82話 乾いた大地 ~硫黄な空気~

「ファストトラベルでここに飛んだほう早いな」



 ツキがそう言ってピットボーイの地図を指さしたのは、一度訪れた事があるサメル農園だ。



「あ、ここなら前に行ったから飛べるね」

「そこが一番近いけど、そっからも結構歩くぞ」



 はぁ、また歩くのかぁ。まぁ仕方ないか、とりあえずファストトラベルしよう。



「先に行ってるぞ」

「あ、待ってよ!」



 先に消えた二人の後を追うように、急いでファストトラベルを使った。



ピピーーブインーー



「これ、いつやっても本当便利だなぁ」

「ちゃんと来たな」



 私がファストトラベルで水道工場に着いた時には、既に二人共着いていたようだ。

 着いた途端に私に注目が集まった。そして二人して遅いと言わんばかりの顔をした。



「ほら、行くぞ」



 私はツキに続き歩き始めた。

 どうやらサメル農園から南西に行くとその街があるらしい。


 どういう街なのだろうか。急に不安が押し寄せてきた。

 街に行って急に撃ち殺されないだろうか⋯⋯街に入れてくれるだろうか。

 そもそもその街には、本当にマールはいるのだろうか⋯⋯。


 色々な不安がある中、ひたすら広い荒野⋯⋯砂利道をすすんでいく。



 ん? 急に空気が変わったな。

 二人は気づいているかな? 私よりは鋭いから気付かないはずはないけど。


 なぜだか、今までは生暖かい風だったのが急に肌寒く砂嵐が舞う。

 よく見ると乾いた土しかなかった道路に、ところどころ水溜まりが見える。


 これはきっとアレだな⋯⋯RADがやばい水だな。触れた瞬間チリチリ音がするタイプのやつだ。まぁ実際、今はそんな音はしないだろうけど。



 そんな事を考えているとプリンが口を開いた。



「おい、気を付けろよ。何か嫌な予感がする」



 やっぱり鋭いプリンは気が付いていた。



「奇遇だなぁ、俺も同じ事思ってたよ」



 続いてツキがニヤッと笑いながらそう言った。


 この辺は何なのかな? しばらく歩いてるけど空気が変なだけで、特に何か化け物出てくるとかないしな。

 デスアロウが出てきてもおかしくない雰囲気なんだけど。


 あ、でももうデスアロウは嫌だ。さっき散々戦って酷い目にあったからね。

 もう出会いたくも考えたくもない。

 とか言ってると本当に出そうで怖い⋯⋯。考えるのはやめよう。


 そう思った瞬間、乾燥した地面に少しだけヒビが入るのがわかった。



「うわっ! なに?」



 私が思わず声を上げると、徐々にそのヒビは大きくなっていき、三人の間を引き裂くように綺麗に割れた。


 私達は慌てて安全な地へと走った。



ビキッーーガガガーー



「おい、下がれ!」



 私は地割れで起きた大きな揺れにバランスを崩し、その場に尻もちをついた。


 そして少しの間地割れが収まると、今度は地面が三つに割れて出来た大きな穴から、見たこともない生物が顔を出した。



ゴゴゴゴゴーードガッーーガバッーー



「ちょ、なにこれ? やばくない?」



 驚愕した。


 何とも表しにくい生物。

 毛虫のようにうねうねしていて、釣り上がった鋭い目付き、二本の牙がその大きな尖った口から突き出している。

 頭の中心にある、こちらに向かって突き出した太くて巨大な角が、その巨大生物の風格をさらに大きくしているようだ。

 地割れで開いた穴に、尻尾がめり込んでいて、その体長はどれくらいなのかも想像がつかない。

 その大きな体の両脇には無数の手が⋯⋯ムカデなのか? 蛇なのか? どっちにしろ、私の恐怖は倍増していく。



「こいつはやばい⋯⋯」



 さすがのプリンも呆気を取られている。



ゴガガガガガァァァァーー



 騒音。


 咆哮なのか、耳を塞いでいないとその場にいる事さえ不可能なほどの騒音だ。

 その場にうずくまり、両手で耳を塞いだ。

 その咆哮でさらに地割れを起こすほど。



「おい、逃げるぞ!」



 さすがに勝てないと踏んだのか、ツキがそう叫んだ。

 三つに割れた地面の上で、それぞれが巨大生物とは逆の方向に逃げていく。


 しかし私は動けない。

 動けるわけがない。


 腰が抜け、立つ事すら出来ない。




「「くそっ!」」



 それに気付いた二人が、三つに別れた地割れに挟まれている私の元へ、盛大なジャンプを見せた。



「「うぉぉぉぉ!!」」



 二人の叫び声が聞こえる。



 私がいる地面に辿り着くと、両脇から走ってくる二人が横目で見えた。


 そして座り込んでいる私の腕を、両脇から掴みそのまま逆方向に走った。

 私からは巨大生物の凶悪な顔が丸見えだ。宙に浮かびながら、その巨大生物が遠ざかっていくのが見える。




 二人に両脇から捕まれながら、物凄い勢いで後方に風を切る。

 今の状況で自らの足で走るのは到底無理そうだ⋯⋯。

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