(6)

 「?」

でも、ふと目に入ったのは、榮川さんが地図も描いている様子だった。

 「そっか、地図も描いた方がいいのか」

スゴク感心したので、独り言のように呟いてしまったのだけど

「これは配置図」

榮川さんには聞こえていたようだ。

 「うん…そうだね」

なんかピシャッと窓を閉められてしまったような感じに似てて、ちょっと怖かった。

 「できれば二人も」

「え?」

ところが榮川さんは私との話を締め切ったわけではなかったようで

「配置図を作って」

と言った。

 「あ、うん」

私が頷くと、傍で一ノ木さんも頷いた。

「別々に作ると見落としが減るから」

「あ、そうなんだ」

メモしてと言って紙とペンをくれた前田さんもそうだけど、榮川さんも冷静な人なのだった。

 私は前田さんに渡されたものを使ってるけど、榮川さんは自分でノートを持ってきたようで、これも持ってきたのだろう、机の横にかけてあったマニュアルを時々開いて見たりしながら、熱心にノートを書いてる。

 テキパキとやるべきことを進めてくれた藍川くんといい、何となくみんなの足を前に向けさせた森さんといい、こんな訳の分からないことに巻き込まれてながら、しっかりした人達がうちのクラスにはいてくれたようだ。


 「それにしても随分広い建物だね」

「…」

「…」

「部屋はいっぱいあるけど、中身は空っぽだね」

「…」

「…」

私ばかりがしゃべって、榮川さんも一ノ木さんも黙ったままだ。

 でも、普段からこの二人はしゃべらないし、私は逆に授業中とかでなければ、しゃべらない時間の方が少ない。

 しゃべり続けてれば、私はいつもの感じでいれる気がするし、できるだけいつもどおりの空気を作るためには、それでいいのかもしれない。

 榮川さんと一ノ木さんと三人で行き止まりにあった部屋を調べた。

 調べ終わると元来た道を引き返すしかないわけだけど、部屋を出たところで、廊下を曲がってきた前田さんが見えた。

 「あ、前田さん」

「安齊さん」

「こっちはもう行き止まりだから戻るしかないよ」

前田さんに言うと、前田さんの後ろから根津さんと千賀さんが来て

「こっち側も見たの?」

と千賀さんに訊かれたので

「うん、私達そっちから回ってきたから」

と答えると

「そうなんだ」

「じゃ、建物の中は多分全部見たのかな」

千賀さんと根津さんが言ってから

「私達、安齊さん達3人以外の全員とも行き当たったから、そのようだね」

前田さんが言った。

 「もう見る所がないなら、最初の部屋に帰ろうか」

「そうだね。うちら以外はみんな帰ってるだろうし」

前田さんと根津さんが言うので

「私達も戻る?」

振り返って榮川さんと一ノ木さんに訊くと、二人とも頷いた。

 「・・・・・」

 ただ戻るだけなのに、なんかちょっと安心する。

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