37話 バラバラの三人衆 ~いかれた蛇女~
「戦いのない世界⋯⋯?」
私がそう言うと、ミュートンが話しを続けた。
「オデ アラソイ キライ。ニンゲン キライ。デモ ニンゲン ミンナ ワルイヒト チガウ。
イイ ニンゲンモ イル。
オデ コノセカイ キライ。タタカイノナイセカイ イキタイ」
ミュートンはそういうと更に悲しい顔をした。
だからミュートンは終始文句言っていたんだね。なんか可哀そうになってきたな。
いや、でも元は私達を拉致した仲間だし⋯⋯。
「それで俺達をどうする気だったんだ?」
プリンがそういうとエイトが話始めた。
「お前らはこれからあのお方に血を捧げるんだ。あのお方には逆らわないほうがいい。死にたくなけりゃ⋯⋯な」
「俺達は血を捧げるなんて事はしねぇ。でもそいつに会ってやる。そいつの面を拝みにな」
プリンはそう言うと、エイトに銃口を向けたまま歩き始めた。
エイトとその仲間、そして私はプリンに続き大きな部屋の奥へ進んだ。
「あのお方はこの先にいる」
エイトがそう言い目の前にある扉を指差した。
あのお方って誰なんだろう?
プリンはエイトが指さした先の扉を勢いよく開けた。
「ちょ、ちょっと! 入るの⋯⋯?」
私はなんか嫌な予感がしたため、プリンを引き留めた。しかしプリンはそんな言葉は聞こえなかったかのように、扉の向こうへ歩みを進めた。
中に入ると、部屋の壁には絵画が飾られていて、壁際にはタンスやロッカー、机や金庫などさまざまな家具が並んでいた。
そして、そのお方とやらは、机の上に足を組んで座っていた。
ローブを|纏(まと)っていたため、性別や顔は見えなかった。インターフォンの声からすると多分、男だと思うけど⋯⋯。
静まり返るその部屋で、ローブの人に近づく私達の足音だけが響いていた。
「よく来たわね。私の可愛い部下を人質にするなんて、いい度胸ね」
え、女? ローブの人物が男だと思っていた私は驚いた。
インターフォンでは男の声だったと思うんだけど⋯⋯私の勘違い?
「お前に聞きたいことがある。お前の目的はなんだ?」
プリンがエイトに銃口を向けたまま女にそう聞いた。
すると女は高笑いをしながら答えた。
「アハハハハ! あなた達、私に血を分ける気はない?」
またよくわからないことを言っている。
血を分ける事になんの意味があるのかも、それをして何がしたいのかもわからない。
なのに、はいどうぞってあげれるわけないでしょ。
「お前に血をやって俺達に何の意味がある?」
プリンがそう問うと女は長々と語り始めた。
「そうね、意味もわからず血を分けたくもないわよね。私はこの世界で最強になるの!
あなた達もプレイヤーでしょ? それなら聞いた事あるかもしれないけど、この世界に入り込んだ全てのプレイヤーの血を体に取り込むことで、誰にも負けない体と力を得られるのよ。
だから私はこの世界のNPCに言う事を聞かせて、プレイヤーを集めてきてもらっているのよ。
これで理由はわかったでしょう? 私に血を捧げなさい!」
いや⋯⋯もう意味がわからない。そもそもそんな話聞いたこともないし、どっからそんなニセ情報を仕入れたのかもわからない。
ニセかどうかはわからないけど⋯⋯そんな胡散臭い話、どうせデマに決まってるよ。
「なるほど⋯⋯」
え、なるほどってプリンは理解できたわけ? 今の話⋯⋯。
そう思っているとプリンは話を続けた。
「そんな話俺は聞いた事がねぇな。それに俺達はそんな事に協力はしねぇ」
「どうして?」
いや、どうしてとか言われても普通、そんな怪しい事に協力する人いないと思うけど?
「今まで連れてきた人は素直に私に血を捧げてくれたわよ?」
そんな奇特な人いるんだ。私なら絶対に捧げないね。怪しすぎるもん。
「まぁ、反抗した人も中にはいるけど、そんな人には消えてもらったわ。もちろん、血は頂いたけどね」
え、消えてもらったって⋯⋯殺したって事? こいつもやばいやつ?
なんでこの世界にはやばい考えのやつしか存在しないわけ?
「俺はそんな馬鹿なことはしない。わりぃが他を当たるんだな。行くぞ、テン」
プリンはそう言うと部屋から出ようと女に背を向けて歩き出した。
「プリン! 危ない!」
パンッーー
女はプリンが背を向けた瞬間プリン目掛けて銃弾を浴びせたが、プリンは私の声に反応して咄嗟に身をかがめた為、間一髪で当たることはなかった。
「いい? 私に逆らう人は皆、消えてなくなるわ。この意味、分かるわよね?」
この女、私達を殺して血を取る気だ⋯⋯。
私はそう思うと咄嗟に銃を構えて女に向けた。
「なるほどね⋯⋯あなた達も私に逆らうのね? わかったわ。まだ未完成だけれど、見せてあげるわ。私の本当の姿を」
女はそう言うと目を瞑った。そして少しの時が過ぎ⋯⋯。
女の体から徐々に光を発し始めた。
その光は徐々に大きくなり、次第に目を開けられない程に眩しい光で部屋全体を包み込んだ。
そして目を閉じて光を感じなくなった頃、恐る恐る目を開けるとーー
私が始めに見た女の姿はどこにもなく、そこにいたのは人間ではない⋯⋯蛇女の姿だった。
「アハハハハーーこれが私が手に入れた強靭な肉体よ。
まだ未完成だけれど、まぁいいわ。あなた達で試してあげる」
女はそう言うと、器用に長い尻尾を銃に巻き付けて無差別に乱射した。
ドドドドドーーピュゥンーードドドドーーピュゥン
「おい、こっちだ」
私はプリンに引かれ身を隠した。
しかしこの女の仲間達は逃げる事を忘れているかのように、微動だにせず乱射した銃弾を無数に食らって、その場に倒れた。
おそらく恐怖で動けなかったのだろうけど。
この仲間達もこんな事になるとは想像もしていなかっただろうね⋯⋯。
「テン、大丈夫か?」
ドドドドーーピュゥンーー
「大丈夫⋯⋯」
私はプリンの言葉にそう返すのが精いっぱいだった。
女が狂ったように乱射した一発が私の腕を貫通していた。
プリンはそれに気づいていないようだけど、本当はめちゃくちゃ痛い。
全然大丈夫じゃない⋯⋯。
貫通したおかげで銃弾が体の中に入っている事はないけど、体に空いた穴から大量の血が流れ出ている。
私はそれを必死で隠し、出血を手で押さえる事しか出来なかった。
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