第30話 待ち人来る
「キシャ―ッ」
耳にキンキン来る声でわめいている。勝利の雄たけびのつもりかこの野郎。
そして、倒れ伏している俺の頭の踏みやがったこいつ。
後で覚えとけよ、復活したら絶対にボッコボコにしてやるからな。
復活出来たらだけど……
「何がいけなかったんだ……チクショウ」
薄い体で俺は叫ぶ。
「ごめん、油断してた。まさか十字架を破壊すると、巨大オートマタが湧く仕掛けだったなんて……」
薄い体だからか、エナがしおらしい。
想定外に現れた敵にこれまた想定外の範囲攻撃。
詠唱を止めらちまったのは、お前のせいじゃない。お前のせいじゃないぞ。
「びっくりしたよ、いきなりでっかい金色の四つ足が現れて、足で踏んでくるんだもん。あ、踏まれた―ちゅどーん、で、もうこれだもんね」
十字架のところにいたナオは最初の標的にされてたな、ナオ。
でもお前はまだいいんだぞ。
でっかいのにやられたわけだから前衛としては本望だろう。
俺なんて雑魚にタコ殴りだからな。それでもエナの当初の指示通りに頑張って十字架近くで倒れた自分を褒めてやりたいわ。
「みんな仲良く幽霊さんで良かったねー」
良くない、ちっとも良くないぞ、マミ。
お前は走る俺に上手く回復魔法をかけられなかったから、エナにも諦められて十字架のとこにずっといただけだろ。貢献してないぞ貢献。
まあ、でもこういうときは助かる。
敵の真ん中で、全滅という完全に絶望的な状況だが、能天気なナオとお前のおかげで雰囲気はもってる。まだ負けてない、負けてないぞ、俺達。
……どうしようもないけどな、フッ
もう、あれしかないと思うんだが。そういえば……
「エナ、教えてほしいことがあるんだが」
「何?」
「この状況、もう大人しく一旦諦めてポータル的なところに戻るというのが普通だと思うんだけど」
「そうね」
「ペナルティとかあるのか? そもそもこの場合どこに戻るんだ、このゲーム」
「……ないの」
「えっと、聞こえなかったんだけど」
「そういう仕組みは実装してないの!」
「マジすか……?」
「マジです……」
道理で今まで何度も全滅した時に、ポータルに戻ってストーリーをやり直すという提案が無かったわけだ。それは納得した。それは納得したけどな……
「ダメだろうそれは。死亡リセットは基本中の基本機能ではないですか!」
「だってこのテスト段階はそもそも当初HPゼロでも死なない設定になってたのよ。こんな状況想定外よ。想定外」
「テスト段階だから、無敵モード想定だったってことか。それなら俺達も無敵にしといてくれよ~」
「出来たら、してた。出来なかったからレベルとかチートしたんじゃない」
AIのせいってことか。
道理は通ってる。道理は通ってるけど……エナをそんなに責めても仕方ないか。
「ごめん、言い過ぎた。お前は自分なりにいつも最大限に考えてくれてるもんな。そんなお前にこんなこと言うのはお門違いってやつだ」
「ハル……ありがと」
「考えよう、この状況から脱出する方法を!」
「う、うん……」
見回す。
俺達は全員十字架のあったところにいる。ここでワープするつもりだったからな。
その中心部に例の巨大オートマタが陣取っている。動かない。
他のオートマタは、こいつの邪魔にならないようにか、少し距離を取って周りを回ってる。
あの少女型オートマタ、クリスは俺達に寄り添うように近くにいる。
俺達のことを心配そうに見てくれてる。
それはいいんだけど、あのでっかいのと戦ってくれんかなー。
少しでも引き離してくれれば、その間に蘇生できそうなんだけどよ。
まあ、どう見ても戦闘は得意そうじゃないから無理というものか。
詰んでるな、詰んでる。
俺が半分以上あきらめかけた、その時だった――
ポロン、ポロリ……どこからともなく楽器の音。
そして、歌が聞こえてくる。
『ねむい、もうダメ、しにそう、瞼重い、耐えられない~』
「何だ、何だ、何が起きた?」
驚いたことに、周りのオートマタ全てが眠りのモーション。
あの巨大オートマタまでも。
「これは……歌魔法?」
エナも驚いている。
「ご名答、これは眠りの歌魔法」
声がした方を見ると、いつのまにかそこには、緑色のワンピースを着た女の子。
片手に竪琴を携えている。
吟遊詩人か!?
「アイ、無事だったのね!」
「私をアイと呼ぶ君は……もしかして、エナエナ?」
「そうです。あなたと同じクラスの京極エナです!」
何! ってことは、探してた二人のうちのひとりか。
「こんなところで何やってるの? エナエナ」
「いや、これには深い事情もあってね……」
バツが悪そうな顔をするエナ。
ちらりとこちらを見るアイと呼ばれた少女は、俺が会釈すると、にっこり笑って返してくれた。いい子じゃないか。
そんなことを考えていたら――
ドン!
近くに急に重い衝撃。でっかいのが目覚めたらしい。
「アイ、離れて!」
エナが叫んだ。
「大丈夫大丈夫。チエっち、お願い」
「心得たよ、ドラゴン召喚!」
また別の声がした。
少し離れたところに、ピンク色のふんわりしたドレスを着た女の子の影。
しかし、彼女が何者か考えている間に、俺は別のことに心を奪われる。
「何だって~」
次の瞬間、あの黄金の巨大オートマタが、衝撃をあびて転がっていた。
オートマタを踏みつけているのは……爬虫類の目に鱗、巨大なドラゴン?
「ちょっと待っててね、すぐに片づけるからー、リューさんブレスいっちゃって」
ごおおおお、と火炎がオートマタを襲う。
焼き焦げたオートマタは、そのまま四つの足を折って倒れ、動かなくなった。
「チエっち、周りのもよろしくー、適当に寝かすから安心してねー」
起き上がりつつある周りの雑魚オートマタを再び寝かすアイ。
片っ端から蹂躙するドラゴン。
敵が全滅するのに、そんなに時間はかからなかった。
「ハル、改めて紹介するわ。こちらの緑色のワンピースを着てる子が、吟遊詩人の九条アイ。そして、あちらのピンクのドレスの子が召喚士の白鳥チエ」
戦闘終了後、全員の蘇生を待って、エナが二人の紹介をした。
「九条アイだよ。アイアイでもアイにゃんでも好きな方で呼んでちょーだい」
吟遊詩人、ノリ軽いな。まあ、芸術家はこんなもんかもしれん。
俺は普通にアイって呼ぶからな、アイって。
「こらこら、アイ。そんなこと言われても相手が困るでしょ。私の名前は白鳥チエです。男の子に本名で呼ばれるのは複雑だけど、ゲームだし、みんなが呼び捨てなら、呼び捨てで構わないわ。よろしくね」
召喚士の方はまともでよかった。
何より俺を男として見てくれてそうなのがありがたい。
今いるメンバーに爪の垢を煎じて飲ませたいぞ。
「どうりで今日、アイとチエ学校に来てないと思ったよ……」
「アイちゃんとチエちゃんだったんだねーよろしくー」
ナオ、マミの二人とはクラスメート繋がりらしい。
パーティ内で変に気をつかうこととか無さそうでいいかもしれん。
もっともこいつらが気をつかうタイプであるかは別問題だが。
「それで、アイとチエの二人は今までどうしてたの? 一体何があったの?」
あれだけの攻撃力を持つ召喚獣を操るチエに、歌魔法で回復から寝かせまで万全のサポートをこなすアイ。先ほどの戦闘から考えると、この二人ならば、二人パーティでも、問題無くクエストを消化し、シナリオをクリアできるとは思う。
このゲーム、苦戦するとNPCが助けてくれることが多いが、そんなものも必要とはしないだろう。
だが、その二人がここにこうしてあらわれたのは不思議でならない。
今までどこでどうしていたのか?
彼女たちが六人パーティだったときに何が起きたのか?
「アイ、話してもいいかな?」
「チエっち、気にしないで」
「わかった。じゃあ話すね」
それからチエが語ったのは悲しい悲しい出来事だった。
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