Challenge 2

 動き続けていた僕は市立図書館に居た。絵に関する本、日本画についての本をパラパラとめくる。文字はほとんど読んでいない。絵が出てくれば少し眺める。こんな形でたどり着けるとも思えないが、こうしていると、そのことだけを考えられる。それが気持ちよかった。指の力を調整し、目をぼんやりと本に向けていく。


 それは本当に偶然だった。と、僕は思うのだが。その絵が本の中にあった。凝視して、目を擦って確かめた。間違いなかった。僕は興奮しながら近くに合ったメモ用紙に鉛筆で情報をメモしていく。絵のタイトルは『竹屋の渡し』というらしい。コピーが取れればよかったのだが、その辺は幾つかの手続きが必要らしかった。僕はそこに踏み出せなかったが、手段をぼんやりと思い描くことは出来た。家にあるパソコンだ。


 僕もそれほど詳しくないが、インターネットでの検索はわかる。見聞きしている。多少の作り話を混ぜて使わせて貰えることになり、インターネット空間において僕は遂にその絵にたどり着く事が出来た。


 喜び勇んだものの、ここからどうすれば良いのかが解らなくなった。あの四角いスペースの大きさも憶えていない。正確さが必要ならしっかりと測ってこなければならない。仮にこの絵の事が正しかったとしても「本物を納めろ」などという条件だったなら、僕には到底手が出ない話だ。そんな想いが頭を駆け巡り、僕はさりげなく言葉を述べつつプリンターの使用をほのめかし、ささっとその絵を印刷した。焦っていたものの、意外と簡単に出来た。


 ジメっとした空気と水気を弾きながら、学校からの帰り道の途中にある洞穴へ、僕は足を踏み入れる。疲れのあまりの幻覚で無いことを祈りつつ、僕は扉までたどり着いた。左にある土偶と、右にある額はしっかりと存在していた。僕は奇妙な明るさの中で額の許まで近づいていく。


 その額の大きさを間近で見た時に「もしかしたら?」という感覚が走った。僕はカバンから印刷した例の浮世絵を取り出して、近くで比べてみた。やはり、ピッタリだった。僕は焦りつつ家のプリンターを使わせてもらったわけで、細かい設定はいじっていない。『自動』とか『おまかせ』というボタンをカチッカチッとクリックして無事に出力出来た。つまり、A4サイズで印刷されていた。


「こんな偶然ってあるの?」


 思わず、僕はそう呟いてしまう。しかしながら、胸の高鳴りは押さえられず、体も腕も動き出してしまう。僕がプリントアウトした浮世絵は、額の中へと納められた。


「……何も起きない?」


 胸の高鳴りは苦しさ、切なさへと変わり始めていた。かつてここに来た時の様に、涙が目に滲んでしまいそうだった。僕は足から力が抜けていくのを感じつつ、まだ何かあるのではないかと想い、この付近を探ろうと目に力を込めた。ゴシゴシと目をこすり、ほっぺたをパンと両手で叩いた。


「プリントアウトじゃないですか!?」


 声が洞穴に響いた。僕の声ではない。別の誰かのものだ。僕は飛び上がってしまった。

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