80話 乾いた大地 ~絶体絶命~

 いや⋯⋯離して! まだ死にたくない!



 必死で抵抗する。



 これまでにないくらい足を上下左右に動かし、デスアロウの頭上で暴れる。

 デスアロウの力は思ったより強かった。


 足を捕まれながら色々な方向に動かしたせいで、足に千切れそうな程の激痛が走る。


 しかし今はそんな痛みさえも感じない。

 早く抜け出さなければ!


 もう千切れてもいい!

 死ぬよりはマシ!


 そんな思いで、足を引っこ抜こうと力を入れる。



パシューー



 足がデスアロウの手を離れた。

 私はここぞとばかりに足を上下に動かし、デスアロウの頭を何度も蹴った。


 首の骨が折れる程、何度も何度も⋯⋯。



 そしてついにーー




「あぁぁぁ!!」



 プリンの叫びと共に私は一気に引き上げられた。


 登りきった私が見下ろすと、強打したデスアロウが地面に横たわっていた。

 そしてゆっくりと手をつき上体を起こした。

 デスアロウの長い爪が地面をえぐる。


 あんな爪が体に刺さると思うとゾッとする。



「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」



 膝をつきぐったりしている私の横でプリンが銃を構えた。



ドドドドドーーピュゥンーー



 プリンは立ち上がると、銃を構え体を起こそうとしているデスアロウの脳天を貫いた。


 脳みそは吹き飛び散乱した。

 そして半分起こした体が地面にゆっくりと静かに倒れた。


 頭が吹き飛び腕はちぎれ血が吹き出ている。

 これほどグロテスクな物は見たことがない。

 思わずその死骸を見て目を背けた。


 そして私はある事に気がついた。


 果たしてデスアロウは一体だけだっただろうか?

 いや、出会った時は二体いたはずだ。


 私達は荷台の上から周囲を見渡しもう一体のデスアロウを探した。



グァァァァァ!!



 すると私達に気が付いたデスアロウが、こっちに近付こうと荷台をガタガタと揺らしている。

 その凄まじい揺れにバランスを崩した私は、落ちないようにしがみつくのが精一杯だ。



ドドドドドーーピュゥンーー



 しかしプリンはその揺れに耐え、しっかりとデスアロウの頭を狙い、脳天を撃ち抜いた。

 体力を奪われたデスアロウは荷台の壁に顔を打ち付け、地面にドサッと倒れ込んだ。


 やっと倒したと安心したのもつかの間、徐々に大きくなる地鳴り。

 何事かと辺りを見渡すと、岩陰やら草むらから次々とデスアロウがこちらへ向かってくる。



「え、うそでしょ⋯⋯」



 思わず漏れた声。

 安心からの恐怖で、まともに発する事が出来ていなかったかもしれない。


 軽く20体を超えるであろうデスアロウは、私達がいる荷台に近付くと、上に乗っている私達を落とそうとするかのように、物凄い勢いで揺らしてくる。



「ど、どうしよう」

「こんだけいたんじゃキリねぇな。こいつらがいなくなるまで待つぞ」



 と、プリンが言い腰を下ろした瞬間、なにか様子がおかしかった。



ガタガターードドンーー



「ふっ⋯⋯そんなに猶予はないようだな」



 いつもは余裕のプリンも、さすがに焦っている様子だ。

 こんだけの数のデスアロウが体重をかけているんだ。今にも崩れ去りそうな勢いだ。



ガタガターー



「とりあえず崩れる前に片っ端から撃ち殺すぞ」



 プリンはいつものアサルトライフルをデスアロウを狙った。



「わかった!」



 プリンね指示に従い、私も加勢する。




ドドドドドーーピュゥンーー

パンパンパンーーパンパンーー



「ダメだ⋯⋯全然死なない!」



 動き回るデスアロウを仕留める事は出来ず、弾もほとんど当たらない。



「頭を狙え」



 どの敵にも共通する事がある。

 それは弱点が頭という事。


 しかしV.A.R.T.S.バーツを使わずして撃つ私の腕は悪すぎる。

 頭どころか、手がブレブレで体にすら当たらない状況だ。

 かと言ってこんな近距離でV.A.R.T.S.バーツを使うと、位置によっては命中率が0になるのだ。


 しかしこのままではキリがない。

 私は一か八かでV.A.R.T.S.バーツを使ってみた。



ブワンーーピピピーー命中率頭87%



 狙いは頭。

 以外にも命中率は高めだ。場所がいいようだ。

 これならいけるはず!



パンーーカチャーー88%ーーパンーーカチャーー89%ーー



 私のこの銃なら撃つ度に精度が増していく。

 狙いは外さない!



パンーーカチャーー95%ーー96%ーー97%ーー



 よし! このまま撃ち殺していく。


 一体⋯⋯二体⋯⋯三体⋯⋯

 ちょうど三体目の脳天を撃ち抜いた時だったーー



ガタガターードサッーー



 気が付いたら私は荷台の上ではなく、地面に散らばる木の破片に埋もれていた。



「いたっ!」



 どうやらデスアロウの数に耐えきれなくなり、荷台が崩れ落ちたようだ。

 目の前は土煙が舞っていてよく見えない。


 デスアロウがどこからくるのかすらもわからない。



 どうやら私達は絶体絶命のようだ。

 咄嗟に銃を手に構えプリンと背中合わせになった。



 周りにはデスアロウ群が。

 囲まれた私達はどうする事も出来ない。

 ただただ、煙の中から姿を現すデスアロウを待つしかなかった。




 鼓動が高鳴る。


 群体の足音。

 荷台が崩れて散らばった破片を踏みつける音。


 私達はこのままデスアロウの群体に食い殺されるの?



 不安、恐怖、死。

 迫り来る感情が私の体の震えを止めてはくれない。



「気をしっかり持て!」



 異常に震える私の体の変化に気が付いたプリンが声をかける。


 私を安心させようとしてくれているのがわかる。

 でもこの状況で気をしっかり持つなんて出来ないよ⋯⋯。


 私にははなかった。

 しかしデスアロウは待ってはくれない。

 私達に選択肢はないのだ。

 する他なかった。






 私は死を覚悟した。

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