第21-2話 メイドカフェ(2)
「うへへ、千瀬ちゃんを呼びつけてサービスを蹂躙しつくしてやるんだよ!」
「ありとあらゆる羞恥プレイをあのぺちゃぱいに強要するですの!」
変態二人が息を荒げる中、ひなたは足をバタつかせながら上機嫌にメニューを眺めていた。
「可愛い料理がたくさんありますね。全部食べちゃいたいくらいです」
そのときドアチャイムが鳴って、新しい客が店に入ってきた。
『はー、ここがメイドカフェってやつか。初めて来たな』
『どうだ、我が友よ。偶にはこういう店もいいだろー?』
『謎にきゃぴきゃぴした空間だな……いかにも秋人が好きそうだ』
どこかで聞いたことのある声だった。振り返り玄関の方を見てみると。
「お兄ちゃん?」
「あれ、ひなたじゃないか」
「千瀬ちゃんのお兄さんと……股間を強打した人もいます!」
「そのことは忘れてあげなさい。トラウマで過呼吸を起こしてる」
護の後ろで原山が顔を真っ青にして痙攣していた。
「どうしてひなたがこんなところに?」
「それはですね~、実はストーキングの成果ですっ!」
「ちょ、ひなたちゃん!? 他人の黒歴史をドヤ顔で話さないで!?」
「よく分からんが、ひなたが楽しそうでなによりだ」
護は微笑ましげに苦笑した。
「待て。二人がいるということは我が妹もいるのか?」
「お帰りなさいませご主人さ……」
テーブル席にお冷を持ってきた千瀬の表情が固まった。
「ななな、なんで兄貴がここにいるのよ!?」
「我が妹! いもっ妹よ!? なんだその恰好は! メイドか!? メイドなのか!? いやその輝かしくも艶めかしい姿! もはや天使か! おお、我が天使よぉおお! とりあえずペロペロしていいか?」
「ダメに決まってんでしょ!?」
ハァハァと息を荒げて飛び掛かろうとした秋人を、悟が捕まえた。
「こいつは俺らが抑えとくから。安心して仕事をしておいてくれ」
「我が妹よおおおおおおおお!!」
「あ、ありがとうございます」
千瀬はぺこりと頭を下げて、そそくさと逃げ帰るように厨房へ去っていった。
「まったく入店早々粗相を行うところだったな。それにしても、秋人じゃないが、メイドカフェはなんていうか視線に困るな」
「おい、護。なぜ俺はメイドカフェにきて目隠しをされているのだ?」
「そうか、目を潰すほうが効率的だったか」
「物騒だ!? 我が友人はそんな暴力的だったのか!?」
「冗談だ」
「よかった!」
「お前ら……いい加減静かにしようぜ……。ほら、メニューを見ろよ。結構美味しそうだぞ。栄養バランスが崩れるから俺は食べんが」
「目の前が真っ暗なんだけどー!?」
一つ向こうの席で談笑する護たちの様子をひなたはこっそりと観察していた。
「千瀬ちゃんのお兄さん、取り乱していますね」
「そりゃあ妹のメイド姿なんて普段絶対見れないからね。いつもと違う姿に思わず興奮してしまうんだよ」
紺乃の言葉に、ひなたの頭上に感嘆符が浮かんだ。
「わたし、閃きました!」
「ふえ?」
「お兄ちゃんを堕とす方法です! お兄ちゃんがわたしになびかない理由! それは、わたしが日常だったからです! 人は急な変化にはすぐ気付きますが、ゆっくりな変化には気付かないもの! つまり、わたしがすでに素敵で魅力的な女性に成長したことにお兄ちゃんは気付いていなかったのです! ゆえに!」
ひなたは立ち上がり、満面の笑顔を浮かべて。
「わたし、メイドになります!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます