第3話 女神の依頼内容
「京極、まさかお前、アン姉さんか?」
「そうだけど?」
オフ会ならまだいい。多分まだいいんだ。行ったこと無いけど。
この出会いは厳しすぎるだろう……。
アン姉さんは結構シモネタもいけることから、中身男かもしれんと思って油断しちまってたよ。ペットボトルネタとか鉄板だしな、言っちゃうのわかるよな?
きいてたのは、まさか俺自身からとは……。
「すみませんした。ペットボトルとか嘘ついてました、自分」
「今更ね」
つ、冷たい。とてもギルドのたまり場で、いつも俺に優しく接してくれるアン姉さんとは思えん。
「ア、アタシノコト騙シテタノネ」
思わず口調が怪しいオネエにもなろうってものだ。
「キモっ」
トドメをさされたよ……
俺は開き直ることにした。
「もういいよ。でさ、俺を連れてきたの何のためだよ、早く用事すませて帰りたい気持ちでいっぱいなんだけど俺」
「話が早くて助かるわ。じゃあ、あっちの部屋でこれに着替えてきて」
そう言ってテーブルにあった紙袋からとりだした者を手渡された。
こ、これは……
「海パン?」
そう、どう見ても海パン。言い方変えても水泳パンツ。
「ちょっと待て、わからなくなってきた。これから海いくのか? それともプールか?」
「何言ってんのよ、そんなとこ行かないわよ」
「海パンに着替えていくとこなんて他にないだろうがよ」
「マギアムンドよ」
「マギアムンド?」
「厨二ならスペイン語くらい覚えておきなさいな。魔法の世界。そして魔王に支配された世界よ」
いや、別に厨二が外国語できるわけじゃないぞ。
「大きなお世話だっ、て……魔王に支配された?」
異世界ファンタジーなゲームであれば良く聞く設定ではある。
というか鉄板だろう。魔王。
まさか、こいつ……その異世界からやってきた女神だとでもいうのか?
「察しが悪いのね。ゲームの世界よ、ゲームの世界」
……そうだと思ってたさ、うん……あれ?
「いや、もっとわからないぞ、ゲームするのになんで海パンイッチョにならないといけないんだよ」
「はあ、仕方ないか、後でまとめて説明するつもりだったけど、今する」
ため息をつきやがったこいつ。だがこいつはアン姉さんか……機嫌を損なえばむし返される可能性もある、このまま乗っとこう。
「お願いします」
「あそこにあるカプセルは、ウチの会社KGゲームスの試作機よ。中は特殊な媒体で満ちているの。服だと濡れちゃうでしょ。だから裸に近い格好で入るのよ」
「なるほど……ってお前説明端折りすぎだ。何となく、あのカプセルに入ればゲームができる予感がするところまでは納得した。だから海パンなのも理解した。多分それが魔王に支配された世界を救うゲームなんだろうなってのも推測した」
「あら、あなたにしては完璧じゃない」
「ただのゲームじゃないんだろ。何させる気なんだよ」
俺が感じた違和感は、彼女、京極エナに垣間見える焦りだ。
今日学校で出会ったときからそうだが、こいつは何か焦っている。
でなければ、初対面の俺に「助けて」なんて言わない。
このゲームをすることが助けることに値するのだろうが、そこのところをはっきりさせておきたかったのだ。
「ここ『第二テストルーム』では、マギアムンドを舞台としたVRMMOのテストを行っているの。そして、私、京極エナは、このゲームの開発者」
いろいろとぶっ飛んだ話ではあるが、俺と同じくらいの時間を仮想空間で過ごしてテスト学年一位のやつだ。
分身の術が使えるのか、実は二人以上いるのかはわからんが、とにかく納得するしかあるまい。
「あのカプセルに満たされる特殊な水アムリタ、人はその中に入ることで特殊な睡眠状態に入るの。そして、夢の中と同じで完全な五感でゲームを体感することができるわけ」
「……何かすっげー昔のSF映画並のサイズな気がするんだけど、もうちょっと小さなサイズで頭につけるとかそういうのにはならないのか?」
「クックックッ甘いわね、早乙女ハル。そんなのつけててお手洗いにいきたくなったらどうするのよ!」
「な、何だと……」
長時間MMOをやったことがある人間が必ず一度は通る問題。
それはトイレ問題。
狩り場でもボス戦でも、持ち場を離れて良いタイミングがあればそれでいい。そこで宣言して、パソコンの前を離れ、トイレに直行だ。
問題は、ラスボス手前の迷宮等、次から次へと敵が襲ってきて、安全エリアが無いケース。必然的に長時間トイレに行けない。
やってる人間は基本大人だからな。漏らすわけにはいかん。
何、黙って行けばわからないんじゃないかだと。
戻ってきたときには、迷宮でひとりぼっちか、周りが全滅だ。
そしてバレたら当然ギルドは首だ。
野良パーティでも悪い噂を立てられるだろう。
……だからペットボトルは禁止だと言ってるだろうが。
SFでよくある小型で頭につける神経接続タイプのものは、トイレを考えたときに、ログオフして外してトイレに向かうまでの時間を考えると現実的ではないだろうというのが、ゲーマーの共通した見解らしい。
仮想的なモノにそこまでケチをつけてどうするのかと俺は思うが、プレイヤーが生身の人間である以上VRMMOを開発する上で、トイレ問題は避けて通れないものであることは確かだ。
「まさかお前、このカプセルには……」
「現在NASAで開発中の宇宙服と同じ仕組みのトイレ機能がついてるのよ、男女兼用。さっき渡したパンツはこれを利用する前提になってるわ。ちなみに、上半身と下半身の浸かる層は別々だから変な心配はご無用。これで安心して何時間でも没頭できるでしょう」
こ、こいつ……やはり天才と何とかは紙一重なのか!?
「それだけじゃなく、水分供給機能もあって、宇宙船みたいに排泄した水分を純粋な水として再利用可能になってるの。エコでしょエコ」
な、何だと、それは人としてやってはいかんだろう……。
目を輝かせて自分の成果を語るこいつに、俺はこれだけ言いたくなった。
「エコ機能はいらねえ……切れ」
俺の目が怖かったのか、エナは震えながら頷いていた。
あれ? ふと俺は震える彼女の向こうに稼動する二台のカプセルが気になった。
「向こうの二台って、誰か入ってるのか?」
「うん……」
「何だよ急に弱々しくなりやがって」
「出てこないの……」
「何ッ!?」
「出てこれないの、魔王のせいで」
「ちょっと待て、それメッチャ重要な気がする」
彼女は、下を向きながら、語った。
VRMMOシステムがほぼ完成し、テストユーザによる最終調整を行っていたこと。
しかし、テスト中にVRMMOシステムのAIが暴走し魔王としてシステムを乗っ取ってしまったこと。
参加者六名のうち、四名は何とか脱出できたが、二名は中に残ってしまったこと。
ちなみに脱出できた四名は、意識不明なまま現在病院で治療中だという。
「まさかこんなことになるなんて……思わなかったんだ、私」
「助けて欲しいって言ってたの、このことだったのか」
「うん……隠しててごめん」
「その二人、助けることはできるのか?」
「乗っ取られたシステムを解放できれば……魔王を倒せれば、多分」
「やれやれ、命がけになりそうだけどやるしか無いか」
「いいの?」
「やるしかないんだろ、ここまで聞いといて、断れねーし。それにアン姉さんの頼みとあっちゃな。俺の腕を見込んでくれたってことなんだろ」
「フリュン……ありがと」
珍しくしおらしい彼女の顔は、俺に覚悟を決めさせるのに十分だった。
「大丈夫、アタシ達もいるよっ!」
「あたしも、頑張ります」
「何? どういうことだ」
俺は考えを巡らす。ふと見ると、開いてるカプセルは四つ。
ここにいるのは四人。
何だ数があうじゃねえかよ、ってマジか。
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