第4-4話 科学研究部(4)

「しかしだ、すぐにでも問題解決に取り掛ってやりたいのだが……申し訳ないのだが、少しの間だけ待って貰えないだろうか?」

「ふぇ、なんでですか?」

「恥ずかしい話なのだが、実は現在部員数が足りずに生徒会から廃部宣告を受けているのだ。元々日陰の部活だと自覚はしていたのだが……いかんせん、今年は新入部員がいなくてな。今も何か宣伝できないかと四苦八苦していたところなのだ」

 彼方は肩を落とした。

「なにせ先代から信頼を受けて継がせて貰った部活だ。いかにしても人を集めて残していかなければならないのだが……どうも私にはその手の才能がないらしい。今日も校庭でPR活動を行っていたのだが、失敗してしまってな。そのこともあって、これから一週間ほどは部員募集に専念するつもりなのだ。済まないが、この件はそれまで待ってくれないだろうか? それ以降ならいくらでも話を聞くのだが……」

「そんなに大切な部活なのですか?」

「……先代に恩があるのだ。どうも私は世間と比べると変わっているみたいでな。クラスの女子からいじめられていたところを助けて貰ったのだ。その上に、浮いていた私の面倒をずっと見てくれて……本当に感謝しているのだ。ここで部室を潰してしまっては、先代に顔向けができない」

「そうだったのですか……」

 彼方の話に共感したのか、ひなたは悲しそうな表情を浮かべている。千瀬は同情してはいるものの、そこまで強い関心を示していないようだ。そして、

「感動したんだよ……っ!」

号泣している巨乳が一人。紺乃は大粒の涙をぼろぼろと零して大きく頷いている。

「そんな事情があっただなんて……! そうとなれば人助け! 私たちが入部するんだよ!」

「え、いや、勧誘したつもりはなかったのだが。そもそも今期の部員が少ないのも昔強引に入部させた部員が辞めていったのが原因だし。今回は純粋に興味を持つ人を集めようと考えていたのだが……」

「いいんです! 私は強烈に胸を撃たれたんだよ! 私たち三人全員、雁首揃えて入部するんだ――ぶぎゅぅ!?」

「勝手に決めるなクソ巨乳」

 紺乃の首筋に延髄チョップが突き刺さった。

「なんで止めるのよ、千瀬ちゃん! 私たち三人が入ればちょうど規定の人数に達するんだよ! 今の話を聞いて協力したいって気持ちが起きないなんて……千瀬ちゃんは血も涙もないんだよ!」

「血も涙もなくて結構。あたしはあたしの日常が一番大切なの。非日常のドラマティックな展開なんてラノベの中だけで十分よ。誰が好き好んで火中に栗を拾いにいくのか。いやいかない。反語。大体部活に入ったらアニメが見れなくなるじゃない。あたしは束縛の少ない部活に入るつもりなんだから」

「ん? うちの部は基本的に参加自由だぞ?」

「へ?」

 千瀬は目を丸くした。

「ははーん、分かったわ。甘い言葉を囁いて勧誘しようって魂胆でしょ? その手には乗らないから。大体、あたしはこういう胡散臭い組織が一番大嫌いなの。どうせ生徒会の申請が甘いのをいいことにめちゃくちゃしてるんでしょ。募集要項と実務内容が違うなんて当たり前、新入部員に時代遅れの古い価値観を押し付けたり、立場の差を利用して理不尽な命令を正当化したり。残業が月百時間以上あったり、命令だけして進捗管理すらしない無能上司が幅を利かせていたり」

「社会への疑念が深すぎないか!? 確かに生徒会の審査はガバガバだが、それに託けてあくどい真似をするほど私は倫理観を喪失してないぞ!?」

「へー」

「その昆虫の死骸を見るような疑心に満ちた目はなんだ!? ほら、向こうの棚に歴代の活動日誌がある。疑うのなら自由に見るがいい!」

「ま、見るだけならね」

 彼方の指差す机の棚を開いて、千瀬は日誌を捲り始めた。

「ごめんなさい。千瀬ちゃんは超保守派だから。口は悪いけど本当はとてもいい人なんだよ」

「気にしてないぞ。……ほんと、言われ慣れているから」

 彼方は儚げな笑みを返した。

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