83話 乾いた大地 ~朽ち果てた異物~

ゴガガガガガーー




「ねぇ! 来てる! 来てる!」



 二人に私に見えたのは、巨大生物が地面を掻き分けその無数の手で、ムカデのようにこちらに向かってくる姿。


 二人の走る速度が上がった。



「おい、プリン! あそこだ」



 ツキが指さしたのは、殺風景の荒野に佇む一つの廃墟。


 後ろを向いている私にはよく見えないが、パッと見でもわかるほど、朽ち果てていてその外見を保っていないような廃墟。

 無数の草木が建物に絡みつき、入口すらわからないような有様。


 しかし謎の生物に物凄い勢いで追われている私達は、そこに入り身を隠す他なかった。




 景色が変わった。

 目の前から巨大生物が急に消えた。


 二人が廃墟に入ろうと急カーブしたからだ。


 横を見ると未だに地鳴りと騒音を立てながら向かってくる。



ドサッーー



発見 カプトラホテル EXP250



 私は地面に落とされた。

 どうやら廃墟に着いたようだ。


 草木を掻き分けようやく入口らしき扉のお出ましだ。



ガチャガチャーー



 長い年月放置されていたせいか、簡単に私達を中へは入れてくれない。

 ツキとプリンは息を合わせて扉に体当たりをしている。



 巨大生物がもうそこに。


 私も二人のに入り同時に扉に体当たり。



ドンッーードンッーードガッーー



 私達は建物の中へ体を投げられた。


 次の瞬間ーー



ゴガガガガガーードンッッッッ!!



 巨大生物がこの建物に向かって突進した。

 建物に突っ込んだ巨大生物はなんとか動きを止めた。



 しかし入口に付いていた扉は吹き飛び、枠が変形している。

 建物には巨大な穴が。

 そこから覗かせる顔はまさに恐怖でしかない。

 尖った口が入口にすっぽりハマり、額の角は建物の一部かのように突き刺さっている。


 これ、抜く事は出来るのだろうか。

 いや寧ろ抜かないでこのままのほうが、安全とも言えるだろう。


 私達は騒動が収まったと安心し、ハマった巨大生物を放ったらかしにして逃げるように廃墟の奥へと進んだ。



 入口からすぐの部屋に入りまず目に入ったのは、乱雑に散らばった沢山の背もたれが着いた赤い椅子。

 その目の前には丸みを帯びたカウンター。

 天上からは、ボロボロに破かれたカーテンのような布がぶら下がっている。

 貼り付けられた木の板は剥がれ落ち、その破片が散らばっている。

 かつては綺麗に明かりを灯していたであろうシャンデリアは、薄汚れて電球は割れ、見る影もない。

 その残骸が、緑の絨毯の上に落下している。

 床には煤けていている紙切れや、メニューらしきものが書かれている紙が散らばっている。何か文字が書いてあるようだが読む事は不可能だ。

 テーブルはひっくりがえり、何一つ元の位置には存在していなかった。


 戦前はレストランか何かだったのだろうか?


 その部屋の端には階段がある。どうやら二階建ての建物のようだ。

 私達はギシギシと鳴く、その階段をゆっくりと上る。


 二階に上るといくつかの扉が見えた。

 その扉もまた、原型を留めておらず木の破片が散らばり、真っ二つに割れている扉もあった。


 一つ一つの部屋はどれも同じような作りをしていて、天上の木が朽ち果ててボロボロになった粉が、床に散乱していた。

 薄らと見える床は、何かの模様が描かれた赤黒い絨毯。

 部屋に置かれた2つのベッドは、布が破かれ粉まみれ。長年放置され色あせてしまっている。

 そこに横になろうとは思わないが、少しベッドを押しただけで崩れそうなほど軋む音が聞こえる。

 壁に立て掛けられていたであろう絵画は、ベッドの隙間に入り込み、手に取るがもはや何の絵画なのか判別出来ない。

 部屋の隅に置かれているターンテーブルからは、花瓶が落ちその傍に枯れきった花が散らばっている。

 一つポツンとある椅子は、肘掛けが壊れ下に落ち足が折れ、その有様は本来の目的を忘れている。


 唯一ギリギリ原型を留めている、壁に埋め込まれた窓から見る景色は、なかなかいいものだ。

 ここに来てようやく笑みを浮かべる事が出来た。


 おそらくこの建物は、レストランではなくホテルだったのだろうか。


 さすがにこんな有様の廃墟に住まう事は難しいと思った私達は、一階に降り入口とは反対側の扉から、再び荒野に出た。

 入口にはとてもじゃないけど近寄れない。

 あの凶悪な生物はもう見たくない。


 この生物がここにハマっているうちに、どこか遠くへ行ってしまおう。


 それにしてもこの巨大生物もやはり、RADによりムカデが巨大化した姿なのだろうか?

 ムカデの顔をマジマジと見たことはないが、あんな凶悪な顔をしていたのなら恐怖だ。




 私達は巨大生物が突き刺さったこの建物を後にした。

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