第26話 未完成
「マミ、お前いきなりいなくなったらダメだろうが」
「だってこの子が可愛かったんだもん」
白く丸いオートマタに抱き着いて撫でているマミはとても幸せそうだった。
雪だるまのような外見で、上の丸に目らしきものがついていて点滅している。
手は短くぬいぐるみのような先の丸い手。手の役目を果たしそうにないからあれは飾りなんだろうな。足は無く、どういう仕組みかわからないがぷかぷか宙に浮いている。
「そっかーそれは仕方ないね」
「まあ、仕方ないわね」
「ちょっと、そこの姉さんたち、甘やかしたらあかんぜよ」
「どこの方言よ。それに中に入れて結果オーライでしょ?」
「まあ、そうですけどね……」
ダメだ女子は全員あっちの味方だった。俺男子、少数派。
諦めて、家の中を見渡す。
広さは、普通サイズだが、入り口入ってすぐから、あちらこちらにオートマタのパーツらしきものが転がっていて歩きづらい。浮いてるマミが羨ましい。
奥の方に陣取って、宙から吊り下げられたオートマタの素体を熱心に整備しているオッサンがいるが……あれ多分熱中してこっちの話聞かない系だよな。
「まず、話しかけるところからかよ、難易度高いな」
「さっき玄関のところであれだけ騒いでも反応なかったもんね」
「やっぱりここは魔法で……」
マミが魔法の杖をマントから取り出そうとする。
「待ってくださいエナさん。それは最終手段で。最後の頼みの綱がはじけ飛びます」
「ねーねー、あのオジサンに話したいの? ハル君」
「そうだぞマミ。お前はもしかして話を全く聞いていなかったかもだが、この人が有名なオートマタの研究者グアテマ博士なはずだからな」
「へーすごいんだ~あのオジサン。マルちゃんマルちゃん、オジサンに話しかけられる? こっち呼んできてくれない?」
オートマタが話しかけられてピポピポ言ってる。
おおかた、俺はマルちゃんじゃねーって言ってるんだろうな。
わかるぞ、その気持ち。
「うん、そうなの、どうしても話したいのお願い」
マミ、こいつは……オートマタの言葉がわかってるんか?
お、動いた、博士の方行った、オートマタ。
向うでピコピコいってるよ。
博士立ち上がった。
博士こっちに来た、来ちゃったよ。
でかした、マミ。
「何用じゃ、ワシは忙しいのだぞ」
「グアテマ博士、オートマタの一人者であるあなたが、どうしてマンデリを捨て、こんなところにいるのか教えて」
「あそこにはワシの居場所がのうなったからよ」
「居場所が無くなった? どういうこと?」
「ワシは、オートマタの開発に成功して浮かれておった」
ここに来るまでに聞いたエナの解説では、このグアテマ博士がオートマタの開発者とのことだった。エナの知っているシナリオでは、彼はメルキオールの首都マンデリにいて、彼からオートマタに関するクエストを受ける流れになっていたらしい。彼のオートマタの研究を助けるために。
その彼がここにいる理由、俺達の疑問はまずはそこだった。
「ワシは弟子のブルーマンに地位も名誉も全てを奪われたのじゃ。ワシはオートマタが完成するまでは、世に広めぬつもりであったのに、あやつはその禁を破り、国中のあらゆるところに未完成のオートマタを配置した。その結果が、このありさまよ。完成しておれば、こんなことにはならずに済んだというのに」
この言いようだと、本来俺達がクエストを受けて、彼とともに完成させるべきところを、そのまま未完成のままだったから、オートマタは反乱を起こしたらしいな。おそらく地位や名誉のためなんだろうが、そのブルーマンってやつも余計なことをしてくれたもんだぜ。
しかし、一体完成させるためには何が必要なんだろう?
「どうすればいいの……博士。私達、マンデリを救いたい」
「エナ……」
彼女はこれまで自分の知っているシナリオの中進んできていた。
バルタザールの時は、最初の街のフラグが全て消し飛ぶというイレギュラーはあったけど、最終的には元の流れになっていたし、カスパーの時だって、離れ離れになったアクシデントはあったが、こちらも最後はシナリオ通りだったのだ。
だが、このメルキオール編は最初からイレギュラーづくし。
NPCにもすがりたくなるというものだろう。
「一つだけ方法はある。今そこで私が作っているオートマタを完成させるのだ」
博士は先ほどまで自分が取りつき整備していた素体を指さす。
「ワシの人生最高の傑作、最強のオートマタ、メオ。彼女が完成した暁には、未完成品など話にならぬ」
あの素体が無敵のオートマタになるっていうことか。
燃える展開になってきたな。
「何があれば完成させられるの?」
「それがな、最後の部品は、マンデリのワシの研究所にあるのじゃよ……」
結局一度は行かなきゃいけないらしい。
今やオートマタの手に落ちているというメルキオール国首都マンデリ。
「ハル、辛い戦いになるかもしれないけど、いいかしら?」
「今までも十分辛かったし、変わんない変わんない」
「ナオ、アタシも忘れちゃ、やだぞ」
「あたしもあたしもー。皆と一緒なら絶対に大丈夫だから」
「ナオ……、マミ……」
「大丈夫だよ。ハル君が私達を絶対守ってくれるもん。ねーハル君」
お前なあ、こんなとこで、ふわふわふわふわ可愛いのに乗って浮きながら、ご機嫌そうな顔で、俺のハートを撃ち抜くんじゃありません!
「皆、ありがと。決まったわ、博士、私達はあなたの作戦に乗ります」
「ふむ……ではワシもおぬしらと共にゆこう」
博士は、素体の置かれている装置のスイッチを押した。
眩いばかりの光が周りにあふれ、そして、光が収まった時には、そこに一人の少女がいた。いや、これ、さっき素体だったオートマタか?
肩まである長い金色の髪に、青い目。
背の高さは俺達と同じくらい。
短いスカートの青いドレスを着ている。
「オートマタ・メオ目覚めました」
シュッと両手でファイティングポーズ。
ということは、ナオと同じで殴りや蹴りで戦う感じなのか。
このゲームの戦闘は、異様に武器の無いときに戦わされるから、格闘はむしろありかもしれないな。
いやその前に……
「こいつ、未完成でも動くのか!?」
「みたいね。いいじゃない、今は味方が一人でも増えるのは嬉しいわ。ただでさえ、オートマタの群れの中に潜入することになるんだから」
「オートマタ・メオです。よろしくお願いします」
俺達が自分の話をしているのを感知したのか自分から挨拶してきたっ!?
「こ、これは、どうもご丁寧に、早乙女ハルと申します。以後お見知りおきを」
「どういう挨拶してんのよ、ハル」
「だって、綺麗な女の子だしさ、最初が肝心だろ」
「うん、納得した。あなたに彼女がいない理由」
「何言ってるんだよ、俺にそういうのがいないのは、ゲームに人生かけてるからだって知ってるだろ。一日六時間ゲームしてたらそんなの無理ですー」
「あら、言わなかったかしら、私は片手で別のことできるって」
「もう、いいです……」
「何しとるんじゃ、いくぞ?」
「へっ?」
気が付くと博士のオッサンも、カーキ色のミリタリーっぽい服に黒いベスト、ヘルメットをかぶり、リュックを背負っている。
「グアテマ博士自身も優秀なガンナーなのよ。本当心強い。この辺りは設定のままね、良かったわー」
博士の格好と、エナの満足そうな顔の間で視線を往復させながら、俺はエナのシナリオ通りだった場合は一体どんなストーリーだったのか、知りたくてたまらなかった。
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