第28話 兄と妹

「それじゃあ、兄妹の仲直り祝いにかんぱーい!」

「「「かんぱーいっ!」」」

 カァンとコップが打ち合わされる音が部屋に響く。それとともに一同が一斉に喋り出し、途端に会場はお祭り騒ぎとなった。

「おう、この料理凄くおいしいな。誰が作ったんだっけ?」

「わたくしですのよ! もっと褒めてもよろしくてよ!」

「うん、ほんと素晴らしい。味もさながら栄養バランスも考えられている。これはうちの弟たちにも持って帰ってやらんといけないな。ほんと良い腕してるし、美人だし。文句の付けどころがないな」

「あれ? これ、わたくしマジで褒められてるんですの? ふ、ふわわわ!? どど、どう対応すればいいんですの!?」

「素直に喜べばいいだろう……?」

 悟に褒められた愛結は、恥ずかしそうに彼方の後ろに隠れてしまった。そのそんな会話を交わしているテーブル席の近くで秋人がうろうろと歩き回っていた。

「うーん、護の家は広いけど人数が多いとさすがに席が足りないよなー。ソファーは兄妹がいちゃらぶしてるから座りにくいし」

「兄貴、シッダウン」

「俺は床で食べろと!?」

「ふふっ、甘いよお兄さん! これは千瀬ちゃん大好きクラブの会員として私の方が一歩リードってところなんだよ」

「巨乳、ゲッダウト」

「家にすら入れて貰えなかったっ!?」

「……ていうか、大好きクラブってなによ? もしかして陰でこそこそと私の写真とか回し合ってたりするんじゃないでしょうね……?」

「「ぎくり!?」」

 秋人と紺乃は逃げ出そうとするも、すぐさま千瀬に捕まってしまった。首根っこを締め上げられながらも、二人とも悦楽の表情を浮かべているのはなぜだろうか。

「うふふー、やはり身内のパーティはいいものですわね。そして、このだらだらとした雰囲気! ……お酒もありですよね!」

「愛結、いきなり姿を消したと思ったら、貴様何を持っているのだ?」

「ぎくり……べ、別にアルコールをこっそり頂こうなどと企んでたわけでは……」

「未成年の飲酒は法律で禁止されておるだろう。ほら、その大事そうに抱えている酒瓶をこちらに寄越せ。叩き割ってやる」

「でも、お酒を飲むと胸が大きくなりましてよ?」

「よし、愛結。今夜は飲み明かすぞ」

「ころりと騙された!? どれだけ貧乳コンプレックスですの!?」

 愉快気に肩を組んで酒瓶を開けるよう強要してくる彼方に、愛結は目をぱちくりとさせた。

「ん、みんな楽しんでるようで何よりだ。……ところで、ひなたはなんでさっきからずっと俺の脚の間に座っているんだ?」

「定位置です」

「動きにくいし隣に移動してほし」

「定位置なんです」

「そ、そうか」

両脇を持って持ち上げようとしてきた兄に反発するように、ひなたは両手で兄の太腿を両腕でぎゅっとホールドした。

「……わたし、お兄ちゃんのことずっと好きですから」

「うん」

「わたし、ずっと一緒にいたいです」

「ああ、ずっと一緒にいような」

「はいっ!」

 ひなたは満面の笑顔で答えた。

「ひっく、おーい、くるくるガール! ずっと男といちゃいちゃしてないで一緒に飲もうぞ! ほら、これブルーハワイで綺麗だろう?」

「ふわぁ! なんですか、それ! 凄く美味しそうですー!」

「待て!? ひなたは酔うと脱ぐから飲ませちゃダメ――」

「ぐびぐび……ぷはっ! 美味しいです!」

「手遅れだった!」

「ふわ~! やっぱり全裸は気持ちいいです~!」

「一秒で脱いだ!? 悟、服を着させるから取り押さえるの手伝ってくれ!」

「おう、了解」

 リビングを逃げ回るひなたを護と悟は追いかけ回す。

 そんなこんなでわいわいと騒ぎ合う、愉快な一日だった。

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