あの空のように青い君
星宮コウキ
「私、あなたのことが好きなの」
私は何度も心の中で唱えた言葉を口にする。こんな機会でなければ、こんなことは言えない。
「
「だから、だからねっ」
心苦しい時間はもう終わる。あと一息、一言で……!
「私と、付き合ってください!」
この言葉は、きっと無駄じゃない。
******************
「はーい、カットカット〜」
私の親友、監督こと
「「はぁぁぁ〜」」
「主演のお二人さん、お疲れ様!」
私たちは今、映画を撮っている。監督は高校生の映画コンテストでグランプリを狙っているらしい。要するにガチ勢だった。
「ありがとう!青ならやってくれると思った!大丈夫、他の演劇部の人たちもいるから!」
演劇部が揃って映画に駆り出されたのである。普段なら、それはとても演技しやすくなるはずだ。何も思うことはないのだが……。
「安心して!主演男優は演劇部の
問題なのは、主演に選ばれた相方だった。何故よりによってこの男なのだろうか。他の人だって良かったのではないか。
「なぁ、青。今のシーン、デジャブなんだけど。そのままじゃん」
「やめろ、そのことは言うな!終わったことでしょう?というかあんたの『青......』の方がそのままだったじゃない!」
「やめろ、そのことは言うな!」
誰にも気づかれないように言い合う。そう、私たちは……。
「いや〜2人に頼んでよかった!臨場感が出るよね!」
「「知っててやってるのか、引くな!」」
私と空は、別れたばかりの元恋人なのである。
私たちが別れた理由は、ほんの些細なことだった。私が空が他の女子と楽しそうに歩いているのを目撃してしまったのだ。
元々私は、浮気にうるさくはない。彼氏が他の女子と楽しそうに話していたって、浮気だとは疑わない。仲がいいだけと、そう思っているはずだった。
しかし、実際に目撃してしまうとダメだった。どうしても胸の奥がチクチクした。他に好きな人ができたのなら言ってくれればいいのに。
———別れようよ。お互いに辛いだけでしょう?
もちろん、そこで別れないという選択肢もあったはずだ。でも、辛かった。嫉妬するのが。彼を嫌いになってしまうのが。
そんな悩みも知らなかったであろう間抜けな顔を見つめる。
「おい、なんだよ。人の顔をジロジロ見て。なんかついてるか?」
「ううん、何でもない」
私は彼のことが嫌いになったわけではない。彼も最近は女子といないようだ。
「なぁ、何もついていないならそんなに見るなよ」
「いいじゃん。私の勝手でしょ」
今でも思い悩む時がある。悩み、苦しむ時がある。それならいっそ、嫌いになってしまおう。そうすれば私の気持ちもスッキリするだろうか。
「ねぇ、空」
「なんだよ、青」
「なんでもない」
「そうかい」
否、無理だ。私は、いつもの変わらないやり取りが嬉しいのだ。それはまだ私の中に彼がいるということなのだから。別れたことを後悔しているのだから。
「ねぇ、空」
「なんだよ、青」
「空がどうしてもって言うなら、また付き合ってあげてもいいよ?」
「俺がそんなこと言うと思うか?だいたいお前から......」
そう。悪いのは私。決めたのも私。それなら、これからを決めるのも私だ。
「私ね、嫉妬してたんだ」
「どうした、急に」
もうそんな後悔はしたくない。聞くなら今しかない。
「何であのとき、他の女子と歩いてたの?」
「あー......」
彼が口を開くのに、あまり時間はかからなかった。
******************
青と空くんが別れてしまったのは、私のせいだ。空くんは、ある日私に相談を持ちかけてきた。
「頼む!青の親友なんだろ?」
用件は、プレゼントを買いたいということだった。私が提案したのは、クラスで空くんと仲の良い女子に相談することだった。青と親友の私では、すぐに青にバレてしまう、そう判断したのだ。
しかし、青は空くんがその女子と歩いているところを目撃してしまった。しかも浮気だと思ったようで、別れてしまった。これはどう考えても私の過失だ。私が取り持たなければ。というか私の責任にしてほしくない。
青は何も悪くないのに。自分で背負わなくていいのに。
「そういえば、青という色には『自分をおざなりにする』という意味があったな。人のために自分を犠牲にする、か......」
二人に仲直りさせるために考えていると、思い付いたのが映画だった。最初は題名だけだったが、できると思った。二人とも演劇部だし、誘う口実は作れる。さらにあの二人を題材にすれば、まだお互いが好き同士ということがわかるのではないかと思い付いたのだ。
「こうして二人は、また付き合うことができたのでした、と......」
私は鉛筆で台本にナレーションを付け足す。監督の仕事はここまで。残りは、二人が紡ぐ物語だ。
映画の題名は「あの空のように青い君」。
あの空のように青い君 星宮コウキ @Asemu
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