14話 死のカウントダウン ~テンを狙う奴ら~

◆◆◆


ドドドドーーピュゥンーー



「よし、最後の一匹。一丁上がりっと!」



 俺はプリン。

 リアルでプリンが大好きな32歳のおっさんだ。後もう一つ、銃の事には詳しい。ガンマニアだからな。



「ふっ、何か持ってっかなぁ」



 広大な荒野、乾いた土にゴツゴツと大きさの違う岩が突起出ていて足場が悪い。

 そんな所で、今日も俺はグールと戦っている。


 グールはたまにキャップ持ってるからおいしいんだよな。

 ミュートンやデスコピオンは強い上に特に何も持ってねぇから、時間の無駄だ。



「10キャップ⋯⋯ちっ⋯⋯」



 ハズレだな。グール5匹も倒せばキャップ70くらいは取れるんだがな。


 という事で俺はこの世界に来てから敵ばかり狩っている。

 何故かって? それは生きる為だ。


 好きでこの世界に来たわけじゃねぇ。

 いや、語弊があるがこの世界自体は好きだ。

 でも自分がこの世界に放り込まれるーーのとは、話が違う。

 ゲームでやる分には好きだという事だ。


 まぁどうでもいいかーー



 稀に敵は動物の肉を持ってる場合がある。

 人の心を失ったやつや、突然変異した人が持ってたもんを食いたくはねぇが、そんな事言っていられる世界じゃねぇ。


 そしてこの世界で最も危険な存在⋯⋯まぁその話はいいか。

 俺も何度も殺されかけたからな。思い出したくもねぇ。




「そういやアイツ⋯⋯大丈夫か?」



 この世界に来てから何人ものプレイヤーに会って来たが、なんかあいつは悪人な気がしねぇ。

 来たばかりみたいな面してたしな。

 何もできねぇみたいだったけど⋯⋯アイツ10mmピストルだけで、この世界で生きてくつもりか?

 まぁ、俺には関係ねぇけどよ⋯⋯。




 いや⋯⋯一応出会った縁もあるし、面倒みてやるか。



「戻るか。アイツ戻ってっかもしんねぇしな」



 俺がいないのをいい事に小屋で暮らしてる可能性もあるよな。

 まぁそれはそれでいいけどよ。


 俺はあいつが気になり、一度小屋に戻ってみる事にした。




「⋯⋯っ!!」



 誰だアイツら。NPC⋯⋯じゃねぇな。俺の小屋で何してやがる?


 俺は咄嗟に近くの木に隠れて、そいつらの様子を伺っていた。

 俺の小屋で何かをしている。



「⋯⋯? あれは⋯⋯!」



 何故か俺の小屋で知らねぇ奴らが、アイツを⋯⋯テンを囲んで何かしている。



 何だテン、アイツ気絶してんのか?

 おそらくこいつらにやられたんだな。

 テンを囲んでいた男達は、倒れているテンを担いでどっか行っちまった。



「ちっ⋯⋯面倒くせぇな」



 俺はそいつらがいなくなったのを確認すると、小屋に足を踏み入れた。



「スコーピオンEVO3⋯⋯? なるほどな」



 俺が小屋に入り、やつらが置き忘れたであろう銃を見ていると、やつらの中の一人が慌てたように戻ってきた。


 俺は咄嗟に小屋の陰に隠れ、その様子を見ていた。


 そして⋯⋯。



ドスーー



 そいつが小屋に入った瞬間に、やつの頭を持っていたAK-47で殴った。



「ぐはっーー」



 いきなりの事で脳が追い付かなかったのか、そいつは頭を押さえて片目を開け、こっちに頭だけを動かし、俺を覗き見るようにしてその場に倒れた。

 おそらくオトリに使ったこのスコーピオンEVO3を取りに来たんだろう。



「⋯⋯誰だ?」



 そいつは頭を押さえながらそう言った。

 ちょいと強く殴りすぎたか⋯⋯。



「あんたは⋯⋯あの時の!」



 そいつは続けてそう言ったが、俺には覚えがない。

 こいつに会った事なんて一度もねぇ。



「俺はお前の事は知らねぇぞ。そんな事よりお前らここで何してやがる? ここは俺の小屋だ」



 俺がそう言うとこいつはヘラヘラして、体勢を立て直し壁にもたれ掛かった。



「へへっ⋯⋯俺らはあんたを探してたんだよ。あん時俺らから奪ったもんを取り返す為にな!」



 そう言いながらこいつは、近くに置いてあるスコーピオンEVO3に手をかけようとした。



「おぉっと、動くなよ」



 俺はそう言いながらサバイバルナイフを、そいつの頬に近付け更に続けた。



「そうか、お前はあの時いたやつか。

 随分昔の事で忘れちまったな。

 それに俺は奪っちゃねぇ。お前らが後から来たんだろ?」



 こいつは、俺が探索していた時に後から来て、俺の収穫したもんを奪おうとしたやつらの中にいた一人。


 あの時逃がしてやったのに懲りずに⋯⋯黙って逃げてりゃよかったものを。



「へへっ⋯⋯あんたは色んな物を持ってそうだ。あんたと一緒にいたあの女をダシに使えば⋯⋯」



ドスーー



「ぐへっ⋯⋯」



 こいつは性根が腐ってそうだ。

 テンで俺を誘き寄せて俺から全てを奪おうって?



「テンを何処に連れて行った?」



 俺がそういうと、こいつは更にヘラヘラと楽しそうに話始めた。



「ふん⋯⋯あの女、テンっていうのか。中々いい女だったから今頃は⋯⋯」



ドスーー



 俺のせいでテンが連れていかれたのか。くそっ⋯⋯。



「言え! テンは何処にいる? 言わないと⋯⋯」



 俺はこいつの首にナイフを当てた。



「そ、倉庫だ!」



 男は身の危険を感じたのか、サラッと居場所を吐きやがった。



「案内しろ」



 俺はそう言って男の腕を掴み立たせた。



「妙な事はするなよ」



 俺は男に銃を突き付け、倉庫とやらに案内させた。



「⋯⋯こっちだ」


◆◆◆






「⋯⋯やめ⋯⋯て」



 私は恐怖の中、精一杯の声を振り絞ってそう言った。



「クククッ⋯⋯まずは足からだな」



 そう言って再びジャンプスーツを切り裂き、足の方からビリビリと上に破いていった。



「や⋯⋯助けて⋯⋯」



 私のその声も届く筈もなく、ビリビリと脳内に響く音が病む事はなかった。

 そして肌が露出した私の体に鉈のようなものを突き当てた。



「クククッ⋯⋯じゃあ行くぞ」



 そう言って男は、楽しそうな表情でゆっくりと鉈を振り上げた。


 嫌だ⋯⋯このまま死にたくない。大輔にだって会ってないし。

 大輔⋯⋯助けて。



「いや、待てよ。すぐに殺すのは勿体ないな⋯⋯クククッ」



 男は振り上げた鉈を降ろし、ニヤニヤとこちらを見つめている。


 侵される。

 一瞬でそう思った。


 ロープで縛られているせいで抵抗出来ない⋯⋯。

 こいつに侵されるくらいなら死んだほうがマシ!


 男は手に持っていた鉈を地面に置き、辛うじて布が残っているジャンプスーツを更に破き、近くの床へ放り投げた。

 素っ裸になった私の体は、寒さと恐怖で震えが止まらなかった。



 寒さで尖っている乳房に、男はニヤけ顔で口を開き舌を出して近付く。

 私は精一杯後ずさろうと体を後退させる。


 男の汚らわしいその手で、私の乳房を何度も何度も触る⋯⋯。



「⋯⋯」



 声に出す事が出来ない。

 誰も助けに来てくれない。


 私はこの男に侵されて、体をバラバラにされて食べられる。

 そう考えると絶望しかなかった。


 動けない私はされるがまま。

 どうする事も出来ない。


 太ももや体を生々しく触る男を眺めながら、揺れる体を抑える事もせず、その時が来るのを待つしかなかった。


 恐怖はとうに過ぎ去り、私に残されたのは"絶望"。


 生きる事を諦めた私の表情は、既に生気を感じられなかった。




 音も。

 匂いも。

 寒さも。

 空気も。


 感じないーー


 死のカウントダウンをただ待っている。






ーーガラガラ。



 その音と同時に、この暗い倉庫内に一筋の光が差し込んだ。

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