8話 最高の相棒 ~優しさ~

ブインーー



 店主の目の前に音を立てて、青色の半透明のものが現れた。

 そこには商品のリストらしきものが、ズラっと書かれていた。




ーーーーーー


・テン

全て

10mmピストル(E)

VULTジャンプスーツ(E)

ゴーグル付きマスク(E)

RADZ1

RADアレイ2

スチムパック3

プカコーラ5

マグカップ1

VULTTOKヴルトトック社の教材×

弾薬10mm50

弾薬9mm10

弾薬5.5mm3

【0キャップ】


・リア

全て

10mmピストル

RADアレイ1

スチムパック2

リスの串焼き3

トウモロコシ5

トマト2

トウモロコシの種1

弾薬10mm20

弾薬5.5mm10

【300キャップ】


ーー




 沢山の物がズラっと並んでいる。


 品物以前に私は驚いた事がある。

 私は自分のキャラの名前を初めて見た。Pitboyピットボーイにも書いていたかもしれないが、そこを気にして見てなかったから、全然気が付かなかった。

 私の名前、テン? リアではないはず。私がゲームやるときのハンネは決まって、テンだったから。


 大輔も同じで決まって⋯⋯まぁそれはいいだろう。

 ここにいると思ったのにいない。このゲーム始めて誰もがこの酒場に行くはずだから、ここにくるかもって思ったんだけどね。


 そもそも大輔、この世界に入ってないのかな。私の思い込み?

 でも私だけ、なんで入り込んでしまったのだろう? いや、私だけとか絶対無理だ。



「大輔がいないって考えてたら、不安で押し潰されそうだからやめよ」



 大輔はこの世界に来てる! 絶対! うん、そう信じよう⋯⋯。


 私は自分にそう言い聞かせ並ぶ商品に目を移した。

 しかし肝心な事に気が付いてしまった。それはキャップを持っていないという事。

 とは言っても売るものもない。

 このリアってNPCが持ってる弾薬とスチムパック、それにRADアレイは絶対に欲しい。

 少なくても弾薬とスチムパックだけでも欲しい。見つけたら買っておかないと、後で大変な事になる。


 まぁでもキャップないから仕方ないよね。ないものは買えないし。



「あっ! そうだ」



 私はある事を思いつき、目の前の商品を再び眺めた。


 弾薬。

 これは売るには打って付けかもしれない。

 10mmは何かと使うから取っておきたいけど、9mmと5.5mmは暫くは使わなそう。

 これを売ってキャップを稼ごうかな。



「あのっ⋯⋯弾薬っていくらですか?」

「はいよ、弾薬ね。10mmと5.5mmがあるけどどっちが欲しいんだい?」



 どうやら勘違いされてしまったようだ。

 買うのではなく売りたいのだ。



「あ、いや⋯⋯買い取って欲しいんです。9mmと5.5mmを⋯⋯」

「あぁ⋯⋯なんだい。9mmは一つ2キャップ、5.5mmは一つ5キャップで買い取るよ」

「あ⋯⋯はい」



 思ったよりも安価だった。

 これじゃあ、全部売った所でスチムパックの一つも買えない。



「ちなみにスチムパックっていくらで売ってますか?」

「250キャップだよ」



 ほらね。

 聞くだけ無駄だったようだ。

 スチムパックは物凄く貴重だから、商人達は足元見て高く売り付ける。


 これじゃあ弾薬を売った所で買えない。

 しかしこの使うかどうかもわからない弾薬を持っていた所で何の役にも立たない。

 私は仕方なく弾薬だけを売る事にした。



「じゃあ⋯⋯9mmを10個と、5.5mmを3個、買い取って下さい」

「はいよ、合わせて35キャップね」



カシャンーー



 キャップをテーブルの上に置く音。

 同時に弾薬を手渡した。



「まいど」

「ありがとう⋯⋯ございます」



 物は売る事が出来た。

 しかしこの少量のキャップじゃ何も買えない。


 私は複雑な気持ちで店を後にした。



ガチャーーカランカランーー



 扉を閉めると深いため息をつき、外に設置してある長ベンチに腰かけた。



「はぁ~」



 これからどうしよう。キャップもないし、私はこの世界で一人でやっていけるのだろうか。

 大輔は見当たらないし⋯⋯。ここで待っていたら大輔、来るかな?



「怖いよ、大輔⋯⋯」



 考えれば考える程、不安に押し潰されそうになったけど、やはり考えずにはいられなかった。

 大輔がいないこの世界で、一人で生き残れる気がしなかったから⋯⋯。


 こんな世界を望んではいたけど、それは大輔もいる前提の話。



ワンワンーー



 犬が私を慰めるかのように寄り添ってきた。



「⋯⋯はは⋯⋯っ⋯⋯」



 私は声にならないわざとらしい笑いと同時に、なんだか涙が出てきた。






◆◆◆


「なぁ裕香、もしこんな世界になって俺達はぐれたら、絶対俺お前を探すから⋯⋯お前バカだからさ。変な所うろうろすんなよ!」



 また私の事バカにしてる。



「うん。でも大丈夫だし! 別に大輔いなくても、一人で生きていけるし!」



 こんな世界になったら私無敵だし! 大輔なんかいなくても、一人でも物資探し行くし。拠点見つけて暮らすし。



(この時はそう思ってたなーー)



「あー無理無理! お前はゲームでも方向音痴なんだから、一人じゃ無理。わけわかんない所行って地雷踏んで死ぬぞ!」



 それはゲームの話で現実ではそんな事しない。



「はぁ? そんなわけないじゃん。

 っていうか、私が生きてる間にはこんな世界にならないし。そう言ったの大輔でしょ」



(この話しをしてる時は楽しかったなーー)



「ハハハッ! とにかく俺がお前を見つけるまで、どっかに隠れてろよ。まぁ⋯⋯こんな世界にはならないけどな」


◆◆◆






 大輔、どうしてるかな? 私がいなくなった事に気が付いて探してるかな。また警察呼んで大事になってなきゃいいけど。


 前に私が買い物に出掛けて3時間帰らなかった時、探しにきた時に警察と一緒だったし。

 まぁそれは私が具合悪くなって、コンビニで寝てたのが悪いんだけどね。携帯も持っていってなかったから、連絡出来なかったし。



 それとも⋯⋯この世界で私を探してるかな。

 警察連れて私を見つけてくれた時みたいに、私を見つけてくれるかな。

 あの時言ってくれたみたいに⋯⋯本当に探してくれるかな。


 隠れてろって⋯⋯そんな事できないよ。そもそもこんな世界のどこに隠れろっていうのよ。


 これからどこに行けばいいの? ねぇ大輔⋯⋯教えて。

 どこに行けば正解? どこに行けば大輔に会える? どこに⋯⋯隠れればいい?






ガチャーーカランカランーー



 私がベンチに座り考えこんでいると、後ろから扉を開ける音がした。



「よぉ、姉ちゃんーー」

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