81話 乾いた大地 ~やっと出会えた奇跡~

ピュスンーー⋯⋯バタッーー



 死を覚悟した。

 その瞬間、目の前で一匹のデスアロウが倒れた。


 その隙間から見えるのは人影。

 こちらに向けて銃を構えている。



 私は咄嗟に助かった⋯⋯そう思った。



シュッーードゥルルルルーー



 その人影は物凄い勢いで銃を乱射しながら、こちらに向かって走ってくる。

 そして次々とデスアロウを倒していく。



 何が怒ったのだろう。

 それを理解するのにそう時間は掛からなかった。



パンパンーーパンパンパンーー



 私とプリンは謎の男に釣られて、正気を取り戻し銃を乱射した。



ドドドドドーーピュゥンーーバババババーーパンパンーー



「おう? 生きてるか?」



 その声の主から男性だという事がわかる。

 しかし今は目の前の敵を倒す事で手一杯だ。男性か女性かなんてどうでもよかった。

 助けてくれたチャンスを逃すまいと私は必死で撃ち続けた。






 この男は強い!

 こんなデスアロウの群衆に物怖じもせず突っ込んで行く⋯⋯。


 男の勢いに呑まれるように私達も撃ちまくった。

 そして次々とデスアロウの死体が地面に積まれて行く。



ドドドドドーーピュゥンーードドドドドーーピュゥン



「よぉし、ラスト一匹!」



 その謎の男の声と共に最後の一匹のデスアロウは、体に無数の弾丸が撃ち込まれ、内蔵が飛び散り足が千切れ、残った胴体は男の目の前で倒れた。


 私はその瞬間、終わったと声にならない声を出し、その場に座り込んだ。



ザッザッザッーー



「どうやら生きてるみてぇだな」



 男はニヤリと笑いながら私達に近付いてきた。



「助けてくれてありがとう」



 この男がいなければ私達は完全に死んでいた。そう思ったら自然と感謝の気持ちが出てきた。



「何者だ?」



 近付いてきた男にプリンは、警戒しているのかそう問いかけた。



「俺か? 何者でもねぇよ。ただある女を探してこのゲームん中に入ったんだよ」

「中に入ったって⋯⋯自ら入ったのか?」

「そうだけど⋯⋯なんか問題か?」



 この世界に自分から入る人なんているんだね。

 あ、プリンも一応そうなるのか。



「いや、俺以外にも自ら入る奴がいるんだと思ってな」

「へぇ、あんたも自分で入り込んだのか?」

「あぁ⋯⋯それより女を探してるっつったか?」



 あ、それ私も気になった。

 女を探してゲームに入ったってどういう事だろう?



「おそらくだけど、ゲームん中に入っちまった彼女を探しにきたんだ。一緒にゲームやってる最中に急に姿を消してな⋯⋯テレビだけが異常なほどに光ってたんだ。それでテレビに手を伸ばして⋯⋯気が付いたらゲームん中だ」



 なんか私と状況が似てる?

 他のプレイヤーもテレビとかから入ったのかな?

 確か私が気を失う前も、テレビからすごい光が出てたような⋯⋯。



「ふぅん⋯⋯なるほどな。そういやテン、お前も彼氏を探してるって言ってなかったか?」

「え、うん。そうだけど⋯⋯」



 私が話し始めた途端、その男が食い気味に話し出した。



「今⋯⋯テンっつったか? お前、テンなのか?」



 え、なにこの人?

 私この人知らないんだけど。そう思いながら聞き返してみる。



「テンだけど⋯⋯なに?」



 するとさらに大きな声を出して、私に近付き肩を掴んだ。



「まじか! 俺、ゲームの名前ツキでやってんだよ。名前聞いてわかるだろ?」



 え、うそ⋯⋯こんな偶然って⋯⋯。




 私はその名前を聞いた瞬間、表せない程の感情と涙が込み上げてきた。


 それは私がこの世界に来てからずっと⋯⋯ずっと探していた大輔のゲーム名だったから。



「あれ、違ったか?」



 零れ落ちる涙を拭いながら小さく首を横に振った。



「いや、知ってる! 大輔⋯⋯」

「やっぱり裕香だよな? よかった⋯⋯やっぱりお前こっち来てたんだな」



 私は疲れなど忘れ、立ち上がり大輔に飛び付いた。

 そして感動の再開と言わんばかりに、強く抱きしめあった。


 もう絶対に離れたくない。私達はこの世界にいるにしても帰れたにしても、ずっと一緒にいる。




 しばらく抱きしめあっていると、ツキが私の顔から後ろをのぞくように顔を出した。



「そいえばこいつ⋯⋯誰だ?」



 そっか⋯⋯。

 私はこの世界に来てから出会ったプリンの事を、今までの経緯と共に説明した。



「ゲーム名はプリンっつうのか。テンを助けてくれてありがとうな」

「あぁ。こっちも助けられたしお互い様だ」



 そうプリンが言った時、私はプリンのほうを振り向いた。

 私はプリンに助けられた事は幾度となくあるけど、助けた事なんてない。

 いや、誇れる事ではないけど、プリンの助けになれてないよ私なんて⋯⋯。



「んでよ、そのマールって奴を探してるんだっけ? この世界来てから色々探索したけど、なんかでっけぇ街みたいな所は見たぞ。俺は用がなかったから立ち寄らなかったけど」



 街って⋯⋯プレイヤーがいる街かな? さすがにもうNPCは生存してないよね。

 そのでかい街がプレイヤーの街で、あいつらのアジトだとしたらそこにマールがいるはず!


 その街があいつらのアジトとは限らないし、マールがいるとも限らないけど、情報もないし今はそこに行くしか道はないかもしれない。



「ね、そこの街行ってみようよ」



 私は少しの希望を抱いて提案すると、2人共笑顔で頷いてくれた。



 でも⋯⋯ツキは私を探しにきて、もうこの世界には用事はないはずだよね?

 面倒事は嫌いな性格のはずだから、マールを探すとかもツキにとったらどうでもいいはずなんだけど⋯⋯。

 どうして一緒に探してくれるんだろう?


 まぁ⋯⋯でもやっとツキと再開出来たわけだし、今はツキも付き合ってくれてるし、余計な事は考えなくていいか。

 余計な事聞いて、気が変わって探すの手伝ってくれなくなったら困るし。


 ツキは順応性が高いからもうこの世界に馴染んでるはず。だから相当な戦力になる。

 さっきのデスアロウの戦いだってすごかったし。本当に人の動きじゃなかった。

 多分スキルとかで人らしからぬ動きを出来てるんだと思うけど⋯⋯。

 じゃなかったら怖いし。




 まぁとりあえず今はツキに案内してもらって、三人で街に行く事にしよう。

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