2話 理想の世界へ ~VULT~

「おぉ! この感じやっぱり⋯⋯」



 うん、間違いない。F.o.D.のVULTヴルトだ。

 確かこのゲームの始まりはVULTヴルト111。


 私の感情が高ぶる。

 例え夢だろうと私の望んだ、この世界に私は今いる。


 早く外に出て、この荒廃した世界を実感したいと思いつつも、VULTヴルトの中をしっかり探索。

 何故かというと、このもこのゲームの旨味だからである。


 F.o.D.は、そこにある物はほぼ何でも入手する事ができる。

 重量というものが存在するから全て取る事はしないが、必要な物を探しながら未知の生物と戦う。

 これが楽しいのだ。


 今までは踏み潰せる程小さかった生物も、この世界ではとてつもなく巨大化している。

 虫一匹にしろ、何の躊躇ためらいもなく襲ってくる。

 放射能を浴びまくっている生物は、攻撃にRADラドを持っている場合があり、食らうとRADラド中毒になる場合がある。


 RADラドは数値として徐々に上昇していき、RADZラドゼータRADラドアレイを使わないと、RADラド中毒になり限界値に達してしまうと、死亡してしまう。


 だからRADラドはとても怖いものである。


 ちなみにRADラドとは、核爆弾の影響でこの世界⋯⋯『ウェスタランド』にバラ撒かれた物質。

 言わば放射能の事だ。




「あっ! スチムパックだ」



 スチムパックは減った体力を回復するもの。F.o.D.ではとても貴重なものである。



「プカコーラもこんなに沢山!」



 プカコーラもまた回復アイテムなのだが、これは徐々に回復するもので、さらにRADラド値が少し上昇してしまう。


 しかしスチムパックは非常に貴重な為、普通はプカコーラから使用する。

 プカコーラは必須アイテム。入手しないと結果的には死んでしまう事に繋がる。


 RADZラドゼータRADラドアレイも同じで、RADラドを軽減または回復するものなので、入手しておいて損はない。

 むしろRADラドの回復手段がないと詰む。RADラドが限界値に達して、RADラド中毒による死亡。もうどうする事も出来なくなるのだ。


 薬品系は見逃さず入手していかないと、このゲームでは生き残れない。




「うわっ! ゴキブリみたいなやつ!」



 ゴキブリみたいなやつとは⋯⋯ゴキブリみたいなやつだ。

 いや、巨大化したゴキブリだ。

 正式名称は確か⋯⋯ブラックアーズだったはず。名前だけ一丁前。絶対に序盤に出てくる敵の名前ではない。

 攻撃を食らうとRADラド値が上昇し大変だが、こいつ自体は一撃で死ぬ程に弱い。



「どうしよっ⋯⋯まだ銃ゲットしてないのに」



 私は辺りを見渡すと、都合のいい事にすぐ近くのトランクの上に警棒が乗っている。

 その警棒をすかさず手に取りーー殴る。



ポカッーー



「うわ! いっぱいいる。キモっ」



 近寄ってきた巨大化ゴキブリを、少しずつ下がりながら殴り倒す。

 何故下がるかというと、自分から寄っていくと、例え虫一匹でも囲まれて後ろから、ボコボコ攻撃されてあっという間に死ぬからである。

 もっと言うと、ボコボコ攻撃を食らうとダメージというよりも、RADラドを大量に食らって瀕死になるから危険なのだ。



シャッーーザドンーー



 予想通り一撃で動かなくなった。

 小さな羽をバタつかせ、こちらに飛んで来たと同時に地面に落下した。

 羽がもぎ取れ散らばっていく。


 見たくない光景だ。

 私は気持ち悪さから、すぐにその場から立ち去った。


 そして出口を探し歩みを進めた。






「おっ! やっと出口だ」



 このVULTヴルトの中はまだ全部探索していないと思うが、私はそれ以上に出口が近づいた事による興奮を抑える事は出来なかった。

 ようやく荒廃した世界と対面できるのだ。


 出口には、部屋に付いていた扉とは比べ物にならない程に大きなVULTヴルトと書かれた丸い扉がある。


 部屋の隅にある、扉を開けるであろう装置に近付く。

 そこは今私が立っている地面より一段高くなっていて、短く小さな階段が付いている。

 そこに上ると死体⋯⋯? いや、もう相当な日数が経っているであろう、骨になった死体が転がっていた。

 そこで初めてPitboyピットボーイと出会う事になる。


 その骨の死体が身に付けていたであろう、Pitboyピットボーイを手に取り自分の腕に付ける。

 ゲームでしか見た事なかった憧れのPitboyピットボーイ⋯⋯。

 手に持った時は案外重量感があり、更に私の感情は高ぶった。



「これがPitboyピットボーイか⋯⋯」



 Pitboyピットボーイが落ちていたすぐ隣には、一見壊れているかのように見える機械が置かれていた。

 それはゲーム通りならこのPitboyピットボーイを充電できる優れた機械だ。


 機械全体は薄い黄色というか肌色というか⋯⋯くすんでいてもはや何色なのか定かではない。

 左側には透明の小さな小窓が付いていて、中には何かをはめ込むような窪みがある。

 おそらくここにPitboyピットボーイの充電⋯⋯コンセント? を差しこむのだろう。

 丸くてぶっといコンセントだ。


 私はそのコンセントらしきものをPitboyピットボーイから引っ張り、窪みに差し込んだ。



カチャーーウィーーンーーガガガガ。



「おぉ!」



 窪みに差し込むと、今まで静かだった機械が呼吸を始めた。

 そして差し込み口の周りにゲージのようなものが出現し、徐々にゲージが貯まっていくのがわかる。

 これが全て赤色で埋め尽くされれば充電完了の合図だ。


 そう長くはなかった。

 優秀なPitboyピットボーイはすぐに充電を終え、ゲージが赤色で点滅した。

 そして窪みから線を抜き取った。



ブンーーブイーンーーピピピーーザザーー



 そしてPitboyピットボーイの電源を付けると、見慣れた画面とご対面。

 これは何度も見る事になる、生きるのに必要不可欠なものだ。

 何から何までこのPitboyピットボーイで確認できる。

 まずはPitboyピットボーイの横に付いているダイヤルを回し、色々確認してみる事に。

 この仕様はゲームで主人公がダイヤルを回しているせいで、咄嗟に操作する事が出来たのだ。


 するとあるテープがある事に気付く。



「ん? ゲームではこんなのなかったな」



 ゲームでは入手しなかったあるテープを発見し、それをPitboyピットボーイのカセットを差し込む場所に入れた。



カシャーーピピーー

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