第24話 オートマタ
「メルキオールより友好の証として送られたオートマタをご覧あれ」
貴族なのだろうか、派手な格好をした小人が口上を述べると、布で覆われた台車が会場に運び込まれた。
このパーティの余興、なのだろう。
「何だろ、何だろ」
「何か出てきた、何か出てきた」
マミとナオが目を輝かせている。
「エナ、オートマタってことは……」
「ハル、せっかくだから、今は言わないであげて」
マミとナオの不思議に水を差すなということらしい。ならば仕方ないか。
さっきの小人がパチンと指を鳴らすと、バサッと布が下におろされる。
現れたのは、少女?
スカートのすそをもったまま、しゃがんで、前にかがんだ状態。
ナオよりも少し長いくらいの銀髪。
肌は白くまるで人形のよう。纏っている黒いドレスと対照的で透き通るような怪しい美しさを醸し出している。
会場の脇にいる楽団が曲を弾き始めた。
すると、カチッという音と共に彼女は立ち上がる。
そして曲にあわせて優雅に踊る。
「綺麗……」
「ほんとだね」
可愛い、でなくて本当に良かった。
まあ、確かにそうだ。可愛いというよりは美しいの部類に入るだろう。
「人形にはとても思えぬ」
「何という自然な動きよ」
会場の、小人、獣人たちも見とれている。
「あれが工業国メルキオールのオートマタよ」
「メルキオールって三つ目の国か」
「ええ、あれを見てわかると思うけれど、私たちの現実に近いくらいに色んな技術が進んだ国なの」
「へえ、そりゃ楽しみだな」
オートマタとは自動人形。いわゆるファンタジー世界のロボットだ。
ロボットだから、自分で考えて動くことができる。
RPGによっては、オートマタを専用に操る職業なんかもあったりするが、このゲームではどうなのか。裏切らない相棒って感じでいいよな、ロボット。ちょっとあこがれる。
「えっ、あれってお人形さんなの?」
「どうやって動いてるんだろね。普通の女の子かと思ったよ」
エナから説明を受けた二人が驚いている。
そうだろうそうだろう、びっくりするよな。
だが、マミ、そういうことは疑問に思ってはいかん。
ファンタジーなんだから不思議な力で動くんだ。
こういう世界ではからくりイコールコンピュータなんだぞ。
どういう仕組みなのか本当俺も知りたい。
しかし、良く動いてるよな。
あれ……、手の辺り、今キラッて何か反射した気がする。
ジャンプした、そっち王様のいる方じゃね?
キャアアアアアアアアアアアアアアアア
突如として巻き起こる、パーティ会場をつんざく声。
オートマタが両手に剣を持ち、王様に斬りかかったらしい?
いや、らしいじゃまずいな。
「ナオ、いくぞ」
「了解っ!」
俺とナオは王の方へ駆け出す。こういうときは前衛はダッシュだ!
「マミ、私達もいくわよ」
「うん」
後ろで後衛組の声。いいな、パーティ一丸となってるこの感じ。
おっといかん。王様は無事か?
MMORPGの常ではあるのだが、俺達の到着を待つ形でシーンが止まっていた。
剣で襲い掛かるオートマタ、王様を後ろに庇い、それをフォークとナイフで受けるカモミール。さすが獣人族一の勇者だ……
「無事かっ、王様」
「カモミールのおかげで何とか、な」
「王様は、ルイボスはやらせないよっ」
オートマタは、無表情なまま、両手の剣をふるっている。
カモミールはそれをフォークとナイフで捌いてはいるが、いつまでも続くものじゃないだろう。
「おっし、みんないくぞ!」
「いくぞって……アタシ達ドレスなんだけど……」
そうだった……武器も防具も無し。何でいつも俺達こういうのが多いわけ!?
「ナオはそのまま戦って、私が魔法で援護する。マミは回復をナオに集中。ハルは……適当にその辺で遊んどいて」
酷くない、それ? 確かに武器盾ないと役にたたないけどさ、戦士俺。
おかしいよ、このゲーム。格闘家優位すぎるよ、修正希望します。
「何か言った?」
「いえ、何も言ってません」
こいつ、心を読むのか!?
さて、そんな俺の悲しさむなしさとは裏腹にバトルは始まった。
「オラオラオラオラ」
ナオのラッシュ。オートマタがぐらつく。
お返しとばかりに両手の剣が舞う。
それをバク転して華麗にかわす、ナオ。
「そんなのあたんないよっ」
「汝動くこと能わず……拘束せよ、バインドッ!」
エナの詠唱により、オートマタの四方からつるが伸びて、その手足に巻き付く。
移動不能、素早さダウンの表示。
補助系魔法を使うなんて珍しいが、前衛が一人というのがありそうな気がする。
すんません、役に立たなくて本当すんません。
「えーっと、回復回復~」
そういうマミは特に回復してるわけでもない。
何も言えないと寂しい子らしい。
大人しく俺の仲間になってくれよ。
俺なんてセリフすら許されてないけどな、ハハッ。
こうして俺が自虐している間にも戦闘は順調に進み、俺達、違った俺を除いた三人は見事、オートマタを倒すことに成功した。
「このオートマタはメルキオールから送られたもの、ということはやはり……許せぬ、我が王の命を狙うなど!」
大臣らしい人が憤っている。
「めったなことを言ってはならん。国同士の争いとなれば、大変なことになる」
「申し訳ございません。出過ぎたことを申しました」
「いや、そなたは私のためを思っていてくれているのは良くわかっている。私も油断していた。カモミールがいなければ、危ないところだった。ありがとう、カモミール」
さりげないヨイショ。カモミール照れてるな。いいぞいいぞご両人。
獣人の勇者が王の命を救ったら、小人も獣人見直すよな、イイ感じだ、うん。
「そして、殺人オートマタを倒してくれたそなたたちには、どう報いたらよいのかもわからぬくらいだ。本当に感謝している。そうだ、我が王家に伝わるピアスを授けよう」
出てきた出てきた。
青い宝玉のピアスは、攻撃回数アップ。前衛用だな。
赤い宝玉のピアスは、MP消費低減。魔力消費の多い、ウィザード用だな。
白い宝玉のピアスは、リキャスト短縮。プリーストの回復連打によさそうだ。
「あたし白にするね」
何も言われないのに、マミは迷わず白のピアスを選択していた。
「どうして? 別にここは赤でもいいのよ?」
「小人さんと獣人さん、回復してたときにね、もっと早く次の魔法唱えられたらなって思ってたの。この指輪があれば、速くなるんだよね」
バルタザールの時の記憶から、色で判断するだろうと思っていた。
間違ってた。彼女を侮ってた。
色よりも、能力、自分が職業として欲するものがわかっているのだ。
彼女は、もう一人前のプリーストだった。
「さて、褒美を与えた代わりという訳ではないが、そなたたちに頼みたいことがある」
来たか……来るとは思ってたけど。
本当わかりやすいな、エナ。
「先ほどのオートマタの暴走。けして友好国メルキオールを疑う訳ではないが、何者かの悪意を感じる。我が国の特使としてかの国に参り、実情を探ってはくれぬか?」
「なあ、エナ?」
「何よ?」
「俺達って、そもそもバルタザールの特使じゃなかった、あれどこいったわけ?」
「いいじゃない全部の国の特使になったって! 前にも言ったかもしれないけど、シナリオについての意見は認めないわっ!」
出た、暴君エナ。
けどなんだろうな、さっきの戦闘での冷たい扱いに、この意見のつまはじき、酷い扱いを受けているにも関わらず、何故か喜んじまってる自分がいる。
……ヤバい、このゲームクリアしたら病院だな、病院。
そんな俺の後ろでも、似たような感慨に浸っているやつがいるようだった。
「二人も楽しかったけど、やっぱり、エナちゃんのこれを聞くと安心しちゃうかな」
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