第21-1話 メイドカフェ(1)

「ずっと怖気がすると思ったら……やっぱり付けてきてたのね」

 ひとまずひなたらをテーブル席に案内した千瀬は、呆れたようにため息をついた。先の一件で彼方と仲良くなったのか、お金に困っていた千瀬が相談を持ち掛けたところ、彼方が働くバイト先を紹介して貰った、というのが今回の経緯らしかった。

「千瀬ちゃんって結構お小遣い貰っていましたよね?」

「だ、だって、今月は欲しいゲームとかブルーレイが一杯出たし……? 最近新しいモバイルゲームも始めちゃって、お金がその、なくなっちゃったのよう……」

 千瀬は目を逸らしながら、両指の人差し指をもじもじとさせた。どうやら課金の闇に足を突っ込んでしまったようだ。 

「そうだったのですか、千瀬ちゃんも大変ですね。ところで、かなちゃんの恰好は営業倫理的に大丈夫なのですか?」

 メイドカフェであるにも関わらず、彼方は相変わらずの裸白衣だった。ただし、羽織っている白衣はフリルや色合いなど、メイド服のような装飾が施されている。例によってボタンは一つしか掛けておらず、素肌が露出していた。

「ふふっ、メイド服と白衣のコラボレーションといったところだ。これは中々素晴らしいデザインだろう? まさにニューファッションというか、我ながら自分の才能が怖いというか……ん? あ、店長? なんで私の腕を掴むのだ? やだぞ、私は絶対に着替えなんかしな、あう!? やめ、強引はダメ!? 千瀬助けて、あ、あああああああ!?」

 彼方は手首を掴まれて休憩室へと連れ去られた。

「裸白衣はともかく! どうして私たちに話してくれなかったんだよ! すごく心配したんだよ!」

「だって、あんた絶対粗相するでしょ」

「は? そんなするわけな……」

 そこまで言って紺乃は気付いた。

「そうだ! 今メイド服じゃん! 撮らないと――」べぎゃ「あああ!? スマホが壊れた!? 秘蔵の千瀬ちゃんコレクションが! でもメイドの千瀬ちゃんに詰られるのは思いの他快感!? もっと蹴り詰って欲しいんだよ!?」

「……こうなるのが嫌だったから教えたくなかったのよ」

 千瀬はやれやれと被りを振った。

「なんだか勘違いさせてしまったようで申し訳ないな」

 彼方が休憩室から戻ってきた。今度はちゃんとメイド服を着ているようだったが、どこか体の動きがぎこちなかった。

「まだわたくしは納得してませんことよ。なんで彼方がメイドカフェなんてところで働いているですの? 全然接点がないじゃないですか!」

「は? 知らなかったのか? 私はサブカルチャー大好きだぞ?」

「そうだったのですの!? 全然知らなった……」

「愛結さんもまだまだ甘いんだよ。今後そういった行き違いが生じないように、もっと徹底的にストーキング技術を学ぶべきだよ」

「そいつは魅力的な魔法ですの」

「やめなさい」

 千瀬は巨乳の頭を小突いた。

「ま、バレちゃったもんは仕方ないわ。そういうわけだから。適当に寛いでいきなさい。それなりにサービスもするわよ」

「性的なサービスを!?」

「代わりにこのようなサービスはいかがですか、ご主人様?」

「首が捩じり切れるんだよおおおお!?」

 メイド服の千瀬に首を絞められる快感に、至福の笑みを浮かべる紺乃だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る