第12話 諍い
「何だ、ダージリン。俺に何か用か? 従者まで連れて」
エルフの王子アールグレイがニコリと微笑みながらナオに尋ねる。
金色の長髪をさらりと流し、貴公子然とした王族の服を着ている。
その風貌、まさにエルフオブエルフだ。
「あ、あの私、ええっと、その……」
ナオは口ごもっている。口ごもりすぎだろ。
思い出すと、こいつ、小学校の演劇とかでもセリフ上手く言えなくて苦しんでたな。ここまで来ると性格というやつなんだろう。
演技は苦手。でも、それって嘘がつけない性格でもあるわけで、悪いもんじゃないよな。こんなときでなければ、うん。
あれ、こいつ赤くなってないか?
まさかイケメン王子サマにやられちまってないよな?
演技が苦手が原因だよな? そう言ってくれ……何となく。
「皆まで言わずとも良い」
言わんでいいのか、とつっこみたくなるが相手はNPCだ。我慢我慢。
「私のことを心配してくれたのだろう」
「どういうことなの?」
ナオが、お姫様権限で尋ねるが、相手には届かなかった。
どうやらこれは自動再生のモノローグっぽいな。
バツが悪そうに、口を閉じるナオ。
大丈夫だ、少なくとも俺と京極はお前が悪くないってわかってるから。
「最近我が弟アッサムの周りに不穏な動きがある。あいつ自身には野心など無いというのに困ったものだ。この間の狩りに出ていた時も、私の至近に矢が突き刺さって……」
京極の言う通り、兄のこいつは、弟と王位継承の争いに巻き込まれているらしい。
本人達にはその気はないっていうよくあるパターンだな。
話している内容から、アールグレイ王子は、武力の男、職業はナイトっぽい。
責任感があり、常に前線に立つリーダータイプで、男ならついていきたくなりそうだ。
必然的に、彼の後ろ盾はバルタザール王国騎士団。
何となくだが、流れ的にこいつに王位を継がせるために頑張る俺達なクエストになりそうな予感がする。
だが実はこいつも腹黒で、とか、騎士団に悪いやつがいて、というのも無くはない。だから、俺たちは、王子の話が終わると、別の王子のところに行くことにした。
「最近兄上が私に冷たいのだ。目を合わせようともしてくれぬ」
もうひとりの王子、アッサム。彼は、女子の髪型で言えば、おかっぱくらいの髪の長さの銀髪で、眼鏡をしている。
兄よりも小柄、というか俺よりも小さい。いかにもな王子様だ。
最初に部屋に入ったとき、「可愛い……」というため息交じり声が聞こえたので俺は慌てて姉小路の前に手をやった。
すんでのところで間に合ったらしい。俺の手にぶつかって止まる彼女。
「痛い、酷いよハル君」とかそういう問題じゃねえだろ。
危ない、目が輝きすぎている。
というわけで、女子から見ても可愛いことが実証されたわけで、この国の民にも愛されてそうなのは理解した。神輿に担ぎたくなるタイプ。兄王子とは違った意味で王様に向いてそうだな。
続けて話している内容から、彼は魔法が使える騎士らしい。
この外見で、体が弱くて、兄のような騎士になれなかった設定は女子の人気を集めそうだな。それはさておき、職業でいえば、魔法戦士が近いか。
剣も魔法もできますっていうのはどちらもエキスパートにしてしまうと、他の職業がいらない子になってしまうので、大抵は中途半端にさせられてしまうことが多いが、その代表のような職業だな。
彼の後ろ盾は、当然のようにバルタザール国魔法騎士団。
使える魔法の範囲にはよるが、十分ナイトメインの騎士団と渡りあえそうな気がする。確かにナイトは普通のゲームだと魔法への抵抗力は高い。
しかしそのナイトの騎士団と並びたつんだろ、魔法騎士団。
騎士団同士の試合とかもあるだろうし、魔法の命中率が恐ろしいほどに高いっていう可能性も捨てきれん。
「私のことを次期王にという者達もいるが、困ったものだ。私は王には向いていない。勇ましく常に前に立つ兄上こそが相応しいと、そう思うのだ」
なるほど、性格が良すぎる。優しいんだな。だから、賢くても周りの人間の策謀を止められないんだろう。心情的にはこいつの側についてやりたい気もする。
だが、こいつも実は腹黒で、とか、魔法騎士団に悪いやつがいて、というのも無くはなかろう。というわけで、ベタすぎるものの、俺たちは城の中にあるという騎士団の屯所に向かった。
「アールグレイ様こそが、次期国王に相応しいというのに、魔法騎士団のやつらときたら……ダージリン様もそう思いますよね?」
「僕もアールグレイ様のような、常に先頭に立って戦う騎士になりたい。そう思って、騎士団に入ったんです。頑張ります!」
「騎士ならば頼むは己の剣のみ。魔法などとはあさましい」
なるほど、こっちのナイトな騎士団は予想通り、アールグレイに心酔してる。
これが忠誠心ってやつか。
魔法騎士団との軋轢はやはりありそうだな。
「アッサム様って可愛いよね、可愛いよね、可愛いよね。もー守ってあげたくなっちゃう。今夜こそ、こっそりベッドにお邪魔して……」
「あー抜け駆けずるいよ。アッサム様は皆のものなんだからね。ダージリン様、見逃してくださいっ」
「これからの王に求められるは知性。王家の中で随一のアッサム様こそ、王にふさわしくはないでしょうか?」
「魔法を使わぬのは時代遅れよ。好んであちらの騎士団に入るものの気持ちは全くわかりませぬな」
うん、なんとなく想像はしてたけど、魔法騎士団の方が女子多いな。
まあ、忠誠心ぽいのは変わらないな。変わらないと思いたいぞ。
愛されてるよなーアッサム。同じようにパーティ女子ばっかなのに冷や飯食わされてる俺的には複雑な心境だよ。うらましいなんて絶対に言わないからな。
さて、これでフラグは立った感じか?
次期王位をめぐる兄王子アールグレイ派と弟王子アッサム派の対立。
それは、騎士団と魔法騎士団の二つの騎士団の対立でもある、と。
元々王位継承は、兄王子に決まっていたわけだから、この流れ的に弟王子を傀儡として担ごうとする悪役がいるんじゃないかと思うが、この後どこかで怪しいイベントでも起きるのか……あれ、そういえば。
「京極、お前、このゲームのシナリオ全部わかってるんだよな?」
「一応全部目は通してるつもりよ」
「なら知ってるんだろ、この後どこにいけばイベントが起きて、ストーリーが進むのかってこと」
「想定していたのと変わってしまっているから確実とは言えないけど、おそらくわかると思う」
歯切れの悪い言い方だけど、そうか、最初の街のフラグが全滅するのが想定外で、この特殊条件による展開も把握してなかったって言ってたな。
でもまあ、普通こういうのは大筋のストーリーと矛盾することはないだろうし、問題ないだろう。
「だったら早くいこうぜ。早くあの兄王子を漢にしてやらんとな」
「えー弟君の方が可愛いのに……」
姉小路が口をとがらせている。
「何言ってるんだよ。こういうのは大抵弟のバックに悪い奴がいて、そいつ倒して終わりなの。そーなんだろ、京極」
「いいえ、そうとは決まってないわ」
「どういう意味だよ。つこうと思えば兄側にも弟側にもつけるってことか?」
「ええ、そうよ」
マジかよ。なんつー柔軟なストーリー分岐。
「やったー、じゃあ弟君だね」
「待て待て待て待て、そういうことなら良く考えないとだろ」
「どうして?」
わかんないって顔して首を傾げる姉小路。
可愛い。確かにお前は何をしても可愛いがそういう問題じゃないんだぞ!
ゲームは遊びじゃないんだ!
「これは単なる兄弟間の問題じゃない。この状況を作り出してる何者かがいるんだ。その何者かを倒さなけりゃならない。その目的に近い側を選ばんといかん」
「ハル君意外に頭いい」
「意外に、は余計だ!」
「早乙女ハル、全力でこのゲームを楽しんでくれてるのは嬉しいんだけど。ここで大事なのは、お姫様の意見じゃない?」
京極が珍しくニコリと笑う。
その向こうでは、話を急に振られたナオが慌てていた。
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