第21-3話 メイドカフェ(3)

「バイトの手伝いがしたい?」

 紺乃が事情を説明すると、彼方は眉を顰めた。

「どうしてもメイドになりたいんです。どうにかできませんか?」

「うぅむ……難しいな」

「メイド長からでもいいですよ?」

「役不足を案じたわけではないぞ!? どこからその自信は湧いてくるのだ!?」

 自信満々に胸を張るひなたに、彼方は目を瞬かせた。

「愛すべき部員の頼みだ。聞いてやりたいのは山々なのだが、私の一存で判断できることではないな。店長に話を仰いでみるが、できるかどうかは分からんぞ?」

 そうして彼方は二人を連れて店長のいる休憩室までやってきた。その扉を開いたところで、店長の怒声が飛び込んできた。

「はあ!? 48度の高熱!? 嘘つくんじゃねえぞ!? サボる気だろ! 今どこにいる!? コンゴ共和国!? せめてもっと分かりにくい嘘をつけ! おい、こら! 日本で電波障害なんか起こるわけな……あ、くそ、切りやがった!」

「何かあったんですか、店長?」

「今日バイト予定だったヤツがボイコットしやがった。これで二人目だぞ。まったくこれから忙しくなるってのに」

 切れたスマートフォンを睨み付けながら、店長はため息をついた。

「最近悪い客が入って来てるから嫌がる気持ちは分かるんだが……いきなり二人もいなくなったら仕事が回らないぞ……。ヘルプに入ってくれるヤツを探さねえと……」

「あの、ちょうど二人バイトをしてみたいって友人がいるんですが」

「なに!? それは本当か!?」

 彼方は店長に事情を説明した。

「なるほど、平崎さんの友人か。彼女は来てまだ日も浅いがよく頑張ってくれている。彼女の友人なら信頼できるな。すまないがヘルプを頼む。もちろんバイト代も弾む。これから夕方にかけて忙しくなるから、なんとか乗り切ってくれ」

「「はい!」」


 ◇


「なんであんたたちがメイドしてんのよ……」

 十数分後、休憩所にはメイド服に着替えたひなたと紺乃、そして愛結が並んでいた。

「わたし、メイドになってしまいました」

「見たら分かる。……まあ、大体察しはつくけどさ」

「なぜ愛結もメイドなのだ?」

「面白そうだったのでこっそり混ざってみました!」

 愛結はハイテンションに頷いた。普段のお嬢様気質が抜けていないのか、メイド服を着ても偉そうだった。

「メイド服なんて着たことないからドキドキするんだよ。うー、でも胸の辺りが少しきついんだよ……」

「あれ、紺乃ちゃん、それブラジャーしてますか?」

「苦しくて取ったの。ホックが食い込んで痛いし。胸が大きいと損なんだよ」

「桜咲さん、やめてさしあげるですの。貧乳が歯ぎしりしてますの」

 貧乳コンプレックスは紺乃の一部分を鬼の形相で凝視していた。

「うーん、初めてだと上手く着れてるか不安です。千瀬ちゃん、ちょっと見て貰えますか?」

 ひなたはくるりと体を回した。ふわりとスカートの裾が舞う。

「どうですか? 似合ってますか?」

「いいんじゃない? 小さいから可愛い路線のニーズが期待できるわね」

「わーい! やったーです!」

 ひなたはぴょんと飛び跳ねた。その様子を見ていた愛結も、少し恥ずかしそうにしながらくるりと体を回してみせた。

「ほら、彼方。どう思いまして?」

「は? なんで私に意見を求めるのだ?」

「……別になんでもないですの」

「何を拗ねているのだ……? まぁ、可愛いと思うがな」

「い、今更褒めても遅いですの! 嬉しくなんかないんですから!」

「ねぇねぇ、千瀬ちゃん!」 

 そんな二人の様子を見ていた紺乃も、お披露目するように千瀬の前でくるりと回ってみせた。

「えへへ、どうなんだよ?」

「全然ダメ」

「ふえ!? 似合ってないんだよ!?」

「豆腐に着せたほうがマシね」

「無機物以下なの!?」

 紺乃は涙目を浮かべた。

「おーい! 何やってんだ! お客さん入ってきてるぞ! 早くしてくれ!」

「あ、はい! 分かりました!」

 店長の声に反応して、千瀬は急ぎ足で走って行った。

「千瀬ちゃん、まだ怒っているのかな……?」

 去っていく千瀬を視線で追いながら、紺乃はぐっと握り拳を作った。

「私も千瀬ちゃんの心をつかんで見せるんだよ!」

 恋に燃える巨乳メイドなのであった。

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