第4-5話 科学研究部(5)

「私はもう入部するって決めたけど、ひなたちゃんはどうするの?」

「そうですねー」

 ひなたは唇に指先を当てて、興奮の灯った瞳で彼方をちらりと見た。

「かなちゃん、科学部の技術でわたしの腕を六本に増やせますか?」

「何を言っているのだ!?」

「足を八本に増やす、背中にかっこいい羽を生やすでも可です」

「未来技術じゃないのだぞ! できるわけがないだろう!」

「そうですかー……」

「部室前で言ってたこと本心だったんだね……」

 ひなたは残念そうに顔を曇らせた。

「でも、まあ、入っていいですよ。全身魔改造できないのは残念ですけど、他に入りたい部活もありませんし。でも……やっぱり千瀬ちゃんは駄目ですよね」

「あたしも入ってもいいわよ」

 千瀬はソファに座ったまま手を挙げた。

「もう全部読み終えたのですか?」

「粗読だけどね。流し見して信用できるのは分かった。活動内容はともかく、日誌自体は凄く律儀につけられてたし。この部活なら入ってもいいわよ」

「ふえー、千瀬ちゃんが珍しいですね。いつもならミリ単位でもリスクがあったら全力逃避ですのに。素っ気ない態度を取りつつも彼方さんの話に心動かされていたのですか?」

「え? あ……うん? まあ、そういうことかしら?」

「違うよ、ひなたちゃん。この学校は全員入部制で、どの生徒も一定期間内に全員部活に入らないといけないよね。でも基本個人活動派の千瀬ちゃんは本格的に活動している部には絶対入りたくないと思っている。なら多少リスクがあっても放課後の自由時間を確実に確保できる部活に入ったほうがいいと合理的な判断をしたんだよ」

「なんでそういうとこだけ鋭いかな……」

完全に図星だったのか、千瀬は苦笑いを浮かべた。

「ま、そういうわけ。幽霊部員で構わないなら籍を貸すわよ」

「おお、そうか。いやはや、本来なら他の部活を見比べて決めてもらうべきなのだが……実のところ、私も切羽詰っていて背に腹は代えられない状態なのだ。すまないが、お言葉に甘えさせてもらっていいだろうか……?」

「もちろんです!」

 新入生の手前、先輩風を吹かせて取り繕っていたところもあったのだろう。彼方はうるうると涙を浮かべながら頭を下げた。

「じゃあ、ちゃっちゃと入部届を書いちゃいましょ――」


「ちょっと待つですのーーッ!!」


 その時、ドバンと強烈な音を立てて科学部のドアが開いた。 

「きらりん☆ ミラクル美少女☆ 黒洞院こくどういん愛結あゆ様、登場ですの☆」

 現れたのは全体的にピンクを基調とした魔法少女衣装に身を包んだ一人の女性だった。

まるで西洋のお嬢様のような少女だった。ゆるふわロングの金髪に、スカイブルーの混じった瞳。手入れの行き届いたきめ細かく白い肌に、桃色の唇。首にはアクセサリの革製チョーカーが結ばれている。

 彼女は大きく盛り上がった胸を揺らしながら、びしっと魔法ステッキを彼方に突き付けた。その眼差しは飼い主の反応をうずうずと待つ飼い猫のようだった。

「かなちゃん、知り合いですか?」

「知らない人だ」

「凄いドヤ顔でかなちゃんのこと見てますけど」

「知らん。河川敷で暮らす世捨て人が春風に吹かれて迷い込んできたに違いない」

「ホームレスではありませんの!」

 魔法少女衣装の美少女は頬を膨らませた。

「よく見たら昼間に中庭で言い合ってた人じゃないですか?」

「……ちっ、バレたか。非常に残念だが、幼馴染みだ。昔からの腐れ縁で、私を目の敵にしてる厄介なヤツでな。私が科学研の部長になったのを知ってか、オカルト研という対抗部を作って、毎度毎度横槍を入れてくる腐れゴミ虫なのだ」

「あら、いい恨み顔。彼方の憎悪に満ちた表情が見れて、わたくしは感無量ですの!」

愛結は満足げに口元を歪めてみせた。

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