ニートゲーマー異世界へ~荒廃した世界で生き抜きます~
TEN
プロローグ
0話 プロローグ ~ニートゲーマー~
「こんな世界になんないかな~」
私は
半年前からハマっているゲームがある。
それはーー
通称『F.o.D.』。
私の望んでいる世界そのもの。
私と恋人の
まぁつまりクソニートってわけ。
このオフラインゲームを、部屋に40型液晶テレビを2台並べて、私達は隣で個々にプレイしている。
決して金持ちではないが、こういう楽しみ方もアリだと思う。
まぁ、二人で一緒のオンラインゲームをプレイする時もあるのだが⋯⋯その話はいいだろう。
今はこのゲーム⋯⋯F.o.D.が最高に楽しい。
「お前、こんな世界に、なったらなったで大変だと思うぞ?」
この時の私はまだ、この言葉の本当の意味を理解していなかった。
「だってさ~こんな世界になったらすごい楽しいよ、多分!」
荒廃した世界に憧れているというか、もうなってほしいとすら思っている。
皆シェルターに隠れている中、私は荒廃した世界で基地を見つけて、物資探しに行って、突然変異した巨大な生物と戦う。
こんな面白そうな事ある? ってくらい楽しいよきっと。
そんな甘い考えを抱いていた。
シェルターとは、核爆弾の影響で放射能だらけになった外に、出られない人達の住む一時的な施設の事。
それを核戦争と言う。
その核戦争の影響で動物や昆虫⋯⋯生物が、消し飛ぶか突然変異して巨大化した。
人間は生物が巨大化するより、もっと悲惨な状態になった者も数知れない。
放射能の影響で体が
どちらともに言える事は、こんな世界にした人間を恨み見境なく襲ってくるという事だ。
まぁグールは憎しみという感情すらないから、本能的に襲ってくるのかもしれないが⋯⋯。
どちらにせよ凶悪な存在だという事に変わりはない。
そしてこんな世界でも、助け合って何とか生き延びて生活している人がいる施設がシェルター。
戦える人は外へ物資集めに、そうじゃない人は中で農作物を育てたり店を開いたりしている。
働かない者や戦えない者は飢え死ぬ。無意味に外に出た日には無残にも殺されて終わりだ。そんな死体がこの世界には無数に転がっている。
⋯⋯こんな世界。
自給自足で崩壊した世界で生き延びる。
私はこれを望んでいるのだ。
私の考えは誰も理解しようともしないが、これは私が本当に望んでいる世界なのだ。
これまでもこれから先もずっと、この考えを理解出来る人は現れないだろう。
大輔以外は誰も⋯⋯。
私が生きている内にそれは叶わない。
分かっている事だけど残念でならない。
だからこそ憧れを抱いているのだ。
チリチリチリーー
「うわっ! ここ、放射能やばっ!」
放射能がある所ではチリチリ音がする。
でも、F.o.D.ファンには、このチリチリがたまらない。
テンションが上がるのだ。
「ねぇ大輔、実際こんな世界になったら、チリチリ音するかな? はははっ」
「するわけねぇだろ。本当バカだな」
いや、本当に音がするとは誰も思っていない。
大輔はたまに冗談が通じない時がある⋯⋯。
「うわ! ここの水、やばくない?
「ふっ! 持ってきてないやつが悪いだろ、それ」
放射能スーツは、放射能を軽減出来るという性能以外は何の意味もない。
他の耐性がほぼ皆無だから、あまり着用する事も持ち歩く事もない。
「ね、ここのダンジョン行った?」
私は超がつく程の方向音痴。
迷路のようなダンジョンを行ったり来たり。
一人じゃクリアする事すらままらない時もある。
ミュートンがミニガンをぶっぱなし、木刀や薙刀を振り回し悪戦苦闘。
帰りたくても帰る道すら分からない。
この方向音痴には何年も付き合ってきたが、さすがに嫌気がさす。
「ん? クリアしたけど。なに、クリアできないの?」
大輔は私とは真逆で方向音痴とは縁も遠い存在だ。
いつも同じ所をぐるぐると駆け巡り、敵の死体を見て「あ、ここ来た所だ」などとボヤいていると、大輔は横で笑っている。
苦戦している私を見て楽しんでいるのだろうが、結局最後には教えてくれてクリア出来るダンジョンも数知れない。
普段はドがつく程のSだけど実は優しい。
そういう所が大輔と一緒にいる理由なのかもしれない。
「あ、ミュートンだ! ここ来てないとこ! うわっ、強っ。あ⋯⋯死んだ」
油断しているとすぐに殺される。
実際にこんな世界になったら誰も助けてはくれないだろう。自分だけが頼りなのだから。
こんな世界になってはいないし、なる予定もないだろうから、私は単に「大輔が助けてくれる」と甘えているだけなのかもしれない。
F.o.D.では基本的に
寧ろこれがなければまともに戦えない。
まぁ、それでも死ぬ時は死ぬのだが⋯⋯。
V.A.R.T.S.使用時には
簡単に言うとAPの分だけV.A.R.T.S.が使えるという仕様。
V.A.R.T.S.を起動し残りAPの分だけ弾を込める。
そして敵にターゲットを合わせ全てを撃ち込む。これが何気に気持ちいいのだ。
とにかくAPを高くしておけば、その分銃を連発出来るからAPは物凄く大事。
この世界では、AP管理が生死を分けると言っても過言ではない。
だが⋯⋯。
死ぬまで助けてくれないなんて、大輔も意地が悪い。
私は頬を膨らまし大輔を睨み付けた。
「いやいやいや、俺のせいじゃないでしょ」
最もだ。
しかし何かと大輔が助けてくれるという甘い考えを持っている私は、大輔がいなければ何も出来ない。
深いため息をつき再びダンジョンの入口へ戻される。
ミュートンはあまりいい物を持っていないから、倒しても意味がないような気もしないでもないが⋯⋯。
ドロップするのは大抵、近接武器のみ。たまにミニガンとか持っているけど、重量が凄まじい。
売値はそこそこ高いから一応持って帰るけど。
「お前、まだそこなの? 相変わらず遅いな」
「うっさい!」
ゲームの進捗度が早い大輔とは違い、私はかなり遅いほうだ。
ゆっくりやりたいタイプだから別にいいんだけど、遅い遅いと横から言われると耳が痛い。
しかし進捗度が遅いのと集中力があるのはイコールではない。
F.o.D.の天敵⋯⋯地雷。
ピピピピという音が聞こえた時にはもう遅い。
いつも咄嗟にジャンプをしてしまうのだ。
ジャンプをしたが最後、足が吹っ飛び運が悪ければ死ぬ。
逆効果だという事は分かっているが、反射的にジャンプボタンを押してしまうのだ。
これはF.o.D.をやっている人ならあるあるだ。
「あ、地雷! 解除しよっ⋯⋯」
「クククッ⋯⋯また死ぬぞ~」
「うっさい! 今集中してんだから、邪魔しないで!」
ーーピピピピピィーーボン!
「あ⋯⋯」
「ハハハハハハッ! ハハッ! アハハハ!」
涙を浮かべながら笑う大輔を、頬を膨らまし睨む。
「アハハッ⋯⋯ちょっと便所。俺いない間にまた死ぬなよ」
これはいわゆる死にゲー。
しかしいくら死んでもF.o.D.はハマる。
一度ゲームを起動したが最後、コントローラーを手放せなくなってしまう程の中毒性。
「はぁ~疲れた」
しかしF.o.D.をやっていると、瞬きをするのを忘れるのか目が痛くなる。
ただでさえ目が悪いのに、これ以上悪くなったら見えなくなってしまう⋯⋯とか思いつつもゲーム三昧の日々だ。
「いや、たとえ目が見えなくなってもゲームやるし、うん」
⋯⋯と、独り言を漏らしてはみるが、やはり目が見えなくなるのは嫌。大好きなゲームを二度と出来なくなる。それだけは避けたい。
大好きなF.o.D.の世界を見れなくなるのは、私にとっては地獄だ。
現実で起こらないなら、せめてゲームだけでも体験したい。
「まじで一旦休憩しよう。目を休めないと」
コントローラーを床に置く。
酷使した目を癒すのはやはり目薬が一番だ。
染みる。
目薬が効いている証拠だ。
「ふぅ~」
冷たい液体を差し込み目を閉じるーー
すると目を瞑っていても伝わる程の強い光を感じた。
何事かと思い目を開こうとするが、その光量に再び目を瞑る。
「うわっ⋯⋯」
そして再び瞼を開ける事を試みる。
恐る恐る⋯⋯。
完全に瞼が開くと、光の発生源はテレビからだとわかる。
勿論F.o.D.に今までこんな現象が起こった事などない。
F.o.D.のバグなのだろうか⋯⋯?
それともテレビの故障なのだろうか⋯⋯?
咄嗟にスマホに目をやる。
Google検索を開き、『F.o.D. バグ 光』と入力してみる。
出てくる検索結果は他のバグや小技の攻略情報ばかり。
困ったものだ。
「ふぅ」
私の目線は再びテレビへ。
「んっ⋯⋯」
目眩がする。
光の強さに目が負けたのか、事態を飲み込む前にその時はやってきた。
「眠っ⋯⋯だい⋯⋯すけ」
急な睡魔。
その襲い掛かる眠気に、瞼に力を入れる事が出来なくなった。
ここからの記憶はない。
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