12話 不意打ち

 ーー町に向かおう。



 町はここから北東にある。

 町なら私が暮らせるような家もあるかもしれないし、そこで大輔を待つ事にする。


 ゲーム通りなら、その町にはNPCが沢山いて、そこで生活してる⋯⋯はず。



ワンワンーー



 え? こんな所になんかあるの?


 さっきの小屋から少し進んだ場所。

 地面はぬかるみ、当たりは所々背の高い枯木があり、建物は一つも見当たらない⋯⋯こんな場所に何かあるとは思えない。


 犬を見ても⋯⋯その場から動かずただ吠えているだけ。


 どうしたの? なんかなきゃ吠えないんだけどな。おかしいな。



ワンワンーー



 まただ。



「⋯⋯なに?」



 その場でしっぽ振って、舌出してるだけなんだけど⋯⋯。

 ここに何かあるって事? いや、でもここは何もないただの地面。金庫とかも見当たらない。

 こんなぬかるんだ地面、掘り起こしたくないし。


 どうしたんだろ? 犬バグった?


 ⋯⋯まぁいいか。どうせ金庫あっても開けられないだろうし。

 Lockpickロックピックの技能がないと、金庫見つけても開けられなくて、逆に残念な気持ちになるだけだ。


 そう思い、私は気にしないで歩みを進めた。



 ーーそういえばこの犬、名前ないよね。ゲームでも犬の名前は犬だし。

 名前も付けてもらえないのか、この犬⋯⋯。


 せめて今だけでも名前、付けてあげようかな。可哀想だし。犬って呼ぶのもアレだし。

 でも、どうしようかな。私名前付けるの下手だし。

 うーん⋯⋯。



「大輔⋯⋯」



 は、まずいか。

 大輔に会った時、犬の事も大輔だったら、呼ぶ時紛らわしいよね。



「ミケ」



 う~ん⋯⋯。なんか猫っぽいな。



「チョコ」



 いや、私チョコ嫌いだし。なんとなくチョコってでてきただけだし。


 結構名前決めるのって大変なんだな。どうしよう⋯⋯。






「ポチ!」



 うん、これだね。ありきたりだけど。



ヘッヘッーー



 おっ、しっぽ振ってる。本人も気に入ってるみたいだし、いいかポチで。

 やっぱ犬って言ったらポチだよね。



発見 サンベルト EXP20



 犬の名前を決めて、ご機嫌で街を見下ろした私は驚愕した。

 家と思わしき建物は燃やされたのか黒焦げになっていて、そこら中に壊れた家の木の破片が散らばっていて、町とは思えない風景だった。



「え?」



 その崩壊した町にはNPCの姿はなくーーいや、NPCの死体の山だった。

 そしてその死体を囲うように、人が5人重装備をして銃を持ち立っていた。


 それを見た私はすぐに近くの太い木に身を隠し、その5人から目を離さないように少しずつゆっくりと後ずさり、その場を離れた。



 この町には滞在出来そうもないーー



 どうしよう。なんで町のNPC達殺されてんの? あそこにいる人は?

 あの人達はNPC? いや⋯⋯プレイヤー?

 だとしたら、頭いっちゃってる人達だ。NPCを殺してるんだもん。

 何の理由があるのかは知らないけど、普通はNPC殺さないし。

 NPC同士の仲間割れって感じでもなさそうだったし。


 もしプレイヤーだったらやばいよ。あんな所に行けないよ、一人で。

 私一人じゃ絶対に勝てないし。大輔がいたら別だけど。


 でもどうしよう。

 町に住んで大輔を待つ予定だったのに。

 戻って町にいた人達を殺す? いやいや、絶対無理! かと言ってNPCを殺す人達と仲間になりたくないし、一緒に住みたくもない。

 そもそも話しを聞いてくれるかどうかもわからない。


 私が色々考えていると、ふと横目に人の姿が見えた。



「やばっ!」



 咄嗟に姿を隠そうとしたが、何か訳ありみたいだ。

 その走っている⋯⋯何かから逃げているようにも見える男。

 さっきの町にいたプレイヤーではないようだ。


 もしかして命からがら逃げてきた住人とか?

 私は話しを聞こうとその男に近付いた。



「た、助けてくれ!」



 男は後方を何度も振り返りながら息を切らしそう訴えかけてくる。



「どうしたの?」

「や、奴らが! 奴らがくる!」

「奴らって?」



 私のその問いに冷静さを取り戻したのか、息を飲み再び話し始めた。



「おらはあそこの町に住んでるだ。でもいきなり人が来て⋯⋯皆を殺しただ。もうあの町には戻れないだ⋯⋯」



 どうやらさっきの町の住人らしい。

 この人だけ逃げ出して来たらしいけど⋯⋯他の人は皆殺されちゃったの?


 酷い⋯⋯。

 でも私はこの人を助けてあげられない。

 あの町に乗り込む勇気もないし、この人を安全な所に案内する余裕もない。

 私ですら安全な所なんて知らないのに⋯⋯。



「どこか⋯⋯安全な町を知らないだか?」

「ごめん⋯⋯わかんない」



 私が俯きそう答えると男は少し悲しい顔をして、どこかへ歩いて行ってしまった。



「そうか、わかっただ。ありがとうだ」



 そう言い残して⋯⋯。




 そして私も男とは反対の方向に歩みを進めた。

 自然と足はあの小屋に向かっていた。


 プリンが戻ってくる前に何事もなかったかのように、あの小屋に住んじゃえば大丈夫。

 何を根拠にそう思ったかわからないが、今の私には住む家が必要。




 そして小屋へ近付き様子を伺うと⋯⋯プリンの姿はなかった。

 ホッと心を撫で下ろすと、小屋の扉をゆっくりとキィーと音を立てて開けたーー



「え?」



 中へ入ると寝袋と机の上にランプ⋯⋯それと銃?

 この銃は多分サブマシンガン。銃に詳しくなくても種類くらいはわかる。


 前に小屋に行った時、こんなのあった? 多分なかったよね。

 もしかしてプリン帰って来た? いや、でもプリンは確かアサルトライフル使ってたよね⋯⋯。


 じゃあ⋯⋯誰の?






ガスッーー



「うあっ⋯⋯だ、れ⋯⋯?」



 何か後頭部に強い衝撃を食らったようだ⋯⋯。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る