本編 ~ 第一章 ~

1話 理想の世界へ ~カプセル~

「ん⋯⋯」



 目覚めるとそこはーー




「どこ、ここ?」



 私、ゲームしてたよね。

 辺りをよく見渡すとあの景色に似ていた。

 私は辺りを少し歩き見て回った。



「確かに⋯⋯そうだ!」



 薄暗い部屋の両脇に縦長のカプセルのようなものが沢山ある。

 それぞれのカプセルの真横には、0から9までの数字とENTERボタンが付いているスイッチが。

 中央には人一人がようやく通れる程の狭い通路があり、区切るように黄色い鉄の柵が両脇にある。

 通路の入口付近にある、通ると向こう側に開く改札が太ももに当たる。



 部屋の中は少し肌寒い。

 電気は通っているのだろうか?


 薄暗くて視界は見えづらいが、この部屋には見覚えがある為、鮮明に覚えている。


 通路の脇にある黄色い柵をまたぎカプセルに近付く。



「ぁいてっ!」



 段差があるのを忘れていた。

 カプセルにばかり目がいき、またいだ先の地面を見ていなかった。

 ほんの少しの段差に足が乗っかり、バランスを崩してしまったのだ。


 ようやく体勢を立て直し、後ろ手に柵にお尻を乗せ体重を預ける。



「ふぅ~」



 ため息をつくと再び目線はカプセルへ。

 そして真横にある数字が並んだボタンを見る。

 薄汚れていて元の透明色は保っていないが、中のボタンを保護するようにカバーが施されている。


 カバーに手を伸ばした。



カチャーー



 その並ぶ数字を見たところで、どの数字を押せばいいかなど到底わからないが、何となく中央に位置する5の数字を押してみる。



「やっぱりダメか」



 当然だが何も反応はしなかった。

 私は怒りに任せに雑に適当なボタンを連打する。


 しかし反応するわけもなく、深いため息をつき重い腰を上げた。


 振り返ると反対側にある、似たようなカプセルの中に男性が横たわっているのが見える。



「あっ⋯⋯」



 見覚えがある。

 あれはゲーム通りならカプセルの扉が開くはずだ。

 私は思わず柵をまたぎ、急ぎ足で反対側のカプセルへ近付いた。

 そして傷だらけになったカバーを上に上げると、数字が並んだ下部にあるENTERボタンを押す。



「ん?」



 反応がなかった為もう一度⋯⋯。

 私はENTERボタンを連打した。



ピピーープシューー



 煤けて色あせているカプセルの扉は音を立ててゆっくりと上に開いた。

 長い年月を経て故障しかけていたのか、時間差で中の男性と対面する。


 中の男性は既に死んでいるーーそして男性の指には結婚指輪が。

 この男性はゲームが始まってすぐに、射殺されてしまった主人公の旦那だ。


 私はこの瞬間に確信した。あの場所だと。



「っていうか、大輔は? どこ?」



 私は今更になってこの場所にいるのが物凄く不安になり、辺りをキョロキョロした。

 しかしいくら見回しても大輔がここにいるはずもなく、私の不安は更に大きくなる。



「大輔? ねぇ⋯⋯いないの?」



 いくら呼んでも返事はなかった。

 どうしよう⋯⋯。私、なんでここにいるの?



「あっ⋯⋯」



 私はある事を思い出した。

 それは私がここで目覚める前、急激な睡魔に襲われた事。


 これは夢なのかもしれない。

 夢だよ、きっと⋯⋯だっておかしいでしょ?

 今までゲームしてたのに、いきなりこんな所にいるなんて。

 夢じゃなかったら説明がつかない。


 でも、夢だったら⋯⋯いいかな。この世界を堪能できるんでしょ?




 私は夢だと言い聞かせ今起こっている事を受け入れた。

 せっかくだからこの世界を満喫しようと⋯⋯。


 それじゃあさっそく⋯⋯何しようかな。



「とりあえずPitboyピットボーイ⋯⋯って、ないのかよ!」



 私は自分の腕を見てPitboyピットボーイがない事に気が付いた。



 Pitboyピットボーイとは言わば自分の能力を見るもの。

 体の状態やマップ、クエスト状況やラジオまで聴ける優れもの。

 身に付けているものや、所持アイテムまでわかる。

 これが売りに出された時は本当に欲しかった。でもニートだから買えるはずもなく、諦めざるを得なかった。



 それでこれ、最初からプレイするって夢?

 夢の割にはなんか現実っぽいんだよな⋯⋯。

 でも⋯⋯たまに見るよね、現実っぽい夢。



「ん~とりあえず、脱出か」



 横たわる男性が身に着けていた結婚指輪を取り、カプセルが並べられた部屋を後にした。

 なぜ結婚指輪を取ったかというと⋯⋯売値が高いからだ。


 そして部屋を出ると明かりなどは一切なく、更に薄暗くなりもうほとんど何も見えない状態だ。

 私はその暗さに目が慣れるまでは動く事が出来なかった。



 しばらくその場に立ち尽くすと、目は自然と暗闇に慣れてくる。

 そしてその場所がどのようになっているのかを確認した。


 空間の把握に時間はかかったものの、私の中でやっと状況把握が出来た。

 すぐ目の前にある壁に一枚の絵画が飾ってある。

 立てかけてあるが、そのバランスは保っておらず斜めになっている。


 薄汚れた絵画だが、辛うじてどのような絵なのかは見てわかる。


 見渡す限り海。海に囲まれた大地に、天高く昇る煙が印象的な工場がある場所だ。

 この絵画が描かれた当時は、スカイブルーの綺麗な海だったのだろう。



「こういう場所⋯⋯好きだな」



 私はその絵画に見とれていた。

 工場とか、煙が空に向かうにつれて大きくなっていくあの感じ、めちゃくちゃ好きなのだ。

 廃墟とか廃村とか⋯⋯ダンジョンみたいで思わず入りたくなってしまう。

 ⋯⋯自分で言うのもアレだが、重症だな。



 そしてその絵画が飾ってある壁から目を離し左右を見渡すと、横に細長い通路があるが、暗すぎてあまり遠くまでは見通せない。

 この位置から見えるのは、すぐ近くに扉が見える。それだけだった。


 まずは探索して武器や薬を探そうと右の通路、左側の扉に向かい歩みを進めた。



 扉に近づくと、その大きさが明らかになった。

 縦長の扉、私の身長よりやや高い位置まである扉だ。

 全体が白色の扉の中央には、凹凸のある円形の中にVULTと書かれている。


 目の前に立っても扉は反応しない。

 元々自動で開くタイプじゃないのか、長年の劣化で壊れているのかはわからない。

 その扉の周囲を見渡すと、扉のすぐ隣の壁には赤くて丸いボタンが突起出ている。


 そのボタンを手のひらで強く推した。



プシューーガチャーー



 扉は口を開くように真ん中から別れ上下に開いた。

 そして扉が開くと同時に、私の感情はさらに高ぶった。

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