第28話 恐怖政治
「ああ、ケニー無事だったのね」
「ママッ!」
抱擁する母と子。鉄板だが良いシーンだ。
あれから俺達は、オートマタから救ったこの坊やケニーの案内で、メルキオール国首都マンデリに潜入することに成功していた。今は、坊やの家に到着したところ。
といっても、都市の排気管を通じてとか別に大層なものではなく、いつもどおり『時渡りの鏡』でのワープだ。イベント場面への転送に、場所から場所へのワープといえばやっぱりこれだ。
苦労しないで侵入だと臨場感が、とかつっこんではいかん。
ゲームにはスピーディーが大事なんだ。
本当は隣の街に移動するのもこのノリでいいくらいなんだぞ全く。
時間は無限にあるわけじゃない。必要なのは効率性の追求。エンターテインメントを徹底するためには、多少のご都合主義など構わないさ。
さて、オアシス都市コスタの市長の話ではオートマタが反乱を起こしたということだったが、この坊やと母親に出会ったことで、人間側が皆殺しにされているわけではないことは見てわかる。わかったが、やはり現状は確認する必要はある。
といっても、今回もケニーの母親とグアテマ博士の会話を聞いてるだけで話は進みそうだ。
エナによると、このゲーム、NPCとの会話についてはこちらの音声を認識して、会話に含まれる単語からAIが適当な回答を返すようになっているらしい。
今まで、時々NPCと話がかみ合わないことがありつつも、それほど違和感なく物語を進められたのはそのためだ。
しかし、こういった込み入った展開になると、人が上手く質問するのも、AIが適切な情報を返すのも難しい事が多い。
だから、NPC同士の会話でストレス無くプレイヤーを導くようになっているのだ。
よくよく考えてみると、シナリオが変わっているということだから、このオートマタによる反乱のストーリーは、AIが作成したものなのか? 他の国のシナリオには手を加えなかったのに、この国だけなぜ? これに関しては疑問は尽きないが、エナですらわからないのだ。とにかくシナリオを進めるしかない。
シナリオには作成者の考えがテーマとして反映される。
バルタザールのシナリオでは、勧善懲悪、そして兄弟愛。
カスパーのシナリオでは、戦争の無意味さ、理想のゴール。
というように。
このメルキオールのシナリオもきっとクリアしたときには、そこに見出せる何かがあるはずなんだ。きっとそれこそがAIの意図。AIが魔王となり、反乱を起こした理由。もっとも、このシナリオにクリアというものがあればの話だが……
「まずは現在のこのマンデリの状況を教えてくれんかね、マダム」
「オートマタによる恐怖政治が行われています。私たちは毎日与えられた仕事をすることしか許されていません。男は、オートマタ製造工場で働かされ、女は畑仕事や食品工場など主に食料生産をする仕事をさせられています。食料については、配給制となっており、毎日既定の時刻に広場で決まった量が配布されますので、家庭での料理などできない状況です」
なるほど、戦時中の国みたいな状況らしい。
そこに戦争があるわけじゃなく、人間がオートマタという主人に尽くすための存在にさせられてるってとこが違うけど。
「国防軍は何をしていたんだ? 相手がたとえオートマタであっても、戦力的に負けることは考えづらいが」
博士のおっさんのあの銃みたいなのがごろごろしてるかはわからんが、あの半分の威力でも、相当な攻撃力だ。似たようなのが配備されてるとすると、オートマタの反乱に屈するっていうのは確かにわからないな。
「国防軍の主戦力もオートマタになっていましたので、反乱が起きた時、もはや止めることはできなかったと聞いています」
軍の内部からやられた感じっぽいな。なんつー周到な作戦だよ、オートマタ。
あれ……
「しかし、オートマタが反乱を起こすこと自体が私には考えられんが……この国のオートマタは全て未完成のはず。言葉を解すことはできても、心が無い。動くは外部から与えられた人の意思に依存する。それが自らの意思で動き、人間に反乱するなど……」
ここはエナのオートマタの設定どおりなんだな。
俺が思った疑問もこれだ。
かなり上級のオートマタだという博士のメオだって、基本は博士から指示を受けて動いている。
今聞いた反乱の様子を想像すると、反乱を企て、作戦を考えるという、自律した意思が無くてはできないことをオートマタがしていることになる。
「ブルーマンです。彼が全てのオートマタを制御し、政府に反乱を起こしたのです。私たちは一夜にして、全ての生活を彼に奪われました」
「な、何と、あやつが……」
ブルーマンっていうと博士から全てを奪った弟子か。
そいつがオートマタを操って反乱した。
博士に成り代わったくらいだから、多分、全てのオートマタの管理権限とか、強制支配プログラムとかもってたんだろうな。
そして今もオートマタを使ってこの国を支配してる。
結局は人側の問題かよ。オートマタ自体は悪くないじゃん、これ。
「彼は、表向きはバルタザール、カスパーと友好を保っているふりをしつつ、工場では戦闘用のオートマタを量産し、着々と戦争の準備を進めているそうです。このままですと、二国に侵攻することも、さほど先のことではないとの噂です」
オートマタに後れを取る二国ではない、と思いたいが、やはりこういうのは兵隊の数による。疲れることの無いオートマタが大挙侵攻してきたら、不利な戦いなのは目に見えてる。
わざわざカスパーに送ったのは、その日が近いってことかもな。
あのパーティで暴れたオートマタは、小人にも獣人にも恐怖を植え付けただろう。
それが大群で押し寄せたら、降伏したくなるやつも出てくるかもしれん。
「この状況になるまでに、国民が銃をもって立ち上がることはなかったのか?」
「数回ありましたが、いずれも戦闘用オートマタにより鎮圧されました。見せしめに広場で処刑されているのを私見ていますので……」
「なんと……皆こんな国から出てゆかんのですか?」
「出てゆきたくとも、街の中にも外にも戦闘用オートマタが巡回しています。怪しいと判断されたら、その場で処刑されるのです。出てゆけません」
「その、他国からの救いの手は? 使者が来ることはあると思うのですが?」
「他国からの使者が来た時には、大統領の外見をしたオートマタが応対しています。帰る時には人が変わったようにこの国に友好になっているとのことなのですが、接見の際に何が行われているのかはわかりません。ですので、それは期待できないと思います」
これ、やばくない?
どう考えても洗脳してるよね他国人。それが他国に今いるわけで……。
攻め込んだ時に絶対都合良く使われるやつ、それ。
「ここまでは全て工場で働く主人から聞いた話です。どうか、他言ならさぬよう。ケニーを救ってくださった方々ですのでこの家にいていただくのは構いません。言いづらくはありますが、騒ぎを起こさないように注意すること、お願いいたします」
俺からも言いたいとこだな。
お前のことだぞ、マミ。
ケニーと一緒に積み木で遊んでる場合じゃない。話をちゃんと聞いてろ!
可愛いオートマタがいても飛び出すな、飛び出すんじゃないぞ。
さて、どうやらマダムの話は終わりらしい。
どうしたもんかな、これ。
いくら俺達プラス博士とメオでも、軍のオートマタ相手の無双はさすがに無理だと考える。正攻法は無しだ。
となると、頭であるブルーマンを叩くのが現実的だけど、国を裏から操ってるやつが易々と表に出てくるとは思えない。奴の居所を探すところからになる感じか。まどろっこしいな。
こういうときはやっぱり……
「どうする、エナ?」
「どうするって決まってる。博士の家にいくのと、クリスを助ける」
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