃料タンクは底を覗かせているかと思われます。」
アリーは基地の燃料不足を危惧している。
「パイプラインはどうなっている?」
サダトは
「先日、C4爆薬で爆破されてから復旧には1か月ほど、かかります。」
しばらくして味方が一斉に基地へ着陸を試みる。
「こちらプロキシー。すまん!燃料が無いんだ!先に下ろさせてくれ!」
プロキシーの
「プロキシー!着陸をやり直せ!」
管制塔はプロキシーのF-5Eを双眼鏡で見ながら着陸をやり直させようとする
「だから、やり直す余裕がないんだ!」
「こちらアシュレイ。プロキシー、武装を投棄しろ!」
「高い金払って買ったんだぜ!誰がするかよ!」
「もうダメだ!プロキシー、高度が低すぎる!機体を捨てろ!」
プロキシーのF-5Eは燃料切れになりタービンの回転が止まる。
「機首を上げろ!」
プロキシーはアシュレイ言う通りに機首を上げるが、機首を上げすぎて失速し着陸に失敗する。機体は炎上しながら地下の燃料タンクの搬出口に衝突する。
基地の中で燃料タンクやパイプラインが爆発して大きな揺れが起きる。
「なんてこった!ここは保険なんて効かないんだぞ!」
HQ69はサダトの部屋に電話をかける。
「レーダーが敵の大編隊を捉えました。」
電話は部屋にいたアリーが出る
「対空ミサイルは?」
「先週の攻撃より補充がまだです。」
「パイロットたちを今すぐ集めろ!」
「アイアイサー!」
サダトは最後の出撃になるだろうと思い、残された燃料、弾薬、パイロットを集めさせる。
アリーは緊急放送でパイロットたちをブリーフィングルームに集めさせる。
エアフィールド69から300マイル東の空域には、戦闘機(
Tips! No.20~コブラ(空戦機動)~
コブラは、航空機のマニューバの1つであり、空戦機動の1つである。水平飛行中に進行方向と高度を変えずに機体姿勢を急激にピッチアップして迎角を90度近く取り、そのまま水平姿勢に戻る機動を指す。
Su-27・F-22 ラプターなど一部の機種でないと行えない機動とされる。
(Wikipediaより一部抜粋および一部改変)
サダトはパソコンを立ち上げてブリーフィングを始める。
「諸君、状況は最悪だ。燃料はあとわずか。武装も数えるほどしか残されていない。さらに悪いニュースがある。基地のレーダーが戦闘機15機と攻撃機5機、爆撃機4機と輸送機6機の大編隊を捉えた。事態は一刻を争う。」
「残った燃料と武装で何機飛ばせる?」
ゴードンはみんなが思っていたことを聞いてみる。
サダトは「3機だ。」と答える
「たった3機かよ!」
味方の傭兵たちは「自分の機体のほうが燃費良い」などと言い騒がしくなる。
「飛んでもらう者を読みあげる。まずは、復帰直後ですまないが、飛鳥に飛んでもらう。理由は言うまでもない。エアフィールド69での撃墜王だからだ。誰も飛鳥の記録を塗り替えられていない。」
サダトは今までのスコアランキングをパソコンの画面上に出す。
「喜んで。」
飛鳥はニコッと微笑んで答える。
「そして、撃墜数ナンバー2のアシュレイとナンバー3のアイシャに飛んでもらう。二人とも異論はないな?」
「はいよ。」「喜んで飛ぶわ。」
アシュレイは気だるげそうに、アイシャはすこし嬉しそうに返事をする。
「猶予はすでに使い果たした。各員の奮闘に期待する。以上だ。解散!」
飛鳥、アシュレイ、アイシャはフライトスーツの上につなぎ型の耐Gスーツを着て自分たちの機体のところへ行く。
「サダトの指示で、今回の特殊兵装はセミアクティブを使うことになった。4連装は消耗が激しいからな。」
整備兵のグリンチは飛鳥の機体を見ながら彼女に説明をする。
「そろそろ行くぞ!」
管制塔から無線が入ると3人は「OK!」と答える
「こちら管制塔、回り込む時間がない。追い風だが、ランウェイ7を使ってくれ。」
「サクリファイス17、飛鳥、了解。」
「サクリファイス19、アシュレイ、了解。」
「サクリファイス16、アイシャ、了解。」
3人は西から東へ離陸してそのまま東へ向かう。
「FNG(Fighter Green)4より全機へ。エアフィールド69から戦闘機が発進。数3.」
「こちらBRD(Bomber Red)1大した数じゃない。FRD(Fighter Red)1~5へ。迎撃に向かえ。」
「ウィルコ。」
赤色の垂直尾翼のMiG-29Aが5機、迎撃態勢入り飛鳥、アシュレイ、アイシャを撃墜しに向かう。
「二手に分かれましたな。波状攻撃を仕掛けるつもりでしょう。」
アリーはレーダーに映る敵の機影を見て敵の動きを予想してみる。
敵の目標はエアフィールド69の占領であり作戦は、波状攻撃で政府軍の要撃機を撃墜した後、爆撃機が屋外の駐機場のみを精密爆撃。滑走路上空で輸送機が空挺戦車を投下して滑走路を占拠し抵抗する基地守備兵と搭乗員を攻撃。総仕上げに攻撃機5機で撃ち漏らした敵を一気に始末する。というものである。
「こちら飛鳥。アシュレイ、敵の位置は?」
「2時方向。高度6000フィート。」
「了解。行くよ!」
飛鳥、アシュレイ、アイシャはセミアクティブ空対空ミサイルで三人を墜としに向かっているMiG-29Aをロックオン、ミサイルを1発ずつ発射して敵機に向かってミサイルを誘導する。7秒後にミサイルは全弾命中して残り2機を飛鳥とアイシャがISMを使ってヘッドオンで仕留める。
「ファイターレッドが全機墜とされた!?」
「落ち着け。まぐれ当たりだ。予定通り波状攻撃を仕掛けるぞ。FOR(Fighter Orange)、行け。」
「しかし、相手はセミアクティブを持っています!会敵前に狙撃されるのが関の山です!」
「・・・了解した。作戦変更だ。戦闘機隊は攻撃機、輸送機、爆撃機を死守せよ。セミアクティブを持っている機は敵機を攻撃せよ。持ち場を離れるなよ。」
敵は作戦変更で飛鳥たちと同じように遠距離攻撃を試みる。
「FBU(Fighter Blue)2、FOX1!」
1機の青色の垂直尾翼のF-15Cが飛鳥のSu-27をロックオンしてセミアクティブ空対空ミサイルを発射、誘導する。
飛鳥のSu-27はミサイルアラートを鳴り響かせながら一度高度を上げてミサイルが当たる2秒前に急降下する。敵が放ったミサイルは命中しなかった。
「飛鳥!大丈夫か!」
アシュレイは報復攻撃で飛鳥にミサイルを撃ったF-15Cに向かってセミアクティブ空対空ミサイルを発射する。
「大丈夫、回避できたわ。・・・散開して上と下から攻撃するよ!」
「アイシャ了解!アシュレイは下をお願い!私は上から行くわ!」
三機はアフターバーナーで正面から突っ込み敵のセミアクティブ空対空ミサイルの有効射程距離で散開、三つに分かれて敵を分散させようとする。
「サクリファイス17、FOX2!」
飛鳥は正面から敵機に突っ込みISM2発と機銃で敵のB-2Aを3機撃墜する。
アイシャはロールを行いながらISM2発で輸送機2機を機銃でF-15Cを1機撃ち墜とす。
アシュレイは低空飛行で敵の前方斜め下から急上昇。セミアクティブ空対空ミサイルを2発発射してB-2Aを2機撃墜する。
3機は敵輸送機の後方について曲芸飛行を行っているように集結した後、また三つに分かれそれぞれ敵機を撃破する。
仕上げに3機はA-10Aにセミアクティブ空対空ミサイルを1発ずつ、飛鳥とアイシャが機銃で攻撃を行い生き残った戦闘機隊は撤退した。
「こちらHQ69。残存脅威の撤退を確認。帰投せよ。」
飛鳥は嬉しそうに「ふぅ。終わったわ~。」と言いアイシャとアシュレイを連れて基地へ戻る。
3人が基地へ着陸すると、味方の傭兵たちは三人を胴上げして喜んでいる。
「輸送機もこっちへ向かっているそうじゃ。これでまた商売ができるわい。うわははは。」
マクラーレンはまた金儲けができると言い笑いながら倉庫へ向かう。
Tips! No.21~革命軍のコールサイン~
ナセル王国の民主化革命を行っている革命空軍(正規軍)のコールサインは機体のジャンル(アルファベット2字まで)・色(アルファベット2字)・番号を用いる
例・・・FBK6はFighter Black Sixの略で黒色戦闘機隊の6番機という意味である。
例2・・・CHGY3はCargo Helicopter Gray Threeの略で灰色輸送ヘリ部隊の3番機という意味である。
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