(5)

 結局男子は全員部屋から出て行って、中に残ったのは全員女子。

 (・・・・・)

森さんの言うとおり私達も建物の中を調べに行かないと、と思ったその時

「安齊さん」

前から声を掛けられた。

 「え?」

私を呼んだのは榮川さんだった。

「っと、どうしたの?」

「私と調べに行こう」

「え、うん」

 「一ノ木さんも一緒に行こう」

「ぁ…」

榮川さんからすれば、私はすぐ右斜め後ろで一ノ木さんは私の後ろだから、一番近い席の私達に声を掛けてくれたんだろう。

 見ると、猪戸さんと曽根嶋さんと双子の鈴木さん達4人もグループを組んでた。

 「じゃあ、榮川さん、一緒に行こう」

「うん」

「一ノ木さんも行こう?」

「・・・・・」

声は出せずに頷くだけの一ノ木さん。

 「何か持つならバッグから出して」

「え?」

榮川さんが指で差すところ、私の椅子の下に私が家から持ってきたバッグが入っていた。

 「…」

バッグを開けてみると私が入れたとおりに入れた物が入っているけど、何を持って行けばいいかなんて全然分からない。

「別にないみたい」

「…」

一ノ木さんも同じみたいで、首を横に振った。


 私達3人は森さん、矢口さん、美愛、三田さんグループに続いて廊下に出た。

 グループは前田さん、舟山さん、根津さん、千賀さんのグループもあって、4つだ。

 4つのグループは最初一緒だったけど、廊下が分かれるたびに4つが2つずつに分かれ、2つが1つずつに分かれた。

 榮川さん、一ノ木さんと3人きりになってしまうと、なんか緊張してしまう。

 普段、一ノ木さんとほとんど話をしたことはなかったけど、一ノ木さんは物静かな人だから、私のように口数の多いタイプでない舟山さんや曽根嶋さんなんかと話が合うようで、それが判ってることもあって決心しなければ話し掛けれない感じじゃない。

 でも、榮川さんとは会話の糸口が見付けられない。

 榮川さんの名前は『シュテファーニェ栞那』。

 背が男子とあまり変わらないように見えるから、きっと170㎝より高いんだろうし、肌がホント真っ白で、髪も眉も全部金髪で、瞳は青で、顔だちもヨーロッパ系の人にしか見えない。

 授業中に教科書を読むとか、何か答えるとか、そういうときに話すのを聞いたことはあるけど、私達と何も変わらない感じで別に日本語が不自由ってわけでもないみたいだから、話し掛けるのに言葉の心配があるんじゃない。

 学校にいる間、誰ともしゃべらない榮川さんについては、私に限ったことじゃなく、誰も何も知らない感じなので、話題がないというか、決心して話し掛けても話が弾むとは思えない。

 最初いた部屋を出てすぐの廊下で、前田さんが、途中で見付けた物をメモしておくよう言って紙とペンを渡してくれたので、言われたとおり目に入ったことを書き留めながら、誰も一言もしゃべらずに、ただ歩いた。

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