演奏者(ピアニスト)になりたかった兵士(ソルジャー)の僕

渋沢慶太

第1話 僕は今、戦場に居る。

戦場は時に静かで時に騒がしい。そんな場所に僕は居る。今日のピアノのコンクールはそんな場所だ。可愛らしいドレスを着た美女でさえも戦場を駆け回る。銃弾を大量に撃ちまくっている。きっと、白い清らかなドレスも紅に染まってしまう。色白の肌にも。


ただ、僕は物陰に隠れていた。突撃した者は銃声と共に悲鳴をあげる。そして、大地で寝る。枕も無いのにぐっすりと寝る。美女もぐっすり寝る場合もあるが、誰も横で寝たがらない。みんなピアノに夢中だ。でも、みんなピアノから目を背ける。


しかし、下手な使い方をする兵士を見ると、兵士はニヤリと口元を緩めて引き金を引く。打たれた兵士も口元が緩んでいた。冷や汗と血液が大量に流れ出して、それを飲んで兵士は生きる。まるでドラキュラの様に。


僕は登壇し、椅子に座る。キーボードを僕は押す。引きたい音が僕に近づいて、音色を奏でる。銃把を握り、安全装置を外し、銃口から弾倉にある銃弾が見え、遊底を手前に動かし、撃鉄も手前に動かし、照星と照門を一直線上に合わせて、引き金を引く。そして、排莢口から空薬莢が出ると、銃口から銃弾が顔を出す。銃弾は空気の抵抗を受けながらも少し上に上がりながら下っていく。肉体に銃弾が入ると弾痕が残る。火葬場に行くと、銃槍の頭蓋骨や砕けた骨が露わになる。だが、戦場に火葬場は無い。人気の居ない所で大量に燃やされる。


いよいよ結果発表だ。なんと僕は優勝した。観客はスタンディングオベーションで俺を見つめる。演奏し終えた時は座ったまま拍手をしていただけなのに。僕は僕じゃないみたいだ。観客が拍手をやめると、皆、腰に手を置いた。ホルスターから銃を取り出し、僕に銃口を向ける。観客の数を2で割った数の銃口から銃弾が顔を出し、僕の頭蓋骨を砕いていく。額から冷や汗と血液が止まらない。観客は僕に近づき、まるでドラキュラの様に飲む。


もう1度目を覚ますと、見た事のある天井が目についた。うるさい轟音に嫌気が差す。僕は今、戦車に乗っている。僕は今、戦場に居る。

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