15話 死のカウントダウン ~危機一髪~
パスッーー
その音と同時に、ズボンのベルトに手をかけている男は私の目の前に倒れ、額から流れている大量の血が地面にどんどん広がっていく。
「⋯⋯」
私は何が起きたのか理解出来ず、目の前に倒れた男の体を絶望の眼差しで見つめていた。
「なんだ? どうした?」
他の男達も動揺して辺りをキョロキョロしている。
「おぉっと、動くなよ。その場から一歩でも動けば、こいつの脳天が吹き飛ぶぞ」
声のする方にゆっくりと首を動かすと、こいつの仲間らしき男の頭に銃を突き付けたプリンが立っていた。
「わりぃな、テン。何か巻き込んじまったみてぇで」
プリンは私の方を見て笑顔でそう言った。
しかし私はその笑顔の理由も、目の前の男が倒れている理由も、理解するのに時間がかかった。
そして先程まで動かなかった男達は、状況を把握したのか、慌てたように近くのテーブルにある銃を手に取った。
パスッーー
「動くなって言ったよな?」
プリンは、銃を取りに言った男の頭を吹き飛ばした。
そしてその男達に近付いた。
「⋯⋯来るなぁ!」
気が動転してるいのか、残りの男二人はそれぞれ銃を手に取り、プリンに向けた。
銃を手にした男達の手は、狙いが定められない程に震えている。
パスッーーパスッーー
「動くなっつったろうが⋯⋯」
プリンは容赦なく周りの男達を、次々と射殺していった。
私はそれを眺め徐々に気を取り戻していく。
「さぁて、こいつはどうするかなぁ?」
プリンはそう言うと側にいる男に銃口を向けた。
「⋯⋯助けてくれ! わ、悪かった! ここにあるもん全部あんたらの好きにしていいから! 頼む、見逃してくれ」
男はこの期に及んで命拾いをしている。
私は⋯⋯許せるわけがない。
しかし今の私にはその判断は難しかった。
「⋯⋯」
陽光に照らされた男の表情は恐怖、そのものだった。
私は何も言う事が出来ず、頭に銃口を突き付けるプリンの姿を無表情で見つめるしか出来なかった。
「テン⋯⋯っ⋯⋯くそっ!」
プリンは引き金を引いた。
パスッーー
そして私に近付き、縛られているロープをほどいた。
覇気がない私の体は、ロープをほどいた流れで前のめりになり、プリンにもたれ掛かる形になった。
「大丈夫か? テン」
既に恐怖はない。
絶望を味わった私は、体をプリンに預けたままピクリとも動かなかった。
シュッーー
「⋯⋯わりぃな」
プリンは私の体を強く抱きしめた。
⋯⋯暖かい。
プリンの温もり。
私はそれを感じる事が出来、少しだけ顔を上げた。
するとプリンは何も言わず、自分の着ていたジャケットを脱ぎ、私の肩にかけた。
「⋯⋯帰るぞ」
立ち上がる事もままならない私の体を軽く持ち上げ、倉庫の外へと歩いて行った。
小屋へ向かう最中に私達が交わした言葉はなかった。
ただプリンが「わりぃな」そればかりを呟いていた。
「何か⋯⋯飲むか?」
小屋に着くと、プリンが口を開く。
「何かっつっても、スープくれぇしか作れねぇけどな」
私を元気にさせようとしているのか、プリンは笑顔でそう言った。
優しさ。
少しだけそれに触れた気がした。
そして少しだけ口元を緩めた。
「おぉ、元気出たか?」
「ありが⋯⋯とう」
プリンの顔を見て少し安心した私は、素直にそう口にする事が出来た。
そして自然と涙が溢れてくる。
この瞬間、全てを理解し絶望から一気に解放されたような気がした。
「⋯⋯わりぃな」
泣きじゃくる私を、プリンは強く抱きしめ慰めてくれた。
このままプリンの胸の中で眠りに入ってしまった。
目が覚めるとプリンの姿はなく、床に新品のジャンプスーツだけが置かれていた。
プリンが用意してくれた物だろう。
私はジャンプスーツに着替え、小屋の扉を開けた。
「よぉ、起きたか」
「おはよう⋯⋯」
「よく眠れたか?」
「⋯⋯うん」
プリンは料理鍋の前の切り株に腰を下ろし、私に笑顔を向けている。
私はというと、体調は元に戻り少しだけ元気も出た。
笑みを零す私を見るとプリンは再び話し始めた。
「そういやテン、お前誰か探してたよな? あの酒場で」
明るい声でそう問いかける。
私はこの一件で忘れかけていた。
大輔を探している事を⋯⋯。
「大輔⋯⋯ここに来てるかわかんないけど」
私がそういうと、プリンはちゃかしたような笑顔で私に言った。
「大輔って彼氏か?」
私はここに来た経緯も、大輔が来てるかわからないって事も全部話した。
プリンなら探してくれるかと思ってーーいや、私達は赤の他人だし、プリンに探す義理はないんだけど⋯⋯一緒に探してほしかった。
「そいつは⋯⋯多分こっち来てる。俺の予想だがな。大輔ってやつもお前の事探してんじゃねぇのか?」
大輔が⋯⋯私を?
⋯⋯気休めでも嬉しかった。
大輔がこの世界に来てるって今でも信じている。
そして絶対私を見つけてくれるって⋯⋯。
「俺はな⋯⋯」
そしてプリンは私の話を聞いて、自分が何故ここにいるのかを語り始めた。
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