73話 ブリットン警察署 ~忍び足~

 プリンは音が鳴る重い扉を精一杯静かにゆっくりと開け、その先へ足を運んだ。


 私達は周りを警戒しながらゆっくりと歩き扉の先の部屋を調べた。


 部屋にはカウンターテーブルの上に古いレジ、ウォッカが一瓶とグラスが置かれていた。

 おそらく先程までここにいた人達の物だろう。

 カウンターテーブルの中へ立ち入ると、テーブルの内側の棚には多量のタバコとタバコのカートンが並んでいて、仕切りで区切られた隣の棚には救急箱が乱雑に置かれていた。その横にはキャップが数個散りばめられている。

 このカウンターによく立つ人は、あまり綺麗好きではないようだ。


 そしてカウンターの後ろの壁には木で出来た本棚のような大きな棚が二つ並んでいて、その棚の中には大量のお酒が並んでいた。

 カウンターの前には一人が座れる丸椅子が数個設置されていた。その内の真ん中の丸椅子だけが列を乱して飛び出ていた。

 どうやら先程の人達は、一人がカウンターの中に、もう一人がこの飛び出ている丸椅子に座っていたみたいだ。


 パッと見ただけでもわかる⋯⋯ここはバーとして使われている部屋のようだ。

 カウンターとは少し離れた位置には、4人がけの四角いテーブルがいくつかある。


 そしてこのバーの両端の壁には鉄扉がそれぞれ設置されていた。

 一つの扉は今私達が出てきた扉。もう一つはどこかに繋がっているであろう扉。

 行く道は一つ。



「よし、ここには誰もいないな」



 私達は足早にこのバーを立ち去り、向こうの扉へ向かった。


 プリンが扉に手をかけると、それを止めるようにマールが素早くプリンの手を掴んだ。



「そっちはダメッ! 厨房だから誰かいるよォ」



 するとマールはバーにある四角いテーブルの上に立ち、窓に手をかけた。



「そっから行くの?」



 思わず口を開いた私に向かい、マールは静かに頷いた。



カチャーーガラガラーー



 マールは窓の鍵を開け窓を開いた。


 窓を開けると左と右に廊下があり、左に行くとさっきの厨房に繋がる部屋へ行けるらしい。

 私達は寄り道をしている暇はない。

 迷わず右の廊下を行った。



「この先にみんなが寝てる部屋があるの。そこを通らなきゃ入口までは行けないよォ」

「そこには誰かいるのか?」



 プリンの問いに対してマールは即答だった。



「うん、いつも誰かはそこで寝てる。静かに行けばバレないと思うけどォ」

「よし、一先ずそこまで行くぞ」



 私達は忍び足でその部屋まで行くことにした。

 運良く誰とも遭遇しなかったが、問題はここからだ。


 部屋に着くと、男性が一人ベッドに横になっている。

 背を向けている。気付かれたら一環の終わりだ。



ーーゴクン。



 鼓動が早まる。

 冷や汗が額から滴る。


 足音を立てないように、静かにーー静かにーー。



カタッーー



 その音にプリンが勢いよくこちらを振り向く。



「ご、ごめん⋯⋯」



 どうやら私の足が、ベッド横に置かれていた道具箱に当たってしまったようだ。



ーーガサガサ。



 私達は一斉に物音のするほうを振り向く。

 ベッドで横になっていた住人だ。


 私達は微動打にせず、気付かれないことだけを祈っていた。



「(おいっ、さっさと行くぞ)」



 プリンは小声でそう言うと、私達をドアの向こうへ誘導した。



サササササーー



 小走りでドアを目指す私達の足音は、そいつに気付かれることなく無事にドアの向こうへ辿り着くことが出来た。

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