第27話 心

 それから俺達は砂漠都市コスタを後にして、首都マンデリに向かった。

 NPCの博士の案内もあり、難なく砂漠地帯を抜けることができた。

 マップ無いなら、全部この案内NPCつけてほしいぞ、うん。

 何だったんだ、砂漠都市までのあの苦労は一体?


 砂漠を抜けると、そこは荒涼とした平原だった。

 バルタザール近くの平原とは異なり、砂地がメインで丈の低い草がそこらここらに申し訳程度に生えている感じで、何というか自然が少ない。 

 バルタザールの方からでも来れるはずだが、あちらは山脈越えでこのステップ平原に至るのだろうと思われる。


 何もないところ、こんなところに都市があるのも不思議だったが、山の豊かな鉱物資源を利用し、武器や防具を生産し、主にバルタザールに販売することで利益を得、次第に大きな都市となったのだという。

 この世界そんなに武器防具が必要なくらい戦争があるのかと、エナに尋ねてみたら、モンスターと戦うために決まってるでしょ、と怒られた。

 そんなの設定したやつ以外わかるわけないだろ、と言いたかったが、もちろん言えなかった。言えるわけないだろ、また死にたくないし……


 それはさておき、そろそろ街の近くらしい。

 今歩いている道にも、どことなく人の歩いた形跡が多くなってる気がする。

 芸が細かいもんだぜ。


「ねーねーハル君、あそこ」


「何だよ、マミ」


 最近気が付いたがマミは目が良いらしい。いつも俺よりも早く敵を見つける。

 まあ、毎日六時間ゲームやってる俺よりも目が悪い奴なんていたらおかしいが、それはそれ、これはこれ。


「子供が人形に追いかけられてる」


「何言ってるんだ……ってマジか!」


 小さな子供が走っている。

 その後ろから、あのパーティで見たオートマタと同じ風貌の少女が一、二…五体追いかけてる。


「エナ!」


「わかってる、急ぐわよ」


 他のメンバーも頷き、全力で走った。


「おらおらこっちだ!」


 今回は最初から戦闘モード。

 こいつらオートマタとは分かり合うすべなんてないだろうからな。


 盾を構える俺に向かって、挑発された五体のオートマタが向かってくる。


「エナ、寝かせたのむ!」


「何言ってるの?」


「はい?」


「機械が寝るわけないじゃない」


 そうかもしれんとは薄々考えてた。

 でもな、エナ、当たり前って顔されても困るぞ! やれやれってするのやめれ。


「そ、そんな……どうすればいいんすか? 俺たこなぐりっすか?」


「だからこうするのよ。汝ら動くこと能わず……拘束せよ、バイ・バインドッ!」


 四方からつるが伸び、オートマタ達に巻き付いてゆく。そして動きを封じる。

 なるほど、これなら生き物機械関係なく効くわけだ。勉強になったよ。


「ハル、適当に一匹ずつ引き抜いて、ナオはハルが戦ってるのと一緒のを殴る。私とマミはいつも通りで!」


 エナの指示が今日も切れ良く飛ぶ。

 さすがだな、と俺も剣を振りながら関心してしまったくらいだったが、それでも計算外というのはあったらしい。もちろん俺にとっても計算外。


「敵対ターゲット確認しました、排除します」


 リズムの良い両の拳でステップ、ダンダンダダンダン……食らった敵はパタリ。

 ちょ、メオさん強すぎません?


「よしよし射程に入ったな。撃つぞー撃つぞー」


 大口径の銃を構えて撃つ、撃つ、見事命中……哀れな敵はパタリ。

 博士のおっさん容赦ないな。


「ま、負けるもんですか。氷の風よ全てを薙ぎ払って、ブリザード」


 巻き起こる氷吹雪。俺とナオが戦っていたオートマタが倒れる。


「わ、わっ、エナ、範囲やめい、張りあわんでいい、張りあわんでいいからー」


 バインドが解けたオートマタ達が、怒り狂ってエナに向かっていったが、案の定、駆け付けたメオと狙い撃つ博士にそれぞれ一撃でやられていた。


 戦闘終了……


「むー、不完全燃焼~」


 ナオが肩を落としている。わかる、わかるぞその気持ち。


「楽ちんだったー」


 お前はそうだよな。良かったな、マミ。


「一撃で撃破って、いくら何でも調整おかしくない?」


 エナよ、お前が開発責任者じゃないのか! 責任とってくれ責任。


 さて、何とか子供を助けることに成功したわけだが……


「ボク大丈夫? おうちはどこ?」


 マミが既にお姉さんぽく聞いている。

 迷子じゃないぞ、どう見ても。まあ、他の聞き方は思いつかないけどさ。


「お姉ちゃん、クリスを助けて!」


 うん、非常にわかりやすくてよろしい、よろしいが、お姉ちゃんは自分の問いに答えてもらえなくて不満そうだぞ。


「クリスって誰なの? 教えて」


 おっとここで、エナにバトンタッチか。正しい。

 マミもナオによしよしされてるな。早く機嫌なおしといてくれよ。

 さて、俺も真面目に参加しよう。


「クリスはね、人形なんだけど、お話できるの。ボク、クリスと仲良くなったんだ。一緒にお歌を歌ったり、絵を書いたり遊んでたの。そしたら、お話しない人形たちがクリスを連れてっちゃって。ボク頑張って引き留めようとしたら、人形たちに追われて……ふえーん」


「要約すると、クリスはオートマタで、同じオートマタの仲間に連れてかれたってことか? エナ」


「そうみたいね」


「オートマタに連れてかれるとどうなるんだろうな……壊されたりするのか? そもそも何で連れてったんだろう。何か都合が悪かったのか。よくわからんな」


「この子と楽しく遊んでたから、じゃないかしら?」


「人間と楽しく遊ぶ、仲良くすることがダメってことか?」


 それなら目的は、機械同士で仲良くするんだという折檻というか洗脳なんだろうから納得はいかなくはない。


「いいえ、違うわ。そのクリスを恐れたからだと思う」


「すまん、むずかしい。ので、わかりやすく説明してください」


 正直に言ってしまった。

 もはや、ナオとマミが話についてこれなくて、「マンデリてどんなとこだろうね」とか全然別の話をしてるのは仕方ないとして、俺が理解できないのは困る困るぞ。俺はパーティ最後の砦なんだからな。


 エナは少し考え込んでいたようだったが、やがて語りだす。


「博士は完成品、未完成品って言葉で説明してたけど、オートマタにはランクがあるの。たとえば、私達が戦ったさっきの五体はランクが低いのよ」


「マジか、十分強かったぞ」


 一撃で倒す博士とメオがチートすぎるだけで、あのパーティの時と強さは同じだったと俺は推測していた。


「でも、言葉を話してなかったでしょ。上のランクのオートマタになると、言葉を話すの、そこにいるメオみたいに」


 エナが金髪の彼女を指さした。確かに、片言だが会話はできてる。


「言葉は知性ってことか」


「ご名答。低ランクのオートマタと違って、言葉を話せるオートマタは、人間などからの命令が無くても完全に自律して動くことができるようになるの。でも、まだその上があるのよ」


「その上? 言葉を話せる以上の何かがあるのか?」


「最高のオートマタは心を持つの。そこまでいけば人間と同じで差はないわ。心を持つことで、そのオートマタは全てのオートマタを統べることができるの。だから、その子と心を通わせることができたクリスというオートマタを警戒したんじゃないかなって思う。彼らがどこまで自分たちのことを知っているかはわからないけれど」


 自分たちよりも進化したものに危機感を抱くって、アニメや漫画でよくありそうなネタだな。オートマタも必死なもんだ。しかし、気になるな。


「ひょっとして、博士がマンデリに取りに来た最後の材料って……」


「おそらくオートマタに心を宿すためのアイテムなんだと思う」

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