第4-6話 科学研究部(6)
「で、貴様は何をしにきたのだ?」
「いじわるに決まってるじゃないですか。具体的には頑張って勧誘した部員を奪いに来ましたの」
「はぁ、なんだそんなことか。どうぞどうぞ、勝手にやってくれ」
「うふふ、そうでしょう! 恐怖で顔が引きつるでしょうって……ええっ!? 驚かないの!? ほ、ほら、苦労して手に入れた部員がいなくなってしまうかもしれませんよ!? もっと唖然としてくださいまし!」
「第一印象を考えて物を喋れ。そんなアホみたいな衣装を着た怪しげなヤツの言うことを誰が真剣に耳を傾けるのだ……?」
「はっ!?」
愛結は顔を引き攣らせた。
「そ、それならば第二印象で勝負ですの! とりゃあ!」
愛結はバサッと衣装を脱ぎ捨て、下着姿になった。フリルの着いたピンク色の下着は可愛らしくもどこか高級感を放っている。
「第二ラウンド開始ですの!」
「レフィリーストップがかかりそうだぞ」
「そんな馬鹿な!」
愛結が後輩三人に視線を向けると。
「出会って数分もしないうちに脱衣って先輩としてどうなの……?」
「先輩以前に人としてアレよ。威厳の欠片もない変態に違いないわ」
「えー? わたしは普通のことだと思いますよー?」
「それはひなたちゃんが裸族だからだよ」
後輩からの評価はダダ落ちだった。
「しかし、みなさん、聞いてくださいまし! わたくしの部活は素晴らしいところ! たくさんの入部特典がございましてよ! 例えば、オカルト研では他の部活では到底体験できないような珍しい経験ができますの!」
「部員全員を未境の地に連れ回す地獄旅行のことか? 週一ペースで強制的に人外魔境に連れてった結果、大多数がトラウマを植え付けられて退部していったよな」
「さらに我がオカルト研究会では生徒会から支給される部費の他、我が実家! 黒洞院財閥からの独立会計を取得してありますの! ゆえに備品は最高級のものばかり! 心身ともに豊かな毎日を約束しますわ!」
「その利点を差し引いても心底嫌厭されてやまないんだよなあ」
「なにより最高の特典はこのパーフェクト素敵な美少女! 黒洞院愛結様に遣えることができることですの! これ以上の至福はありません!」
「はぁ、その超絶上から目線が皆の嫌を買ってぼっちになったことにまだ気づかないとは、愚かの一言に尽きるな」
「……さっきから外野がうるさいですの。大体あなただってぼっちでしょうに」
「私はぼっちではない。友達がいないだけだ」
「それをぼっちと言うんですのよ!?」
上級生の二人は視線で火花を散らしてみせた。
「ふふふ、これはとうとう雌雄を決するときが来たようですね。お三方の入部を賭けて勝負を申し込みますわ!」
「トコトンお粗末な頭をしているな。人様の権利を勝手に賭けられるはずがないだろう。なあ、くるくるガールよ」
「許可します」
「くるくるガール!?」
ナチュラルに肯定されて彼方はたじろいだ。
「本当にいいのか!? 妙な抗争に巻き込まれるのだぞ!?」
「面白そうです」
「満面の笑顔!? 自分のことなんだぞ!? ほら友人たちも黙ってないで説得したほうが……って、なんで本を読んでるのだ!?」
後輩陣に目を向けてみると千瀬は我関せずにライトノベルを読んでいた。他人事には一切興味がないのか、完全に傍観モードである。紺乃はひなたに何をいっても無駄だと諦めているのか、固まった笑顔を彼方に向けるだけだった。
「ま、まあ、本人がよしとするならば否定する材料はないが……私の参加は別だぞ。どうせ貴様のことだ。くだらない罰ゲームを考えているのだろう」
「当然ですの。今回は飛び切り屈辱的な罰ゲームを用意しましてよ。ずばり、勝者の部活のPR活動をさせますの」
「PR活動って……要するにビラ配りか? 対抗部の宣伝活動を強要されるのは確かに屈辱的だが、思ったほどひどくはないな」
「わたくしがその程度の浅慮な責めで満足するとでも? 格好はノーパンノーブラミニスカート。場所は放課後の校門前なんて……刺激的ですよね?」
愛結が淫らに口元を歪めると、彼方の頬が真っ赤に染まった。
「な、なァ!? 貴様はバカか!? ノーブラノーパンなんて完全に痴女ではないか! 人前でそんな恥ずかしい真似できるわけないだろう!?」
「すでに痴女の格好をしていることは置いておきましょう。あら、かの遠野彼方ともあろう方が勝負を前に逃走ですか?」
「勝ち負け以前に倫理の問題だ! お前にはモラルというものがないのか!」
「裸白衣って道徳を説ける姿なのですね。……倫理も何も勝てばいいだけですのに。彼方は負け犬ですわ」
「なんとでも言え! 巷ではマッドサイエンティストと好き放題言われているが、変態の汚名だけは断じて蒙るわけにはいかん!」
「はぁ……せっかくの盛り上がりを台無しにするなんて。そんな風に協調性がないからいつまで経ってもぼっちなんじゃありませんのー?」
「それは挑発のつもりか? こちとら何年友達がいないと思っているのだ。今更どう突かれようがまったく堪えはしないわ。浅はか、浅はか。その程度の口先では何年経っても私を怒らせることなどできな」
「貧乳」
「――アァ?」
瞬間、彼方の眉根に強烈な皺が刻まれた。
「あ……いやいや! 私は怒ってなどいないぞ? 胸のことなどまったく気にしていないのだからな。憤る理由など毛ほどもない。いやー、全然効かないなあー」
「今更平静を取り繕うなんて、さすがAカップは感性が違いましてよ」
「つ……強がりではないぞ……? 腕が震えているのは……ただの武者震いだ。貴様の首を縊り殺したいと疼いているわけではないんだからな……?」
「あー、貧乳と話していると肩が凝りますわー。もうちょっと胸が小さかったらマシになりますのにー。いやー胸が大きいと損ですわねー」
「ナニモ気ニシテイナイノダカラナァ……」
愛結は下着姿のまま豊満な胸を揺らして挑発を繰り返す。そして、最後のひと押しと言わんばかりに彼方の近くへ歩み寄り、
「そういえば、わたくし探しものをしてましたの! えっと、まな板。どこかに断崖絶壁のまな板はありませんかね、って……あっ! ありましてよ!」
愛結は間近でじろじろと彼方の胸囲を観察した後、
「ぷっ、凄く使いやすそうなまな板ですね、これ!」
心底馬鹿にしたような表情でそう嘲笑った。
――ぶちん、と何かが切れる音がした。
「うなああああああああッ!!! いい加減にしろおおおおおおおッ!!!」
彼方は勢いよく立ち上がり、憤怒の形相で絶叫した。
「私の胸をいじめるなァ! 私の胸はひかえめなだけだァ! 貧乳ではないんだあああああッ!! たとえ貧乳であっても何が悪い!? 世の中胸の大きさで人の価値を測るなんておかしいだるぉおおん!? 牛乳飲んでも巷で流行る豊胸術を試してみても全然膨らまないんだぞ!? 私の何が悪い!? クソォォ! 胸、なんで、膨らまない!? こんなの絶対おかしいよ! うわあああああああああああん!!」
彼方は机に突っ伏してオイオイと泣き始めた。
「うじうじしていると胸が縮みましてよ?」
「これ以上縮まないやいッ!!」
目じりを緩めて嘲笑う愛結に、彼方は怨念籠った形相で歯ぎしりをする。
「いいだろう、その喧嘩買ってやるッ! 私のコンプレックスを突いた罰だ……公開処刑してやる……! とことん辱めてやるからなッ!?」
「そうこなくては挑発した甲斐がありません。そちらこそ、その貧相な体を大衆の目に晒されることを楽しみにしておきなさい」
「胸を指さすなァ!!」
泣き腫らした目で、愛結の指を払う彼方。剣難な雰囲気でバチバチと火花を散らす二人を前に、一部始終を観劇していたひなたはにこりと微笑んだ。
「う~ん、宿敵との闘いって、なんだか燃えますねっ!」
「自分も今まさに渦中にいるんだからね!?」
天然少女は「ふえ?」と首を傾げたのだった。
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