アルカロイド~たかが世界の終わり、されど世界の終わり~

猫柳蝉丸

本編

 明日、世界が終わる。

 地球全体が滅ぶのかどうかは知らないが、人類の歴史だけは確実に終わるらしい。

 ご丁寧な世界の終わりがあったものだと思う。

 下らない人生ではあったが、つまらない人生でもなかった。

 それなりに楽しんで生きてきたし、幸い俺を好きだと言ってくれた女も何人か居た。

 それを前提として考えるのならば、俺は幸福ではあったのだろう。

 思い残した事が無いと言えば嘘になる。心残りなんて探せばいくらでも思い付ける。

 特に思い出すのは幼馴染の事だ。

 生まれた時からずっと腐れ縁で、三十年以上近くで笑い合っていた。

 思う。俺はやはりあいつの事が好きだったのだと。

 建前抜きで本音を語らせてもらえれば、あいつをこの腕の中に抱き締めてやりたかった。

 勿論、それはできなかった。あいつは二十歳の頃には妻子持ちになっていたし、俺がこの気持ちに気付いたのはあいつが結婚してからだった。

 世界が終わって、生まれ変わって、またあいつと幼馴染になれたら、今度はこの想いを伝えられるかなあ……。

 簡単に答えが出せそうな問題じゃない。

 明日の世界の終わりまで、それを考え続けるのも悪くはなさそうだ。

 俺は煙草に火を灯し、人類最後の夜空に視線を向けた。

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