#3 砂漠の天使~Angel~ 2004/04/08

 エアフィールド69での生活に慣れてきた飛鳥であったが、娘の玲奈に会いたいという気持ちを忘れられないでいる。近々ジャーナリストが取材にやってくることを耳にした69のパイロットたちは報道に対して少し嫌悪感を見せている。この日、飛鳥はF-4EファントムⅡに機銃640発、ISM58発、ナパーム爆弾10発を装備して自主的な哨戒を行っていた。

「Air Field Six-nine, Head Quarters. Enemy tallyho.東部戦線より革命軍の機体が西へ飛行中。60マイル先のエアフィールド69の爆撃と予想される。Tu-95ベア、数4、MiG-21bisフィッシュベッド、数8。こちらサクリファイス17(Sacrifice Seventeen)、十六夜飛鳥。繰り返す。こちらサクリファイス17、十六夜飛鳥。交戦許可を願う!」

 飛鳥はシリアスな口調で司令部(HQ)に交戦許可を要請する。

「敵は12機だ。援護を待て。」

「聞いたか。敵が来るぞ!」

 軍用無線の周波数は世界共通なので、敵の声が聞こえてくる。

「こちら爆撃機隊、レーダーが敵を捕捉した。たった1機だ。やっちまえ!」

 敵戦闘機が我先にと飛鳥を探し撃墜するために編隊を解いて散開する。

「もういい!Sacrifice 17, Engage!」

 飛鳥は怒りをぶつけるように高度を下げながら、左旋回、Tu-95の編隊に突っ込んでいく。それを目撃したMiG-21bisがインメルマンターンやスプリットSで飛鳥を追撃する。

 飛鳥は横一列で飛んでいる4機のTu-95のうち右側の2機に狙いを定めて右端の敵をISMでロックオンして1発発射する。すぐに左隣の敵を再びISMでロックオンして1発発射する。2発のミサイルがそれぞれのターゲットに命中すると飛鳥のF-4EのHUDに「DESTROYED」と表示される。

 飛鳥は残った2機のTu-95を機銃で撃ち落とそうとするが、後ろからMiG-21bisが2機やってきて機銃を撃つ。

 飛鳥はMiG-21bisによる射撃をロールしながら高度を下げることで回避する。MiG-21の射撃はTu-95に命中してその機体は火を吹いて墜ちていく。

「May day! May day! こちら、爆撃隊長!くそう・・・まだ爆弾を抱いているのに・・・」

 飛鳥は高度4000フィートまで上昇して正面から最後のTu-95を狙う。

「戦闘機隊!編隊を組みなおせ!連携して敵を仕留めるのだ!」

 8機のMiG-21 bisが2機x4分隊に分かれて飛鳥を追い詰める。飛鳥は敵戦闘機に警戒しつつTu-95を正面からISMでロックオン、「FOX2」と言い発射する。ISMはTu-95のコックピットに命中してその機体の機首が抉れて墜ちていく。

「爆撃隊が全滅⁉何なんだ⁉あのファントムは⁉」

 敵の中の1人は飛鳥の実力に悪魔を見たかのように動揺している。

「うるさい!数ではこっちが有利だ!行くぞ!」

 別の敵のパイロットが数にものを言わせる姿勢で飛鳥にISMを発射する。

 飛鳥はブザーのようにブーっとミサイルアラートが鳴り響く中、フレアを使わずに急旋回のみでISMを躱す。ISMは対空と対地の両方を攻撃できるが、誘導性能が低く、フレアや急旋回で回避できる。

 飛鳥はISMを撃った敵にISMで撃ち返すとそのミサイルは命中する。士気を失った残りの敵は東へ逃走するのを飛鳥は追いかけ1機につきISMを1発ずつ発射して1分で全て撃ち落とす。

「逃走機を撃つとは・・・汚い傭兵め・・・」

 逃げようとした敵が負け犬の遠吠えのように言う。

「天使が・・・国連軍の天使が・・・蘇った・・・」

 敵が国連軍時代の飛鳥の通り名を言いながら散っていった。

「エアフィールド69、ダブルエックスレイ。MiG-21 bis、8機、Tu-95、4機、計12機撃墜。爆撃を阻止した。」

 飛鳥は緊張から解放されマスクを外して濃色シールドを上げる。

「全部墜とすとは流石だな。348’000クレジット稼いだな。」

「燃料に余裕がない・・・帰投する。」

 飛鳥は帰れるぶんの燃料を残してエアフィールドに戻る。着陸して屋外の駐機場に誘導されてF-4Eから降りようとすると写真を撮られる。

「やめてよ!パパラッチ!」

 飛鳥はいきなり写真を撮られるのが嫌で怒りながら兵舎へ戻る。部屋に戻るとエアコンをつけてベッドに寝転がる。

「玲奈・・・会いたいよ・・・玲奈を抱きしめたい・・・」

 飛鳥はうつ伏せで枕に抱きつきながら泣いている。娘に4ヶ月会っていない。最大の敵の燐に何かされていないかと心配になる。1時間ほど眠って起きると汗だくになっていて着替えを持ってシャワールームへ行く。


 To be continued...


 ※Engage!・・・交戦!

 ※インメルマンターン・・・縦方向にUターンする空戦機動で高度が上がる。

 ※スプリットS・・・縦方向にUターンする空戦機動で高度が下がる。

 ※May day! May day! =メーデー!メーデー!・・・助けに来ての意。

 ※FOX2・・・赤外線追尾型ミサイル発射の合図。ここでは、ISMの発射の合図として使う。

 ※フレア・・・機体をISMなどの赤外線追尾型のミサイルから防護するために使われる火の玉。

 ※ミサイルアラート・・・自機に向かって対空ミサイルが発射された時に鳴る警報。


 Tips No.4~エアフィールド69~

 ナセル王国政府軍の最前線航空基地でその基地より東、北、南をそれぞれ東部戦線、北部戦線、南部戦線と呼び革命軍との戦場になっている。

 生存率10%という過酷な基地であるが、生存率が低いぶん、傭兵一人あたりの報酬は高額である。

 基地のコールサインはダブルエックスレイ(Double X-ray)。

 燃料はパイプラインとタンカーから供給している。

 パイロットは搭乗機の購入や改造、機銃とISM以外の武器(いわゆる特殊兵装)を自費で調達するのが原則とされる。パイロットには敵機撃墜や地上物撃破、または作戦目標の破壊などのスコアによる歩合制で、法外な報酬が支払われているが、その報酬の中から自分の搭乗機やミサイル・爆弾などを購入し、整備兵によるメンテナンスの代金も支払うというシステムになっている。また、作戦行動の場合燃料は支給されるが、作戦外で出撃する場合の燃料は自費である。また、自分の能力や機体の性能などの点から生還の可能性が低いと思われる任務に対しては、参加を拒否することもできるが、その際には1万クレジットの罰金を支払わねばならない。


 飛鳥はシャワーの蛇口を捻り右手を壁に添えてシャワーを浴び始める。ただただシャワーヘッドから出てくるたくさんの温かい水滴を浴びているだけで今は髪や体を洗うことはない。

「玲奈・・・お母さんのこと、覚えてるかな?」

 幼い一人娘のことを思い出すと涙がポロポロと出てきてついに泣いてしまう。

「必ず帰るからね。」

 飛鳥は涙を腕で拭い蛇口を捻ってシャワーを止めるとバスタオルで体を拭き空軍の戦闘服を着ると自室へ戻る。飛鳥が自室で水を飲んでいるとドアをノックする音が聞こえたのでドアを開ける。

「さっきはいきなり写真を撮ったのは、悪かった。俺はTP通信のジャーナリストの田村友三だ。同じアール人どうし、仲良くやっていこうぜ。」

 友三は飛鳥と握手しようと右手を差し出す。飛鳥はそれに答えて握手する。

「ん?アール人?連邦で何か戦争が起きてないよね?」

 飛鳥は同じ国籍の人と出会えて嬉しくなり祖国の状況を知ろうと質問しながら友三を部屋に入れる。

「それが・・アール連邦は革命軍を支持することを決めたんだ。いつの日かナセルの砂漠で君とアール人が撃ち合うことになるかもしれない。アール人で政府軍の味方は君だけだ。」

 友三は飛鳥の机上にある2つの写真立てを見る。1つは国連軍時代の飛鳥と仲間たちの写真、もう1つは飛鳥と玲奈が写った写真が入っている。

「家族が恋しいのか?」

 友三は飛鳥を慰めるとうに質問する。

「うん。もうすぐ4歳になる愛娘がいるの。」

 飛鳥は玲奈と一緒に写った写真を見る。

「そう言えば、国連は、何してるの?」

「国連は、ナセル王国に対して民主化するまで経済制裁を行っている。」

 飛鳥は友三に世界のこと、友三の仕事の内容などを訊いていき気がつくと夜になり腕時計のアラームが鳴る。

「あ、そろそろ行かなきゃ。ブリーフィングがあるの。」

 飛鳥は自室を出てブリーフィングルームへ向かう。その部屋に向かうとアシュレイを始めエアフィールド69の傭兵全員が集まっていた。しばらく待っているとサダト司令がやってくる。

「作戦ブリーフィングを行うー。今回の作戦目標は東部戦線より東、200マイル進んだところにあるSAMとAA GUNの基地、通称、『地獄のウォートホッグ』だ。明日1050時よりナセル王国正規軍が作戦を行う。その時の被害を最小限にするために叩いておく必要がある。出発は2時間後。」

 サダトは作戦内容を説明しながらパソコンやプロジェクターを操作している。

「悪魔の口の中に突撃しろというのか?」

「ミサイルと弾丸が弾幕の嵐のように来るんだぜ。」

 味方の傭兵たちが苦情を言い始める。

「司令。私は降りるわ。」

「おいっ。」

 飛鳥は右手を挙げて命令を拒否する。

「命令拒否は1万クレジットの罰金だ。」

「1万クレジットで命が買えるなら、安いものよ。」

 アシュレイも右手を挙げて「俺も今回はやめておく。」と言い命令を拒否する。

「他にはいるか?」

 サダトは他の傭兵たちの顔を見渡す。

「では、以上だ。解散。」

 出撃時刻になり飛鳥のF-4EファントムⅡとアシュレイのF/A-18Cホーネットを残して他の傭兵と機体は、夜の空へ飛び立った。

「飛鳥、なんで出撃しなかったんだ?早く違約金払いたいんだろ?確かに対空砲火はおっかないが、お前の腕ならいくらでも稼げると思うけどな。」

 しばらくして2人は兵舎に戻る。基地のレーダーが敵機を捕捉すると空襲警報のサイレンを鳴らす。

「敵、10機接近中!」

「飛鳥とアシュレイを上げろ!」

 司令部に入ってきたサダトは飛鳥とアシュレイを緊急発進させる。


 ※SAM = Surface-to-Air Missile・・・地対空ミサイル。サムと読む。

 ※AA GUN = Anti Aircraft GUN・・・対空機銃。エーエーガンと読む。


 To be continued...


 Tips No.5~十六夜飛鳥~


 十六夜飛鳥

 この作品の主人公で、TACネームは「ジブリール」(Gibryl)。

 1976年07月16日生まれ。

 顔を芸能人に例えるならば土屋太鳳さん。

 声は白石涼子さんに似ている。

 髪型は黒髪ゆるふわショート。

 156cm/48kg/Dカップ。

 仲間を大切にする性格で、趣味はバレーボール。

 かっこいい男性に弱く、時々英単語を使う喋り方である。

 羽の生えた三日月のエンブレムで、国連軍時代には「国連軍の天使」として恐れられた。

 搭乗機はF-4Eで機体の番号は017。


 F-4E PhantomⅡ

 飛鳥の搭乗機。

 機銃:640発

 ISM:58発

 フレア:3個×10回


 特殊兵装

 ナパーム爆弾:16発

 無誘導爆弾:20発

 セミアクティブ空対空ミサイル:12発

 高機動空対空ミサイル:12発

 誘導貫通爆弾:20発

 マシンガンポッド:1600発

 4連装空対空ミサイル:16発

 4連装空対地ミサイル:16発


 カラーリング

 水色ベースで橙色を用いた海洋迷彩柄


「飛鳥!お前分かってたんだろ!戦闘機がいなくなった基地は格好の餌だからな!飛行機はSAMなどの地上ターゲットよりお値段が高い。お前について行って正解だぜ!」

 飛鳥はヘルメットとマスクを装着してF-4EファントムⅡに乗り込む。飛鳥のF-4Eには対地攻撃任務に行く筈だったので、機銃640発、ISM58発、ナパーム爆弾10発が装備されており、アシュレイのF/A-18Cホーネットには機銃570発、ISM78発、無誘導爆弾14発を装着している。

 飛鳥とアシュレイは整備兵の誘導に従って滑走路に進入してアフターバーナー全開で離陸する。

「こちらサダト。飛鳥、アシュレイ、5分後に会敵するはずだ。奴らに爆撃させるな。迎撃せよ。」

「こちらアシュレイ。報酬上乗せ頼んだぜぇ。」

「こちら飛鳥。アシュレイ。できるだけヘッドオンで仕留めるよ。」

 飛鳥はアフターバーナー全開で敵に接近すると、ISMでロックオン。1機につき1発ずつ発射して2機撃ち落とす。アシュレイも負けじとISMで2機倒す。敵機はMiG-21bisとF-5Eが3機ずつ残っていて全機ロケットランチャーを装備している。

「敵機散開!私はF-5EタイガーⅡをやるわ!」

「じゃあ、俺はMiG-21bisフィッシュベッドをやるか。」

 飛鳥は3機のF-5Eを追いかけるが、それに気づいた敵は散開して振り切ろうとする。飛鳥はいちばんゆっくり飛んでいるF-5Eに狙いを定めてISMでロックオンして1発発射するとISMはF-5Eに命中する。アシュレイも同様にゆっくり飛んでいるMiG-21bisをISMで仕留める。

 2機のF-5Eが爆撃するためにエアフィールド69へ向かう。

「アシュレイ、私は基地に向かったF-5Eを追うわ!」

「こっちもMiG-21bis倒したらすぐ行くぜ!」

 飛鳥はエアフィールド上空に向かいF-5Eを追撃する。

「F-5E2機、上昇中。爆撃高度に達します。」

 エアフィールド69はFLAK GUNを展開しF-5Eに向けて対空攻撃を行う。

「FLAK GUN、撃ち方やめぇ!」

 飛鳥はF-5Eが急降下を始めるタイミングを見計らって機銃で1機撃墜する。もう1機をISMでロックオンして発射するとISMは命中して、基地の管制塔の裏の砂地に墜落する。

「こちら飛鳥。ラスト1機を仕留めたわ。パイプラインへの二次爆発、および基地への損害なし。Asuka, return to base.」


 ※ヘッドオン・・・敵を正面から叩くこと。

 ※FLAK GUN・・・高射砲。


 Tips No.6~アシュレイ=ダイソン~


 アシュレイ=ダイソン(Ashley Dyson)

 飛鳥が傭兵になってからの親友でTACネームはダージリン(Darjeeling)。

 1976/10/04生まれ。ヴィクトリア連合王国出身。

 顔を芸能人に例えるならばジャスティン=ビーバーさん。

 声は関智一さんに似ている。

 髪型はブロンドツーブロック。

 176cm/64kg。

 やるときはやる性格で、趣味は任務後のティータイム。

 ホラー映画に弱く、「わかってる」が口癖である。

 3つの角砂糖のエンブレム。

 搭乗機はF/A-18Cで機体の番号は019。


 F/A-18C Hornet

 アシュレイの搭乗機。

 機銃:570発

 ISM:78発

 フレア:3個×10回


 特殊兵装

 長距離空対艦ミサイル:28発

 4連装空対空ミサイル:24発

 セミアクティブ空対空ミサイル:20発

 無誘導爆弾:28発

 スタンド・オフ・ディスペンサー:16発


 カラーリング

 黒色ベースで機体中央に白ラインがある。

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