10話 意図せぬ再会 ~侵入した罪~

「よぉ、姉ちゃん。なんか用か?」



 振り返るとそこには、さっき酒場で話しかけてきた男が立っていた。



「え? なんで?」



 私の後を付いてきたのかと勝手に勘違いをし、急な恐怖が私を襲った。



「なんでって⋯⋯ここは俺の家だ」

「あ、そうなんだ。じゃ!」



 私はその場を立ち去ろうとした。この男はどうも好まない。



「おいおい、勝手に人ん家入っといて、なんもねぇのか?」



 何もないのかって言われても⋯⋯。

 この男に渡す物は持ち合わせていない。



「私何も持ってない」



 本当に嫌なんだけどこの人。NPCかもしれないけど、なんか嫌い。酒臭いし。



「へぇ。じゃあ体で払うしかねぇなぁ! 人ん家に侵入したっつう代償を」



 え?

 私の中で暫しの沈黙が流れた。



「ふざけないで」



 そして開いた口が発した言葉は怒り。

 NPCと交わる⋯⋯そんなのは絶対に御免だ。

 NPCじゃなきゃいいってわけじゃないけど⋯⋯。



「ハッハッハッ! 冗談だよ、冗談! 姉ちゃん、おもしれぇ面すんな」



 笑えない冗談。

 私はこんな人に構ってないで、さっさと町に行こうと思い歩き出した。



「待てよ、姉ちゃん」



 男は顔付きが変わり私を引き留めた。



「⋯⋯」



 無言で振り向くと、男は笑顔で話し始めた。



「姉ちゃんよぉ、なんか困ってんだろ? NPCは相手してくんねぇし、俺と行動しねぇか?」



 私は大輔以外とは行動しないと決めている。

 しかしこの男はどう考えてもゲームで仲間になるNPCじゃない。

 それにこの人⋯⋯今NPCは相手してくれないって。

 そういえば酒場でも言ってたような⋯⋯。


 次の瞬間、男の一言で私の他にもこの世界に入り込んだ人間がいるのだと理解した。



「何言ってんの? あんたもNPCでしょ」

「あれ? 俺の勘違いか? 姉ちゃん、俺と同じプレイヤーじゃねぇのか?」



 プレイヤーって⋯⋯?

 やはり夢ではなかったようだ。まぁほぼ夢じゃない事はわかっていたが。

 とにかくこのゲームに入り込んだのは、私だけじゃなかったって事らしい。



「プレイヤー? あんたも?」



 それを聞いて少しだけ安心したような気がした。

 この人の事は嫌だけど。



「やっぱりそうか。姉ちゃん酒場で何か困ってただろ?」

「別に」



 こんな人に話したくない。

 見ず知らずの私に話しかけてくるなんて胡散臭すぎる。



「冷てぇなぁ。同じプレイヤー同士仲良くしようや」



 そう言って男は私に近寄り肩を組んできた。



「やめて」



 私はすぐに男の手を振り払いその場を立ち去った。



「ちっ⋯⋯」



 男は、去っていく私にも聞こえる程の大きな舌打ちをして、小屋の中に入って行った。




「はぁ⋯⋯なんなのあいつ」



 見ず知らずの人と行動する程、私はバカじゃない。


 さっさと町に行こう。

 また変なのに絡まれる前に⋯⋯。






「うわっ!」



 町に向かってと歩いていると、こちらに向かって物凄い早さで走ってくる何者かが見えた。


 グールだ!

 知能、感情が欠落した元人間だから、こうやって見境なく人を襲う。

 って言ってる内に、もうすぐ側に!



「ちょ、きもっ! よし、V.A.R.T.S.バーツ⋯⋯って、え?」



 V.A.R.T.S.バーツ、どうやって使うの? ゲームでは簡単にやってたけど。



「え、まじやばい」



 すぐ側までグールが来ている。

 こうなったら直接撃つしか⋯⋯。



カチーー



「⋯⋯え?」



カチーーカチ、カチーー



「ちょっと! なんで撃てないのよ?」



 V.A.R.T.S.バーツは使えないし銃も撃てない。

 焦りからスゥーっと血の気が引くのがわかる。


 何も出来ないこの状況⋯⋯奥の手を使う他ない。






 グールとは反対の方向に全力でダッシュだーー!

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