第13話 鏡を探せ
ナオの選択は驚くべきものだった。
「うーんアタシはどっちにもつかない、かな」
「おいおいおい、そんな政治に関心の無い、日本人の若者みたいなこと言わないでくれよ。それじゃ話が進まないだろ」
「ちょっと、早乙女ハル。ナオの話を遮らないで、まず聞きなさい」
京極エナの雷が落ちた。また死体になるのだけはごめんだ。
ここは大人しくしておこう。
「皆と会う前にアタシお城の中結構歩いたんだけどさ、その時に偶然聞いちゃったんだ」
「聞いた……何を?」
「恰幅の良い貴族の格好したオジサンと、紫色のローブを着て杖を持ったオジサンが話してたの……『二王子共倒れ計画』とか言って」
ナオの聞いた話はこうだった。
王子達が明日狩りに出かける。
これは、兄王子に相談された貴族のおっさんのほうが薦めたらしい。
城の中では人目があって話しづらいなら、お二人でこっそりお忍びで狩など如何ですかと。
ローブのおっさんは弟王子に相談されて、いいことです、この際二人でとことんお話になってくださいと背中を押したとか。
お供も連れず、無防備な二人を、ローブのおっさんの配下に襲わせる計画なんだと。自分の手は汚さないってやつか。
わかりやすい黒幕どもだな。どうせ貴族のおっさんのほうが王の親戚か何かで王位継承権があるとかなんだろ、これ。
「京極、何となくシナリオの背景は分かった気がするが、王子二人油断し過ぎじゃね?」
「そういうツッコミはテストプレイでは受け付けてないわ」
冷たい、絶対零度な視線。シナリオへの意見は言っちゃダメなのかよ。
でもまあ、普通にリリースされる世間のMMORPGだって似たようなもんか。
一般的には大事なのは話の常識性とか整合性とかよりも、盛り上がりだからな。
王子二人危ない、迫る国家の危機、知るは俺達のみ。
これでいいんだ……。
「全員、依存はなさそうね」
「無い、あるわけ無い」
あっても言わせねーんだろーが、と首まで出てきたが我慢した。
俺はこのゲームをやることで我慢強さの値が上昇している、多分。
「可愛い弟君だけじゃなくて、お兄様もピンチなら、二人を救うために頑張るしかないよね、あたし達」
良かった。姉小路にもシナリオが伝わっている。やる気になってる。
やっぱり話がベタでも内容のわかりやすさって大事なんだなー。
「ありがと、みんな」
ナオは嬉しそうにほほ笑んだ。
姫様の笑み、だな。綺麗だぞ、ナオ。
「じゃあ、いくわよ」
「行くってどこにだ?」
「『時渡りの鏡』へ」
「『時渡りの鏡』?」
「イベントを進めるためのポイントよ。フラグが立ってたらそこにいけばイベントに飛べるわ」
なるほど、自由プレイが基本のVRMMOではあるけれど、だからといってプレイヤーごとに世界を用意するわけにはいかないから、今回の狩場事件とかは、特別なエリアで行われるってことだ。そうしないと同じ世界を共有してる、シナリオ進行度の違う他のユーザに影響しちまうからな。
『時渡りの鏡』っていうのはそこに飛ぶための、ワープできるポイントのことなんだろう。
「それどこにあるんだよ」
「フラグが立った時点で近くに現れるはずなんだけど、おかしいわね」
「まさかお前バグとかじゃないよな?」
「しっつれいね……確かにこのテスト段階ならあり得るかも」
「おいおいおいおい、心の中がそのまま出てんぞ」
「とにかく探すのよ」
俺たちは探した。城の中を隈なく探した。
黒幕達の同じ会話を三回くらい聞くぐらいには探した。
……本当にあるんか、それ。
こういった事態の制限の常で、城の外に出ることはできなかった。
王女様のナオが、外出はなりませぬ、と止められちまうんだな。
良くできてる。できてるのに何でワープの方は見つからないんだよ。
「本当にあるんか、『時渡りの鏡』。実装漏れじゃないのか、京極」
「実装漏れだったら、前のパーティの六人が進めないはずだから、そんなことは無いと思うんだけど、ここまで来ると、自信が無くなってくるわね」
前のパーティ……そうか、当たり前のことだが俺たちの前のパーティもテストでシナリオを進めてたんだ。AI魔王がこの世界を乗っ取るまでは。
俺達はそのうちの四人と入れ替わりでテストしてるようなもの。
……
「なあ、前のパーティの残りの二人って、まだこの世界にいるんだよな」
「その、はず。かなりシナリオを進めてたはずなの」
なるほど、彼女達が詰まっていたなら、この城にいるはずだけど、いないってことはどこかに鏡があるはずってことだ。
そんなことを考えながらも俺は彼女の憂鬱そうな表情が気になった。
「AI魔王の反乱って、お前のせいじゃないんだろ。そんな思いつめたような顔するなよ」
「この世界の創造者としてはね、どうしても責任感じちゃうのよ」
「魔王倒すついでに見つけるさ、そのために俺達来たんだろ」
「早乙女ハル……」
「カプセルのハードのこともあるんだろうけど、四人で来たのは、その二人と合流してパーティを組むためなんだろ。メインシナリオがそんなに分岐するとは思えないから進めてけば絶対逢えるさ」
「ありがと」
「どういたしまして」
「イチャイチャ、終わった?」
至近距離に姉小路。
「イチャイチャじゃねー」
「何言ってるのよ、マミ!」
「そっかー、良かった。ナオちゃん、イチャイチャじゃないんだって」
「べ、べつにアタシ、そ、そんなこと気にしてないから」
メチャメチャ気にしてるのを感じるが、言ってはいけなそうだ。
考えてみると、経験者だから仕方ないとはいえ、作戦を考えるときは俺と京極だけで話してることが多い気がする。
ナオと姉小路は仲が良いし、二人でその間は話してくれればとは思ってたけど、本当は全員で共有すべきかもしれないな。
「それでね、ナオちゃんと話してたら、まだ探してないところあるなって気づいたんだよ」
「何だと、姉小路、それを早く言え、どこだ?」
「えっとね……」
彼女が言いづらそうにしていた理由は、その後に続く言葉で明らかになった。
そんなはずないだろうと思ったが、こういうときは得てしてその予想は覆るものだ。
「二つの選択肢のうち、まさかこっちにあるとはな……俺としては良かったが……」
俺の目の前に、おっさんがびっくりした表情でいる。
それはそうだな、致してる最中にのぞかれればこうなる。
そしてその向こうに、光輝く鏡があった。
俺の後ろ、扉の向こうで、俺の報告を聞いた女子どもの声が聞こえる。
「マジでこっちか……なんで女子の方じゃないのさ……」
「でもでもナオちゃん、これでハル君を犯罪者にしなくて済んだよ」
「その理屈だと、逆に私達が犯罪者になると思うんだけど、マミ」
「ええっそうなの? 女子が男子トイレに入るのもダメだったんだー」
いや、ちょっと待て姉小路。お前、入ったことあるのか?
何してた? 何してたんだ? 気になる、なりすぎるぞ!
……いかんいかん、今はそれどころじゃない。
もういいだろう。
姉小路が気づいたのは、トイレだった。
中世的な世界観だというのもあるし、やはり綺麗なものではないから、ファンタジーではタブーとされ、実装されていないことが多いが、このゲームではなぜかあった。普通に、現実と同じような水洗のそれが。いいのか、これ?
「魔法が普通に存在する世界なんだから、そういうのも魔法で何とかなるのよ」
ハイ、京極様、納得したんで攻撃魔法とかはやめてくださいませ。
パーティで回る範囲から外してたのは、倫理的な問題というか、先ほどの女子勢の会話でわかるだろう。
「私達、目瞑って後ろ向いてるからその間にさっさとやって、早乙女ハル」
「ハイハイ、わかりましたよ」
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