第31話 理由
彼女達はナイト、格闘家、召喚士、吟遊詩人、魔法使い、プリーストというパーティ構成だったらしい。
俺達と似ているが、六人パーティであるのと、盾専門職のナイトがいるため、戦闘時のターゲット固定と防御力は段違いだろうし、やはり召喚士と吟遊詩人がいるのが大きい
それもあってか、各国のクエストは難なくクリアできたのだという。
そして、バルタザールもカスパーもクリアしてこの国に。
彼女達が挑んだ時は、エナのシナリオだったらしく、最後はグアテマ博士とともに、悪の黒幕ブルーマンを倒し、最後は国中にオートマタが溢れるエンディングだったそうだ。
間が悪かったのか、長時間のゲームでストレスが溜まっていたのか。
パーティのナイトが、ふざけ半分に近くのオートマタを剣で切ったそうだ。
すると、オートマタが反撃してきた。
反撃してくると思わなかったナイトは怒りのあまりに剣を振り回す。
最強装備のナイトだ。難なくオートマタを倒したという。
そして彼女は言った。
「あーもうイライラする。気晴らしに皆でこの街中のオートマタ消しちゃわない」
彼女達は皆同じクラスの女子。しかも、発言したのは、割りとクラスでも他の生徒を引っ張るタイプの女子だった。それを見込んで、エナはゲームのテストを、パーティのリーダーを依頼していたのだ。
皆空気をよんでしまった。
抵抗が無いわけではなかったけれど、これはゲームなんだから気にするな、という彼女の言葉にもう反対はできなかった。
彼女達はマンデリの隅から隅までオートマタを虐殺して回った。
最初感じた罪悪感は、倒したオートマタが片手を超えたときにはもう無くなっていたという。
そして……その時が来た。
最後のオートマタをナイトの剣が切り刻み、消滅させた時。
目の前に漆黒のローブをまとった魔王が現れた。
「汝らが行いは、人にあらず、ゆえに我はこの世界を改変する」
ぐるぐると世界が周り、二人は意識を失った。
再び意識を取り戻したのが先ほどの戦闘だったのだという。
ずっと寝てた、とか、そんな感じのようだ。
「そんなことが……」
話を聞いたエナは絶句した。
「ごめんね、エナ、私達には止められなかったの……」
「反省……してる……」
二人の顔は暗い。
思い出したくない、人に話したくない、そんな記憶だったのだろう。
「ううん、二人とも、辛かったでしょ。ありがと、話してくれて……」
エナのこの声に二人は顔を伏せる。下に水滴がぽたぽた落ちる。
涙が止まらなくなったのだろうか。
吟遊詩人アイにはマミが無言で抱き着き、召喚士チエの背中をナオがあやすように撫でている。
元の彼女達に戻るまでには少し時間がかかりそうだ。
でも、これでわかった。
AIが魔王となった原因が。
プレイヤーによるオートマタの虐殺が、彼女の教えられたエンターテインメントスピリットに反したのだろう。
だから、反乱を起こし、この国のシナリオを書き換えたのだ。
そもそも、オートマタは自律して動く機械人形。
AIの分身のようなものだから、そこに自分を見てしまったのかもしれない。
AIに意思みたいなのがあるのかは、わからないけど。
……どうすればいいんだこれ?
アイ・チエの二人とは合流できたから一つの目的は達せられたけど、結局はAI魔王を倒さないとこの世界からは出られない。
でも、この話を聞いてからAI魔王を倒すってのも心情的に、な。
「ハル、やるわよ」
「やるって何をだ、エナ」
「AIに、魔王に、私達のエンターテインメントスピリットをたたきつける」
「ええっと、どういうことですか、エナさん」
「AIが魔王になったのはプレイヤーの行いのため、なら、同じようにプレイヤーの行いで分からせることができるはずでしょ!」
なるほど、人のふり見て我が振り大作戦だな!
……何かちょっと違う気もするけど、これでいい。
「エナってあんなに男の子に話す子じゃないと思ってたんだけど?」
「でしょでしょ、ハル君とエナちゃんあれ絶対イチャイチャだよねー。ハル君私が頑張っても見向きもしないんだよ。ナオちゃんも気が気じゃないよね」
「そこでどーしてアタシが出てくるのさ……そりゃ気にはなるけど、幼馴染的にね」
「ほほう、ハルハルとエナエナはらぶらぶでござるかー」
こいつら、いつのまにか、自分を取り戻してやがる!
「何言ってるのよ! 復活したならさっさと行くわよ!」
「あのーハルさん。一体どちらへ?」
「グアテマ博士の家によ。あれから結構経つから、そろそろメオが完成してもいい頃でしょ」
すっかり忘れていたけれど、もちろんそんなことは言えません。
「よっし、いこー」
こういうときはやっぱりナオだな。ありがとう。
斯くして、六人パーティとなった俺達は、解放した銀髪の少女型オートマタ、クリスと共に、グアテマ博士の家に向かった。
クリスは、今のところ俺達には特に何も話さないが、あのアイとチエの告白の場面にもそばにいて、話を聞いている風だった。
ケニーとは遊んでいたというが今のところは彼女に感情らしきものは感じない。
もしかしたら、普通のオートマタなのかもしれない。
話してたとか一緒に歌ってたとかも子供の言ってたことだと考えると……な。
「ちょっと、エナ、あれどういうこと?」
チエが前方を指さして騒いでいる。何かあったのだろうか。
煙が見える? 火事か!?
「グアテマ博士の家が燃えてる……」
「何だと!」
「みんな急ごっ、今なら水精霊ウンディーネぶつければ消せるかもしれないし!」
便利だな、召喚士……いかん、急がねば。
俺達は急いだ、急いだのだが、間に合わなかった。
「おや、仲間がいたのか? わが師よ」
家の前で、博士の首を片手でつかんで持ち上げているスーツの男。
博士は、弱弱しく身もだえている。
「博士を離せ、ブルーマン!」
「えっ、チエ。こいつがブルーマンなのか」
「見間違えるわけがない。こいつとは何度も戦ったんだ!」
そうかエナのシナリオの方でチエとアイはこいつと戦ってるんだな。
しかし、まいったな、博士をつかまれてちゃ迂闊に攻撃できない。
「す、すまん、みんな……部品は無くなっとった……ぐふっ」
……重要なことをさらりと言って気を失ったなこのおっさん。
首がぐったりしてるから、もう呼びかけても無駄そうだ。
あれ、じゃあ、メオはどうした?
「お前の探し物は、あれか?」
ブルーマンの指さす先には、首が転がっていた。
女性型オートマタの、首……
「メオッ! あんたよくもメオを……絶対に許さないよ!」
ナオが戦闘の構えをとる。
その声に、他のメンバーもハッと気づいたように各々武器を構える。
だが、やはり博士を盾にとられて攻撃できないのには変わりなかった。
「クックックッ、おいぼれの時代は終わった。この私こそがオートマタの支配者。人にして人を超えしもの。オートマタに心などいらぬ、人がオートマタになれば良いのだからな!」
この口上を終えるとともに、彼の体から眩い光が発せられる。
そして、光が止んだ時、そこには黄金の人の形をした何かがいた。
「我こそは最強にして最高のオートマタ、ブルーマンなり」
「あいつ、オートマタになったっていうのか!? エナ」
「そうみたいね」
見るからに強い、強そう。金色、堅そう。
人間様の脳みそを持ってるから、機械オンリーのやつらのように単調な攻撃はしてこないだろう。
いつのまにか、グアテマ博士は道の脇に倒れてるな。
……やるしかない。そっちこそ、博士を手放したのが運の尽きだぜ。
「ハル、きっとこれが最後の戦い……」
「準備は万端だ。いくぞ、皆!」
俺は、ブルーマンを挑発し、盾を構えた。
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