22話 生と死の狭間 ~一人にしないで~

「ねぇ⋯⋯プリン⋯⋯起きてよ」



 プリンの体はいくら揺すっても動かない。



 私のせいで⋯⋯プリンが⋯⋯一人にしないでよ。

 どうすればいいの? あっ⋯⋯そうだ! スチムパックを使えば!



「今スチムパック使うから!」



 気が動転していた私は、スチムパックの存在すら忘れていた。

 私は急いでインベントリからスチムパックを取り出し、プリンの体にスチムパックの針をそっと当て、中の液体を注入した。


 しかし⋯⋯それでもプリンは回復する様子もなく、変わらず微動だにしない。

 なんで⋯⋯回復しないの?

 私の判断が遅かったのかな。もう少し早くスチムパックを使っていたら⋯⋯。

 そんな事を考えると、私の中には後悔しか残らなかった。



 プリンは完全に死んでしまったのだろうかーー

 私の判断が遅かったから動かないのだろうかーー

 なんでもっと早く、スチムパックの存在に気が付かなかったのだろうかーー




 私はプリンの体にしがみつき泣きじゃくった。



「一人に⋯⋯しないで」



 しかしいくら泣いても、いくら体を揺すっても⋯⋯結果は変わらない。

 もう私にはどうする事も出来なかった。



「どうすればいいの⋯⋯大輔ーー」



 私はしばらくの間、安らかに眠っているプリンの横で、同じく壁にもたれかかっていた。

 広い部屋の中で、私の鼻水をすする音だけがいつまでも響いていた。






「私も⋯⋯ずっとここにいようかな」



 私のせいでプリンは死んじゃったんだし、私もここでーー

 大輔には会えないし、何回も私を助けてくれたプリンはもういないし⋯⋯。


 私一人じゃ⋯⋯生きていけない。




 一人になった私にはもう何も残っていない。

 絶望以外は何もーー

 私は生きる希望を無くし、手に持っているピストルを自分の額に当てた。



カチャーー



「大輔⋯⋯ごめん」



 目を瞑りトリガーに指をかける。











「⋯⋯るせぇな」



 え? 私はトリガーにかけた指を止め、ゆっくりと目を開く。



「プリン⋯⋯? ね、ねぇ⋯⋯プリン!」



 プリンは無理に笑顔を作って私の方を見ている。



「ははっ⋯⋯うるせぇぞ⋯⋯テン⋯⋯」



 死んでない⋯⋯死んでなかった! 私はそれが嬉しすぎて再び大声を上げて泣きついた。



「だから⋯⋯うるせぇって」



 よかった⋯⋯本当に⋯⋯よかった。


 私はピストルを床に置き、目を覚ましたプリンの体に再びスチムパックを使った。

 そのお陰で体力は回復したみたいだけど、傷はまだ塞がっていない。



「⋯⋯大丈夫?」

「一旦帰んぞ⋯⋯お前一人で探索したって死ぬだけだ」



 そう言ってプリンはPitboyピットボーイを見てマップを開いた。



「あぁ⋯⋯外に出ねぇと飛べねぇなーーうぁっ」



 傷口が痛むようだ。

 スチムパックを使ったが未だに血は止まる気配がない。


 プリンは痛みを堪え動かないであろう体を、無理矢理動かし体を起こした。

 私はプリンの腕を自分の肩に回し二人で外へ向かった。




「⋯⋯飛ぶぞ。お前も⋯⋯来いよ」



 その言葉と同時に、私にかかっていたプリンの重みがなくなった。


 私もPitboyピットボーイのマップを開き、小屋へファストトラベルした。


 ファストトラベルとは一度訪れたロケーションに一瞬で飛べる機能。

 凄く便利だけど、重量が限界で走れない時は使えない。






 小屋に着くとプリンは既に横になって寝ていた。

 私はプリンの横でベッドに腕を乗せ、その腕を枕に頭を乗せて目を瞑った。



「ごめんね⋯⋯プリン」



 私はプリンの横で眠りについた。






 ーー翌朝。



「んっ⋯⋯」

「まだ起きちゃダメだよ」



 スチムパックを使って休んだから大丈夫だとは思うけど、まだ一日くらい安静にしてなきゃ。


 私はプリンと小屋にいた。寝ているプリンの看病をしながら。

 まぁ看病って言ってもたいした事はしてないけど。



「大丈夫だ。またあそこ行くぞ。探索の途中だ」



 え? また行くの? 私は⋯⋯もう行きたくないよ。

 また同じ事になったどうすんの? せっかく生きてたのに、今度は本当に死んじゃうかもしれないし。



「もう⋯⋯やだよ。死にかけたんだよ?」



 私がそう言うとプリンは真面目な顔をして話した。



「だからって諦めんのか? それじゃあこの世界で生きてけねぇぞ。それにーー」



 プリンは一瞬言葉に詰まり、再び話始めた。



「まだ⋯⋯お前に戦い方を教えてねぇ」



 プリンはあの研究所に行く前に、戦い方を教えると言って私を連れて行った⋯⋯。

 でも⋯⋯もうそんな事、もうどうでもいい。

 ⋯⋯プリンに死なれたくない。



「もう⋯⋯私を一人にしないでよ」



 あの時、本当に死んだと思った。もうダメだと思った。

 でも生きてたんだよ。もうそんな思いしたくない。



「俺は死んでねぇ。これからも死なねぇ」



 死なないって言ってもそんなのわからないじゃん⋯⋯。

 私はそう思ったけど、プリンの顔を見ると冗談で言ってるようには見えなかった。



「じゃあーーもうあんな事になんないように、私がプリンを守るから」

「ふっ⋯⋯俺は女に守ってもらう趣味はねぇがーーまぁいい」



 そう言ってプリンは、銃を肩にかけ小屋の外に出た。



 プリンを守れるように強くならなきゃ!


 私は⋯⋯。

 大事な人を守れるくらい強くなるーー

 そしてこの荒廃した世界で生き抜いてみせる!

 そう心に誓い、小屋の外へ足を運んだ。




 外に出るとプリンの姿はなかった。

 おそらくもうファストトラベルで移動したんだろう。

 私はPitboyピットボーイのマップを開いて、ブトリック研究所を選択しファストトラベルをした。




ブインーー

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