第2話 叫ぶ声は轟音に消される。
戦場に耳を傾ける人間なんて居ない。戦車の中ですらうるさい。
「よぉ、無口野郎。やっと目が覚めたのかよ」
僕は顔を運転席に向けて首をかしげる。
「そっか、お前には言っていなかった。これから北の拠点に行く」
僕はもう1度首をかしげてから、首を180度向きを変える。驚く事に誰も居ない。銃だけが棚に飾られている。味方の物も敵の物も。
「済まないが、変わってくれないか。もう長い事運転しているんだ。地図はあるから、お前だったら分かるだろう」
僕はベットから起き上がり、運転席に向かう。たった1人になった上官がハイタッチを求めた。ハイタッチを決めると、上官は笑いながらベットに着いた。僕は運転席に座る。地図を見ながらアクセルを踏む。地図で黒い線が引かれている。上官がさっき通った道だ。この地図を見ると、後6時間で着くだろう。地図の近くに置いてあった乾パンを食べる。水を運転席の右側から取ろうとすると、酒が置いてある事に気づく。血生臭い服を着ていて気がつかなかった。本当にこの道を通っていたのだろうか。荒廃した街は何も分からない。
アクセルを踏んで2時間。僕は近くの川でトイレをする為に降りた。いつからか羞恥心は無くなってしまった。ピアニストになりたいと思っていた時は、川でトイレするとは思ってもいなかったのに。
僕はまた運転をしなければならない。長旅が僕を待ち受ける。道は瓦礫で通れないかもしれない。でも、進むしかない。生きる為。運転手は時に清掃員にもなる。戦争はもう懲り懲りだ。戦車のドアの前に立つ。ここで異変に気がつく。ドアノブが壊れている。
慌てて僕は戦車に乗り込む。僕の目の前には3人の敵兵だ。上官はベットにいない。
「動くな。跪け」
僕は慌てて跪く。2人が僕を見下す。1人は運転席に居る。運転手の声が聞こえる。
「ちょっと待て。この地図間違っているじゃねーか。孤独で頭が狂ったんじゃねーのか」
僕は顔には出さなかったが戸惑った。すると、2つの銃声が聞こえる。この音は聞き覚えがあった。上官の2丁拳銃だ。銃声が戦車に反響し、耳を塞いだ。僕も運転手も。でも、上官は耳を塞いでいない。上官の耳栓が正面から見えると、すぐに運転席に移動した。耳を塞ぐ1人の敵兵の首を上官の腰にぶら下げていたナイフを構える。
「お前達は何しにここに来た?」
「こっちも食料が欲しいんだよ。あと、銃も弾もな」
「寂しいだろ。孤独は辛いだけだ」
そう言って、上官は敵兵の喉を掻っ切った。ナイフに着いた血を舐める。
「ちょっと手伝ってくれ」
敵兵3人の服を脱がし、物を全て奪う。身柄は川に捨てた。
「済まない。もう酒はやめる」
手話で僕はもういいですと伝える。
「もうすぐトランシーバーが使えるだろう」
僕はトランシーバーを上司に渡す。
「繋がらない。クソったれ。もしかしたら、もう拠点は駄目かもしれない」
聞きたくもない事を聞いて、僕は耳を塞いだ。
演奏者(ピアニスト)になりたかった兵士(ソルジャー)の僕 渋沢慶太 @syu-ri-
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