第4-1話 科学研究部(1)
「ひなたちゃん、本当に行くんだよ?」
放課後、三人は部活棟の二階にやってきていた。
三階へと続く階段を前にして、紺乃は肩を震わせている。両腕に挟まれた大きな胸も恐怖に揺れている。
「もちろんです」
ひなたは意気揚々と声を挙げた。
「わたし、考えたのです。なぜ昨夜の作戦が失敗したのか。これまでの斬新性がありませんでした。だから、あの頭の良さそうな人たちの知識をお借りして素敵な作戦を考えて貰うのです!」
「そもそも恋愛の作戦に斬新さは必要なのかしら」
千瀬は肩にかかった髪を手で払いながら、億劫そうにぼやいた。彼女の視線は上り階段へと向けられている。これから向かうのは、『魔物が住む』と噂される文化系部活棟三階である。学園に存在する変人たちが集まって日夜怪しげなことをしている、常識人なら忌避して病まない悪魔の空間。……千瀬は露骨に顔を顰めてみせた。
「やだなあ、絶対に嫌な予感がする。ねえ、紺乃。あたし帰っていい?」
「ダメ! 私一人でひなたちゃんの面倒が見れるわけないんだよ!?」
「むっ、心外ですねー。わたし、紺乃ちゃんに迷惑をかけるほど落ちぶれちゃいないで――あ、ひゃぅん!?」
階段を登る最中に振り向いたひなたは、段差を踏み損ねて体勢を崩した。危うげな態勢で倒れてくるひなたを、紺乃は慌てて体で受け止める。
「……さっそくお世話になってるよね?」
「おっぱいクッションがなかったら即死でした」
「私の胸をなんだと思ってるのかな!?」
紺乃はとっさに豊満な胸を両腕で隠した。湧き起こる感情のまま行動するひなたに比べて、紺乃は幾分か理性的に行動できる。しかし他人に気を配り続けられるだけの余裕があるわけではない。ひなたの挙動に対応するだけで一杯一杯なのである。そんな彼女がひなたとともに無法地帯に足を踏み入れたらどうなるか……千瀬は大きなため息をついた。
「はぁ、仕方ない。私もついていく。ところで、ひなた。昼間の騒動って部活が二つあったみたいだけど、どっちに行くつもりなの?」
「科学部に決まってるじゃないですか!」
「そりゃなんで?」
「科学って響きがとてもかっこいいからです!」
紺乃と千瀬はお互い顔を見合わせ、諦めたように首を振った。
「……ま、いいわ。付き合いも長いし。どうせ反論しても言うこと聞かないんでしょ。ほら、さっさと行きましょ」
千瀬に引導されるように三人は階段を登り、そそくさと廊下を歩いていく。途中、教室から聞こえてくる不気味な笑い声や喧騒をできる限り無視しながら通りすぎ、部活棟三階の一番奥の部屋までやってきた。手前の扉には科学研究部と達筆にしたためられた看板が、奥の扉の上にはややファンシーな丸文字でオカルト研究部と書かれた看板が掲げられている。どうやら科学研とオカルト研は一つの部室を二つに分けて使用しているようだ。
「面倒事はとっとと終わらせるに限るわ。科学部に入るわよ」
言いつつ、千瀬が引き戸に指をかけたその時、
――ぎゃぎゃぎゅぎょぎょぎょおおおおおおおん!!
扉の奥からいかにも怪しげな機械音が響き渡った。
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