本編 ~ 第二章 ~

9話 意図せぬ再会 ~浅はかな知識~

 振り替えるとそこには、煙草をくわえ無精髭を生やした、体格のいい男が立っていた。



「何してんだ? こんな所で」



 その男はエール片手に顔を赤くして、私に近付いてきた。


 ⋯⋯NPCだよね? こんな事あんの? プレイヤーに勝手に話しかけてくるなんて。

 私が今いるこの世界にはクエストはなかったし、なんで話しかけるの?

 バグかなんか? やめてよ。私、今ゲームの中にいるっぽいんだから! バグったらどう対応していいのかもわからないし。


 私が混乱していると男は再び話しかけた。



「なぁ姉ちゃん、煙草持ってねぇか?」



 私は深いため息と共にその男を睨んだ。



「持ってないよ、そんなの」



 私は呆れた顔で男に背を向けた。



「なんだよ、ツレねぇなぁ! なんだ、何か困り事か?」



 っていうか、今口に咥えてるの何よ。煙草じゃないの?


 仮に困ってても、こんな酔っぱらいになんかに打ち明けるはずもない。

 早くどこかへ行ってほしい。



「なんでもないです。それじゃ」



 問題には巻き込まれたくない。

 静かにベンチから立ち上がった。



「なんだ? 行っちまうのか? 本当にツレねぇなぁ。

 全く、NPCは相手してくれねぇし、なんだかな~。

 気を付けろよ、姉ちゃん」



 私がベンチから立ちその場を去ろうとしたら、男はそう言って酒場の中へ戻って行った。


 はぁ、本当になんだったんだろ。酔っぱらいの相手する程、暇じゃないの私は。



「でも⋯⋯どこ行こう」



 私はとりあえず酒場から離れて、マーカーで一番近そうな場所に移動する事にした。

 ダンジョンは私一人でクリア出来る気がしないから、マーカーに付いている町のアイコンを探し向かった。



 町のアイコンは、協会みたいなやつ。マーカーはそれぞれ建造物のアイコンで、何の場所かわかるようになっている。

 洞窟や鉱山は山みたいなアイコンで、研究所とかそういう建物は四角いアイコン⋯⋯まぁそれぞれそれっぽいアイコンで記されているから、わかりやすい。

 たまに、これなんのアイコン? って思う時もあるけど、それは行ってからのお楽しみ。

 結構適当だから、考えるの面倒くさくて、行けばわかる的なのもあるけどね。



「ん? あれは⋯⋯」



 町に向かって歩いていると、一つの小屋を見つけた。人一人が住めるような小さい小屋。

 外には料理鍋が置かれていて、周りに小さな畑もある。


 ここで暮らしてるNPCかな? でもゲームでこんな所に小屋なんてあったっけ?

 まぁ物凄く広大な世界だから、全部覚えてるわけじゃないし、全部の場所に行ったわけじゃないけどね。



発見 ミストランの小屋 EXP10



 発見って出たって事は、ゲームでもあったって事?

 まぁ、とりあえず中を覗いてみるか。どうせ物は取れないだろうけど。



ガチャーー



 扉を開けると薄汚れた寝袋一つと、小さい机の上に少量の光が漏れるランプ、それしかなかった。


 誰も⋯⋯住んでないのかな? でも外には畑もあるし⋯⋯。



トントンーー



 背後から扉を叩く音がした。

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