第7話 対策会議

「つまり、街の外には魔王クラスの敵がウヨウヨいるってことか」


「そこまで強いかは分からないけど、各モンスターの最高レベルなのは間違いなさそうね」


 あの後俺たちは、街の中に戻り対策会議を始めた。

 本当は、敵をあっさり倒し、狩の基本、職業の動きの基本を不慣れな二人に教えたかったのだが……まさか最高レベルの四人パーティで敵一匹に一掃されてしまうとは。


 傍らでは姉小路マミが、魔法って凄いね、と感動している。

 姉小路の生まれて初めて使った魔法が自己蘇生魔法で、二回目以降を数えても、蘇生以外の魔法を使っていないというのはめったに無い体験だろうけれど、それを喜んでいる場合じゃない、喜んでる場合じゃ無いんだからな。

 お前がいくら可愛くても敵は容赦してくれんぞ、さっきのように。


 ナオは完全に不完全燃焼で、フィットネスクラブにいるかの如く、拳を宙に繰り出している。シャドーボクシング、サマになっている。

 敵を殴らせてやれないことが悲しい。


 さて、事実を認識しすぎている経験者二人は、二人で悩むしか無いのだが、どう考えても詰んでいる現実に押しつぶされそうになる。


 ただのウサギであの強さ、外は最高レベルのモンスターがウヨウヨしていると考えられる。俺たちが、チートでレベルとステータスを強化しているように、AI魔王も対抗してモンスターのレベルを同様にチートしやがったのだ。これではチートの意味がない。

 せめて最高装備だったなら、もう少し食い下がれたかもしれないのだが、全員初期装備。ナオに至っては武器すらない。

 これでどうしろと言うのだ。


 全く不具合だ、サーバメンテものだと理不尽にも考えてしまう自分がいた……そうだ。


「なあ、一度メグさんに連絡して、モンスターのレベルのこと伝えてシステムレベルで何か対応してもらうことってできないのか?」


「……できないのよ」


 あっさり言われた。

 そして嫌な予感。京極がしおらしい時は、いいことがない。


「きかせて、もらえるか?」


「連絡がとれないの」


「なるほど、連絡がとれないのか、それは仕方ないな、っておいおいおいおい」


「おそらく、これも、システムを管理してるAIに遮断されてそう。メグがこの状況わかってくれれば、対応を考えてくれてるとは思うんだけど、どうかな……」


 シンギュラリティだ、AIが反乱すると大変だ、というのは何度も聞いたことはあるが、自分は意味がわかっていなかった。ゲームには関係無いって思ってたからな。


 AIの反乱ヤバすぎる。

 人間手も足も出ない。

 これじゃゲームにならない。


「ごめん、あれほど念入りに準備したのに」


 気がつくと、京極エナが泣きそうな顔になっている。

 困る、既にどう対応したらいいかさっぱりわからない状況だが、ここで泣かれるとさらに訳わからん状況になる、俺が。

 ここは、全力で慰めねば。


「こんな状況予想できるわけないさ、仕方ないって、京極」


「ハル……」


「それに敵が最高レベルだとしても、こっちも最高レベルなんだから負けてない。優位が打ち消されただけだ。よく考えてみると魔法は全部覚えてるわけだし、生産系スキルだってある。武器と防具が初期装備なのが痛いだけじゃないか」


 口からでまかせの割にまともな意見になったな、俺。

 今まで培ってきたMMOの経験が生きてる。生かせてるぜ。


「そういえば、そうね」


 おっ、エナ復活した?


「私としたことが、チートされたことがショックで色々見えなくなってたみたい。感謝する早乙女ハル。さすが私が見込んだプレイヤー」


 そこは男と言って欲しかったがまあ悪い気はしない。


「武器と防具を手に入れましょう」


 こんな最初の街でどうするのかと思わないでもなかったが、このゲームを最も知っているのは彼女。従うしかないだろう。

 俺は心を決めた。


「よし、それでいこう!」





「無いわね」


「無いな」


 競売所の前でため息をつく。


 MMORPGでの競売所というのは、プレイヤーがモンスターを倒して手に入れたアイテム、ダンジョンの宝箱から手に入れたアイテム、鍛冶、裁縫、錬金術などの生産スキルで作成したアイテムを売買することができる場所だ。プレイヤーがいてこそ成り立つしくみ。


 なのだが、流石にそれでは最初から盛り上がらないだろうというのと、変に価格のインフレやデフレが起きるといけないというので、一応それなりの数のアイテムをそれなりの価格で登録してあるらしい。

 マサムネ、グングニルといった最終装備っぽい名前の武器に、オリハルコンやヒヒイロカネといったファンタジー系MMORPGにて、終盤の装備を担う素材まである。


 確かに、手に入りにくいレアアイテムが市場の需要と供給とはいえ、不要なまでに高騰するのはゲームでリアルマネーを稼ぐという業者の思うつぼ、よく考えていると思う。市場に介入し調整する。どこの日本銀行だよ、さすがアン姉さんだ。


 ここまで出てると、すぐに飽きられてしまうのではないかとも思えるが、このゲームはβテストだってまだだ、そのあたりは今後のテストによる調整を考えていたのだろう。


 というわけで、アイテムが無い、わけじゃない。

 現在の所持金で買えるアイテムがないのだ。


 当然チートで所持金はマックスだったはず。

 AI魔王のチート対策は、装備だけでなく、俺たちから金まで奪っていたのだ。

 開始直後のユーザと同じ金額を残しておいてくれたのは、せめてもの情けなのか。

 ……いや、単に初期値にしてるだけだな、これ。


「お金が無いって悲しいことだったのね」


 お嬢様っぽい発言。

 ナオから聞いた話では、京極エナはKGゲームスを傘下に収めるKGグループの会長の一人娘なのだという。

 あの黒塗りの車も納得だ。

 金に困ったことなどないのだろう。


 俺なんて、金がないからMMOやってるみたいなもんなのに。

 MMOはユーザからのお金の徴収の仕方にもよるが、アイテム課金性のゲームで湯水のようにお金をつぎ込むとかで無ければ、基本そんなに金は掛からないのだ。

 コストパフォーマンスの良い娯楽。

 だから逆に時間を気にせず遊んでしまうのだが……ゲームは一日六時間、守ってるからいいよな? 土日は、見逃してくれ。



 しかし、困ったな。

 他に武器・防具を手に入れる手段というと、店からの購入ってのものあるにはあるが、大抵のMMOでは競売の武器に劣るものしか売ってないし、この最初の街レベルだと、初期装備に毛が生えたくらいのしかないだろう。しかも競売所より高いはず。

 そうでないと、競売所がある意味がないからな。 


 と思っていたのだが……


「何だこの豪華なラインナップは!?」


 武器屋の品揃えは競売にある品と遜色無かった。

 競売にあったグラム、グングニルに加え、エクスカリバー、クサナギ……いやむしろこっちのほうが豪華かもしれん。


「どういうことだ、京極? 最初の街がこんなんじゃ、ゲームにならなくないか。まあ、買えるかどうかは別として……」


「早乙女ハル、あなた忘れてない、このゲームはテスト中よ。最初の街で全部購入できなきゃ効率悪いでしょ。防具屋も道具屋も同じ。所詮はテストデータよ」


 なるほど、納得はいった、いったが、金額的に手が届かないのは変わりが無いぞ。


「使えそうな武器や防具は金があれば手に入れられそうなのはわかったが、俺たちにはその金がないぞ。何か稼ぐ宛あるのか?」


「気はすすまないけど、やるしかないわね」


 不敵に笑う彼女に、俺はこの時も悪い予感を感じていた。

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